この本は2008年に91歳で亡くなったジェリー・ウィクスラーが93年に自伝として出したものの翻訳版です。
ジェリーやその周辺の人物のコメントを、数多の音楽系偉人の自伝を手掛けた、
デイヴィッド・リッツが取りまとめて出版したものです。
タイトルは彼がビルボードに勤めていた駆け出し時代、黒人音楽=レイス・ミュージック(Raceとは人種のこと)
と呼ばれていたもの、そのチャートを「リズム&ブルース」と命名した事に依ります。
彼はその後、やや年下の旧友アーメット・アーティガンが興したアトランティック・レコードに株を譲るよう押しかける形で参画。
アーメットなどと共に多数のヒットを作り(作者としても多数のクレジットがあります)、売り、
アトランティックを一大レーベルにした後、ワーナーへ経営権を売り、一重要社員として、引き続き参加。
が、最終的には彼はアーメットの推し進めたポップ路線、ロック路線とは一線を画し、
自分が最も気に入ったマッスル・ショールズ系ミュージシャンとの作業に没頭。そして70年代半ばには退社。
その後は、ワーナー本体のアーティストのプロデュースなどもしました(ダイアー・ストレイツ、サンフォード&タウンゼンドなど)
大まかに言えば、親友であり最終的には袂を分かつ事になる、アーメット・アーティガンに比べると、
キャリアの終わりはパーソナルな音楽を作る事でやや地味に終えた彼ですが、
だからこそ、その大物でありながら、ただの成功物語ではない自伝が読んでいて個人的には楽しめました。
以下、個人的に面白いなと思った部分を掻い摘んで。
「自分が音楽の技術的なところにおいて、さしたるものではなかったと特に強調しているところ」
ジェリーは50年代、60年代のアトランティックのヒット曲においていくつもアーメットなどとクレジットに載っているものの、
彼はあくまで自分は音楽的な技術、知識は持っていなかった。楽器も弾けなかったと言っています。
実際、彼は奏者ではなかったのでしょうが、自伝にありがちな自分の成果をあまり主張していないのは新鮮に感じました。
「記憶力の素晴らしさ」
序盤のある程度年を行くまでの無キャリア時の振り返りにおけるジャズを筆頭とするオールドミュージックとその逸話。
あるいは、自身が手掛けた数多の作品におけるバック・ミュージシャンとのエピソード。
直接自身が関わった作品でないアーティストのアルバムについてのコメント(後述のアリフやトムのプロデュース盤の事も詳細に触れている)
彼が愛したマッスル・ショールズ系のミュージシャンを起用していない録音でもミュージシャン名が必ず紹介されている事。
(時折、マッスル系ではなく、NYなどのフュージョン系ミュージシャンが起用された作品もあるが、それも名前は必ず出している)
白人作家チーム(キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン、バリー・マン&シンシア・ウェイルなど)の曲を歌わせた場合でも、
どの曲が誰の曲であるかなどの注釈が全て文章上に載っている事(恐らく本人がOOのXXと紹介していたのでしょう)
とにかく、彼がいかに様々な音楽を愛し、聴き、記憶し、またその記憶からプロデュースに結びつけていたかが解ります。
「数多くの大物とのエピソード」
ジェリーがプロデュースしたアーティストは、黒人ではレイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ウィルソン・ピケット、ダニー・ハサウェイ、
白人では、ダスティ・スプリングフィールド、シェール、デラニー&ボニー、ドクター・ジョン、ウィリー・ネルソン、ボブ・ディラン・・・
この面々だけでも大物ですが、彼がアトランティックを経営していた時代には、トム・ダウド、アリフ・マーディンがスタッフとして下におり、
尚且つ、フィル・スペクターも一時期いた。
大物スターの裏側だけでなく、フィル、アリフ、トムなどの後に超大物プロデューサーとなる人物の若かりしき頃のエピソードも、
実に空気感が読み取れ、楽しめます。
あるいは、自身のスタッフではなく、ライバルであったデイヴィッド・ゴフィン(アサイラム=ジャクソン・ブラウンなどが所属したレーベル)や
クライヴ・デイヴィス(アリスタ=黒人音楽のポップ化に一役買った売れ線レーベル)とのエピソードの振り返りには、
こういった大物同士が意外と個人的に交流していたんだなと不思議に感じる事もありました。
ジェリーはユダヤ系の白人でありながら、黒人音楽を強く愛し、彼らの音楽における市民権確立に大きな力を発揮した。
その後、70年代序盤にローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンなどが取り入れ一世を風靡したスワンプロックのメッカである、
マッスル・ショールズの面々を愛し、彼らと多くの作品を作った。
改めて、ジェリーは多面体な存在であり、それでいてただの売れ線には走らずに自分にとっての「グッド・ミュージック」
をいくつになっても追求していたんだなと感じました。
この本は、タイトルこそ「R&B」と黒人音楽=ソウルを中心とした音楽を売った、ヒットさせた男の自伝に思えますが、
中身は、彼が黒人音楽と黒人音楽に強い影響を受けた白人音楽=スワンプ(と定義すると狭すぎると思えば、
マッスル・ショールズやメンフィスの音楽)をいかに愛していたかということを、伝えている自伝です。
ですので、ソウル、R&Bファンだけでなく、むしろロックファンの方にも読んで楽しめる本に仕上がっているのではないかと感じます。
成功物語とはまた少し違う、幸せなプロデューサーとして一生を終えた大物の一生をほんの少し覗き見させてもらえる楽しい本でした。
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私自身はジェリーの事を黒人と思い込んでいた程度の「名前は知っているレベル」の知識から入りましたが、
彼が白人であり、ソウルとスワンプどちらでも大物として名を馳せた人物だとこの本で初めて知りました。
スワンプロック、マッスル・ショールズ系の音が好きだったにも関わらず、それを今まで知る事が出来なかった事をつい恥じました。
ただ、それくらい彼は自己主張ではなくアーティストの力を引き出すプロデュースだったということかもしれません。
改めて彼の偉大な軌跡をこれからも学びたいと思いました。
最後に、彼が後にプロデュースしたアーティストでもあるトニー・ジョー・ホワイト作の名曲、
「Rainy Night In Georgia」はスワンプの名曲であり、ソウルの大ヒット曲(ブルック・ベントンによる)であり、レイ・チャールズもカバーした。
この曲が何故黒人にはソウルフルに、白人にはブルージーに歌われているのか、前々から不思議でしたが、
何の事はなく、彼が一枚関わっていたからなのだと本の最後に触れられていた時、
全ての音が一つに繋がったように感じました。今後は偉大なジェリー・ウェクスラー氏を思いながら、この曲を聴いていきたいと思います。
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私はリズム&ブルースを創った ―― 〈ソウルのゴッドファーザー〉自伝 単行本 – 2014/5/24
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購入オプションとあわせ買い
ジョー・ターナー、レイ・チャールズ、ソロモン・バーク、ウィルソン・ピケット、アレサ・フランクリン、ダニー・ハサウェイ、
ドクター・ジョン、ウィリー・ネルソン、エタ・ジェームズ、ボブ・ディラン――
リズム&ブルースの名付け親として、また、1950年代から60年代、アトランティック・レコードの経営者として、
R&B/ソウルをポピュラー音楽のメインストリームへ押し上げ、〈ソウル・ミュージックのゴッドファーザー〉と呼ばれた稀代の名プロデューサーの自伝。
ブラックミュージック・ファン必読の名著、待望の翻訳刊行!
「音楽業界にはこれまで、優秀なプロデューサー、口八丁の宣伝マン、老獪なビジネスマンならいた。
だがそのすべてを兼ね備えていたのはジェリー・ウェクスラーただ一人。誰も彼より上手くはやれなかった」
(『ローリング・ストーン』)
「ウェクスラーは、近代レコード・プロデューサーの役割を定義した者にほかならない。
レイ・チャールズやアレサ・フランクリンといったアーティストをなだめすかし、その独創的な見方に普遍的な声を付与させるには、
ひとなみ外れた狡猾さが必要だった。ウェクスラー氏が紡ぐ話はじつに興味深い。
本書には名声不朽の音楽人たちにまつわる、涎が出そうなほどそそられる逸話が満載だ」
(『ニューヨーク・タイムズ・ブック・レヴュー』)
「読み応え満点。こんなにも活き活きと描かれた音楽史には、めったに出会えない」
(『カーカス・レヴューズ』)
黒人音楽への飽くなき情熱、批評性と大衆性を併せ持った耳、アーティストの才能を見きわめる独特の嗅覚に加え、ウェクスラーはタフでシビアなビジネスマンでもあった。
詐欺や賄賂、買収や引き抜きに明けくれる業界のまっただなかで、天使の歌声と悪魔の素顔をもつ幾多のアーティストを切り盛りしてきた。
でもまだ業界全体が若々しく、夢と可能性に満ちあふれ、一夜にして奇跡のような成功がもたらされるかもしれない素地があった。
そんな黄金時代をになったシンガー、ミュージシャン、プロデューサー、オーナー、プロモーター、スカウトマン、DJたちの生々しい群像を描き出す。
20世紀のアメリカ音楽史をめぐる、第一級のドキュメント!
ラルフ・J・グリーソン音楽書賞受賞。
ドクター・ジョン、ウィリー・ネルソン、エタ・ジェームズ、ボブ・ディラン――
リズム&ブルースの名付け親として、また、1950年代から60年代、アトランティック・レコードの経営者として、
R&B/ソウルをポピュラー音楽のメインストリームへ押し上げ、〈ソウル・ミュージックのゴッドファーザー〉と呼ばれた稀代の名プロデューサーの自伝。
ブラックミュージック・ファン必読の名著、待望の翻訳刊行!
「音楽業界にはこれまで、優秀なプロデューサー、口八丁の宣伝マン、老獪なビジネスマンならいた。
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(『ローリング・ストーン』)
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本書には名声不朽の音楽人たちにまつわる、涎が出そうなほどそそられる逸話が満載だ」
(『ニューヨーク・タイムズ・ブック・レヴュー』)
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(『カーカス・レヴューズ』)
黒人音楽への飽くなき情熱、批評性と大衆性を併せ持った耳、アーティストの才能を見きわめる独特の嗅覚に加え、ウェクスラーはタフでシビアなビジネスマンでもあった。
詐欺や賄賂、買収や引き抜きに明けくれる業界のまっただなかで、天使の歌声と悪魔の素顔をもつ幾多のアーティストを切り盛りしてきた。
でもまだ業界全体が若々しく、夢と可能性に満ちあふれ、一夜にして奇跡のような成功がもたらされるかもしれない素地があった。
そんな黄金時代をになったシンガー、ミュージシャン、プロデューサー、オーナー、プロモーター、スカウトマン、DJたちの生々しい群像を描き出す。
20世紀のアメリカ音楽史をめぐる、第一級のドキュメント!
ラルフ・J・グリーソン音楽書賞受賞。
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2014/5/24
- ISBN-104622078317
- ISBN-13978-4622078319
商品の説明
出版社からのコメント
著者について
ジェリー・ウェクスラー
Jerry Wexler
1917-2008。ニューヨークに生まれる。父親はポーランド移民のユダヤ人。カンザス州立大学在学中に第二次世界大戦に従軍。1949年までにニューヨークに戻り、『ビルボード』誌で働く。
それまで「レイス・レコード」と呼ばれていた黒人音楽のジャンルを「リズム&ブルース」と命名する。1953年、当時はまだ小さなインディペンデント・レーベルだったアトランティック・レコードに、取締役として入社。
以来、50-60年代を通じてレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンをはじめ数々のスターを育て、R & B/ソウルをポピュラー音楽のメインストリームへ押し上げる。とりわけ、メンフィスやマッスル・ショールズといった南部のスタジオへアーティストを送り込み、重く深くゴスペル・ルーツにあふれる独自の“サザン・ソウル"を築きあげた。
70年代にはドクター・ジョン、ウィリー・ネルソンなど、南部色の強いロックやカントリーも手がける。1975年にアトランティックを退社。フリーのプロデューサーとしてボブ・ディラン、エタ・ジェームズなどを手がけた。1987年、ロックの殿堂入り。心臓疾患のため91歳で死去。
デヴィッド・リッツ
David Ritz
1943-。小説家、音楽ジャーナリスト、伝記作家。
レイ・チャールズ、マーヴィン・ゲイ、ネヴィル・ブラザース、B. B. キング、エタ・ジェームズ、アレサ・フランクリンなどの伝記を手がける。
Jerry Wexler
1917-2008。ニューヨークに生まれる。父親はポーランド移民のユダヤ人。カンザス州立大学在学中に第二次世界大戦に従軍。1949年までにニューヨークに戻り、『ビルボード』誌で働く。
それまで「レイス・レコード」と呼ばれていた黒人音楽のジャンルを「リズム&ブルース」と命名する。1953年、当時はまだ小さなインディペンデント・レーベルだったアトランティック・レコードに、取締役として入社。
以来、50-60年代を通じてレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンをはじめ数々のスターを育て、R & B/ソウルをポピュラー音楽のメインストリームへ押し上げる。とりわけ、メンフィスやマッスル・ショールズといった南部のスタジオへアーティストを送り込み、重く深くゴスペル・ルーツにあふれる独自の“サザン・ソウル"を築きあげた。
70年代にはドクター・ジョン、ウィリー・ネルソンなど、南部色の強いロックやカントリーも手がける。1975年にアトランティックを退社。フリーのプロデューサーとしてボブ・ディラン、エタ・ジェームズなどを手がけた。1987年、ロックの殿堂入り。心臓疾患のため91歳で死去。
デヴィッド・リッツ
David Ritz
1943-。小説家、音楽ジャーナリスト、伝記作家。
レイ・チャールズ、マーヴィン・ゲイ、ネヴィル・ブラザース、B. B. キング、エタ・ジェームズ、アレサ・フランクリンなどの伝記を手がける。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2014/5/24)
- 発売日 : 2014/5/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 368ページ
- ISBN-10 : 4622078317
- ISBN-13 : 978-4622078319
- Amazon 売れ筋ランキング: - 937,654位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 84,971位エンターテイメント (本)
- カスタマーレビュー:
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