大著『ミシェル・フーコー伝』（新潮社）を書いたディディエ・エリボンが、遠慮することなく質問を浴びせ、自己を語ることの少なかったレヴィ=ストロースがそれに答えた本書は、これ以上ない＜レヴィ=ストロース入門＞だ。
（１）わが人生、（２）わが研究、（３）文化論、を語り尽くした本書からは率直な声が伝わってくる。
（１）では、レヴィ=ストロースの人生の足取りが語られる。そのなかで触れ合った人びとについての評もおもしろい。
・シモーヌ・ヴェーユ――《彼女の剃刀の刃のような考え方にはついていけませんでした。彼女にとっては、ものごとはいつもオール・オア・ナッシングでした》
・フェルナン・ブローデル――《善良で、繊細で、そして寛大な人間でした。いざというときには彼は全面的に信頼できる人でした》
・サルトル――《どんな優れた知性でも、歴史を予言し、……歴史のなかで一つの役割を演じようとすれば支離滅裂なことになってしまう……典型的な例なのです》
もちろん、こうした雑談めいた人物評は刺身のツマで、（１）から（２）にかけては、彼の思想の根源が明かされる。
・構造分析について。
《全体を構成する要素はそれに内在する意味を持っているのではなく、その意味は全体の中での位置から生まれるものである、という基本原理》
例：日本語は蝶と蛾を区別するが、その区別のないフランス語の“papillon”（パピヨン）は「蝶」「蛾」とは意味が違う。
・構造分析は万能ではない。
《すべてが構造分析で理解できるなどと思ったことは決してありません。……無秩序が支配しているこの大きなスープ皿のなかでは、あちこちに小さな秩序の島が形造られていると思うのです。私の個人史と私の学問的選択が、……これらの秩序の島に……関心を持たせたということ》
・『野生の思考』について。
《私が言いたかったことは、未開といわれる民族の思考と我々の思考との間には断絶はない、ということでした》
（３）では、彼の愛好する絵画、音楽、文学などが語られるが、あの長大な『神話論理』が「無」で閉じられていることに関して、こう語っている。
《私が言っているのは、……この地球というものもいずれは存在しなくなるだろうということ、そしてその時には、人間が作りだしたすべてが消えて何も残らないだろうということを十分知ったうえで、それでも生活し、働き、考え、努力しなければならない、ということなのです》
レヴィ=ストロースの本にしては訳文もこなれているので、彼の考え方（パンセ）と精神（エスプリ）の基本型がとてもよく理解できる。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
この商品を見た後に買っているのは？
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
