いつもの池内さんの筆ではない。まるでそこで立ち止まって故人に深く思いを馳せているように、ところどころで言葉がポキリ、ポキリと折れる。折れた言葉と言葉の間にある目もくらむ深さを想像してしまう。
米原真理さんへのレクイエムは2009年1月号の『ユリイカ』米原真理特集に寄稿したものだ。
とりわけ泣けたのは、個人的に二度ほどお見かけしたことがある北原亞以子さんへの追悼文だった。
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死の四日前の早朝に、珍しく電話があった。
「もうセンセイの言うことなど、きいてやんナイ」
いつもの明るい、甘えたような口調だった。医者の言うことをきいて、少しぐらい長く生きても、なんにもいいことはない。ベッドで仕事をする。おいしいものも食べるの。
「ボクもそうすると思いますよ」
「ホラね、そう言うと思ってた」
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少女のようなひとだった。
一度目はちょっとした作業を済ませた後で、ご自宅で紅茶をいただいた。小説家であることは知っていたが、どうしても言い出すことができなかった。北原さんもそんなことはおくびにも出さず、目を細めて作業を見ていた。
二度目は地元のジャズバーだった。来日した高名な老ジャズピアニストが、この街の小さなバーで演奏をしたのである。終わった後でCDにサインをもらう列に北原さんも並んでいた。ほほを紅潮させ、サインが書かれたCDを胸に抱えて飛び上がるように喜んでいた。あれは1996年ごろだっただろうか。
西江雅之さんの章も泣けた。
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膵臓ガンのことも”しもおれ“で聞いた。
「なんだ、先にいっちゃうのか」「死んだらゴミだからね」「まあ、そういうこと。でも、さみしくなるなァ」そんなやりとりをした。
むろん、そのときはまだ、そのさみしさがどんなに深いものか、まるでわかっていなかった。
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亡き人へのレクイエム 単行本 – 2016/4/20
池内 紀
(著)
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したしかった人、何度か会っただけなのに忘れがたい人、本を通して会った人。
出会いのかたちはそれぞれ、でもずっと大切な存在である人々について、
時代と生活に思いを馳せながら、歩いたあとを辿るように書く。
各紙誌等に発表した文章を大幅に再構成・加筆修正した27編に、
エッセイ「死について」を付す。
本書で会えるのは、種村季弘、森﨑秋雄、須賀敦子、松井邦雄、西江雅之、
米原万里、澁澤龍彥、大江満雄、丸山薫、菅原克己、高峰秀子、野呂邦暢ほかの28人。
出会いのかたちはそれぞれ、でもずっと大切な存在である人々について、
時代と生活に思いを馳せながら、歩いたあとを辿るように書く。
各紙誌等に発表した文章を大幅に再構成・加筆修正した27編に、
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本書で会えるのは、種村季弘、森﨑秋雄、須賀敦子、松井邦雄、西江雅之、
米原万里、澁澤龍彥、大江満雄、丸山薫、菅原克己、高峰秀子、野呂邦暢ほかの28人。
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2016/4/20
- ISBN-104622079755
- ISBN-13978-4622079750
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商品の説明
著者について
池内紀
いけうち・おさむ
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト。
主な著書に『ゲーテさんこんばんは』(桑原武夫学芸賞)、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)、『二列目の人生』、『見知らぬオトカム――辻まことの肖像』、『恩地孝四郎』(読売文学賞)など。編注に森鷗外『椋鳥通信(上・中・下)』、訳書に『ファウスト』(毎日出版文化賞)、ケストナー『飛ぶ教室』など。山や旅、自然にまつわる本も、『森の紳士録』、『ニッポンの山里』など多数。
いけうち・おさむ
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト。
主な著書に『ゲーテさんこんばんは』(桑原武夫学芸賞)、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)、『二列目の人生』、『見知らぬオトカム――辻まことの肖像』、『恩地孝四郎』(読売文学賞)など。編注に森鷗外『椋鳥通信(上・中・下)』、訳書に『ファウスト』(毎日出版文化賞)、ケストナー『飛ぶ教室』など。山や旅、自然にまつわる本も、『森の紳士録』、『ニッポンの山里』など多数。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2016/4/20)
- 発売日 : 2016/4/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 272ページ
- ISBN-10 : 4622079755
- ISBN-13 : 978-4622079750
- Amazon 売れ筋ランキング: - 495,560位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 82,678位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
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2019年3月15日に日本でレビュー済み
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2019年7月8日に日本でレビュー済み
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また夫々の作家について更に読み進めていきたい。
2016年7月29日に日本でレビュー済み
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故人の内面をあたたかく掬い取り、読者にそっと手渡してくださるような、視点そのものに打たれて何回も読み返しています。
2016年5月7日に日本でレビュー済み
著者が人生で出会った人について綴った本だが、ただの回想録ではない。
まるで肖像画のように細やかだ。
米原万里、児玉清……こういった人たちが
まるでまだ生きているかのように繊細に描かれている。
ちょっと値段は高いが、一読してソンはない。
まるで肖像画のように細やかだ。
米原万里、児玉清……こういった人たちが
まるでまだ生きているかのように繊細に描かれている。
ちょっと値段は高いが、一読してソンはない。
2019年10月10日に日本でレビュー済み
ドイツ文学者・エッセイストの池内紀氏が8月30日に亡くなった。78歳。膨大な著作のほとんどに、私は接していないが、晩年の2つの仕事を読んで私は深く感銘を受けたので、残念でならない。ただ、近年次々と刊行された著作ラインナップを見ると、この数年間死への仕度をしてきたようにしか見えない。
森鴎外『椋鳥通信(上・中・下)』(2014-15)は、鴎外全集の中でも際物に扱われていた20世紀初頭の何処よりも速い西洋ゴシップ記事レポートを、あまりにも詳細な注解を付して立体的に提示したものだ。鴎外研究にも大きく与するはずだが、第1次世界大戦前のヨーロッパを、我々がインターネットで知るかのように見せてくれるという意味でとっても面白い著作だった。またその後に、しばらく絶版だった池内最初の訳書であるカール・クラウス『人類最期の日々(上・下)』(2016)も再発行された。正に第1次世界大戦下の、直ぐに勝利のうちに終わるだろうと思っていたドイツ国民を、政治家・庶民まるごと「同時進行で」劇化した大作である。これを留学生だった池内紀氏が翻訳し、そして現代に再度問うたことに、池内氏の企みがある。高価なこともあり、おそらくほとんど売れていないはずだが、これらの仕事は後世必ず評価されると思う。
そして今年は、亡くなる直前に『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』という現代日本を見据えた評論を出している。
文章の振り幅は、ドイツ文学に偏らず森羅万象に及び、現代日本については批判的で、正に日本を代表する知識人の一人だったと思う。
長い前振りだった。本書を紐解く。2016年発行。21世紀を迎えて以降の、様々な知り合いの追悼文や思い出話に、「死について」の短文を添えて書き遺している。森浩一、北原亞以子、森毅、小沢昭一、米原万里、児玉清、高峰秀子等々、私の知っている者だけさっと読んだが、長い間常連役をしていたラジオ番組「日曜喫茶室」への歯に衣を着せぬ批評など、辛口であることを意外に思った。けど、亡くなった人への評価は愛がありやさしい。そして自らの死期を悟って書いているのかまったく不明ではあるが、「自分の死を他人にゆだねない」と自らの尊厳と自由をかけて宣言している。思うに、根っからの西欧的知識人かつ自由人だった。
森鴎外『椋鳥通信(上・中・下)』(2014-15)は、鴎外全集の中でも際物に扱われていた20世紀初頭の何処よりも速い西洋ゴシップ記事レポートを、あまりにも詳細な注解を付して立体的に提示したものだ。鴎外研究にも大きく与するはずだが、第1次世界大戦前のヨーロッパを、我々がインターネットで知るかのように見せてくれるという意味でとっても面白い著作だった。またその後に、しばらく絶版だった池内最初の訳書であるカール・クラウス『人類最期の日々(上・下)』(2016)も再発行された。正に第1次世界大戦下の、直ぐに勝利のうちに終わるだろうと思っていたドイツ国民を、政治家・庶民まるごと「同時進行で」劇化した大作である。これを留学生だった池内紀氏が翻訳し、そして現代に再度問うたことに、池内氏の企みがある。高価なこともあり、おそらくほとんど売れていないはずだが、これらの仕事は後世必ず評価されると思う。
そして今年は、亡くなる直前に『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』という現代日本を見据えた評論を出している。
文章の振り幅は、ドイツ文学に偏らず森羅万象に及び、現代日本については批判的で、正に日本を代表する知識人の一人だったと思う。
長い前振りだった。本書を紐解く。2016年発行。21世紀を迎えて以降の、様々な知り合いの追悼文や思い出話に、「死について」の短文を添えて書き遺している。森浩一、北原亞以子、森毅、小沢昭一、米原万里、児玉清、高峰秀子等々、私の知っている者だけさっと読んだが、長い間常連役をしていたラジオ番組「日曜喫茶室」への歯に衣を着せぬ批評など、辛口であることを意外に思った。けど、亡くなった人への評価は愛がありやさしい。そして自らの死期を悟って書いているのかまったく不明ではあるが、「自分の死を他人にゆだねない」と自らの尊厳と自由をかけて宣言している。思うに、根っからの西欧的知識人かつ自由人だった。