今も「ただのまんじゅうさん」と呼び慕われる名君満仲、そして常人離れした豪傑たち頼光四天王を従え酒呑童子や土蜘蛛を退治した「らいこうさん」頼光。我々の多くは彼らを伝承の世界の中でしか知らない。少しその実像を知る機会は高校の日本史の授業。「安史の乱」を教えられた折に登場した満仲は、精錬潔白なる武家の当主などではなく、藤原摂関家の陰謀に関わる権力の走狗であった。はて源氏の始祖は英雄なのか陰険なる野心家か。
武門源氏は鎌倉・室町の武家政権を生み出し、中世後期には「征夷大将軍には源氏がなるべき」という社会通念を生み出した。学問・芸能・文学の世界では、源氏の始祖満仲・頼光には武家の棟梁たる正統性を紐づけるための虚構が紐づけられ、伝説的英雄として語られていった。「まんじゅうさん」「らいこうさん」はその所産と言えよう。本著はかかる虚構を排除し、摂関・院政期の日記・歌集・説話などから同時代に生きた等身大の満仲・頼光を浮かび上がらせたものである。
実像の満仲・頼光はかたや殺生を生業とする血生臭い武士、かたや任国で懐を肥やす受領と英雄的イメージからは遠く離れたものである。源氏ファンの方々には本著の提示する実像に拒絶的反応を示す方もおられるだろう。しかしながら真に源氏が好きならば彼らの実像を知り、彼らがどのような社会問題に直面しどう乗り越えていったかを知るべきであろう。そうしたメンタリティの源氏ファンの方々には是非一読をお勧めしたい。
なお、本著の低評価レビューにツッコミどころの多いものがあるので付言しておきたい。まず「民俗学的な視点の欠如」については本著は文献史学からの立場を取ったものであるから、他の本を買われるべきであろう。関幸彦さんの本を渉猟すればそうした欲求に応えてくれることと思う。
また「左翼的」という点については、むしろ本著はマルクス主義の唯物史観を乗り越え、武士を階級闘争の英雄ではなく、軍事貴族としてとらえている点で全く当てはまらない。レッテルとして左翼を用いられているように思われるが、当該期の武士研究は唯物史観によって単純な構図が生まれた一方で、相当研究が進められた点も事実である。読書家ならば「右左問わずたくさん本を読んで、知識を吸収してやろう」との気概で臨まれたし。
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源満仲・頼光:殺生放逸 朝家の守護 (ミネルヴァ日本評伝選) 単行本 – 2004/2/10
元木泰雄
(著)
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多田の所領に武力を蓄えながら、密告者という役回りを演じて摂関政治確立に奉仕した父満仲。
摂関政治全盛期に、一般貴族と同様、受領として道長に追従した嫡男頼光。対照的な父子を通して、当時の武士の実態に迫る。
【目次】
はじめに
第一章武門源氏の祖――経基
1武門源氏の成立
2経基と承平・天慶の乱
3乱後の経基
第二章満仲と安和の変
1満仲の登場
2安和の変
3満仲の暗躍
第三章満仲と多田
1満仲の出家
2所領と武力
3満仲の晩年
第四章頼光と摂関政治
1頼光の登場
2受領頼光
3道長側近
第五章武人頼光とその周辺
1頼光の武人伝説
2大和源氏頼親
3夷狄の平定
第六章摂津源氏の動向
1頼国と頼綱
2多田源氏の没落
3頼政と行綱
終章伝説の満仲・頼光像
参考文献
あとがき
源満仲・頼光略年譜
人名・事項索引
摂関政治全盛期に、一般貴族と同様、受領として道長に追従した嫡男頼光。対照的な父子を通して、当時の武士の実態に迫る。
【目次】
はじめに
第一章武門源氏の祖――経基
1武門源氏の成立
2経基と承平・天慶の乱
3乱後の経基
第二章満仲と安和の変
1満仲の登場
2安和の変
3満仲の暗躍
第三章満仲と多田
1満仲の出家
2所領と武力
3満仲の晩年
第四章頼光と摂関政治
1頼光の登場
2受領頼光
3道長側近
第五章武人頼光とその周辺
1頼光の武人伝説
2大和源氏頼親
3夷狄の平定
第六章摂津源氏の動向
1頼国と頼綱
2多田源氏の没落
3頼政と行綱
終章伝説の満仲・頼光像
参考文献
あとがき
源満仲・頼光略年譜
人名・事項索引
- 本の長さ252ページ
- 言語日本語
- 出版社ミネルヴァ書房
- 発売日2004/2/10
- ISBN-104623039676
- ISBN-13978-4623039678
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出版社より
蘇我氏四代:臣、罪を知らず | 桓武天皇:当年の費えといえども後世の頼り | 安倍晴明:陰陽の達者なり | 藤原道長:男は妻がらなり | 源義経―後代の佳名を貽す者か | 北畠親房:大日本は神国なり | |
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カスタマーレビュー |
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書籍紹介 | 渡来人か、開明派か、逆臣か。 飛鳥の大地に眠る蘇我氏の真実。 王権奪取を目論んだ稀代の悪臣か。百済から渡来し古代国家の礎を築いた開明派か。振幅ある評価を持つ蘇我氏四代。その軌跡を史料批判と考証に基づいて辿り、再構成を試みる。 | 二度の遷都、四度の蝦夷征伐、 千年の都、ここに幕開け。 「軍事と造作」の日々の中の人生。奈良から平安への時代の変わり目にあって国事に奔走し、平安時代四百年の王朝はもとより、京都の礎を築いた功績者の、新しい地平を目指しての苦難に満ちた生涯を辿る。 | 鬼を追い、星を観た晴明、いざ、陰陽道の世界へ。 安倍晴明(921年から1005年) 説話や伝説に彩られた陰陽師・安倍晴明の実像はいかなるものだったのか。本書は、平安時代の諸記録から多様な陰陽道祭祀や儀礼の現場を復元し、「術法の者」としての生涯を明らかにすることで、従来とは異なる新しい晴明像を描きだす。 | 天皇家との外戚関係を築き、貴族社会の頂点に立ち、機をみるに敏に行動し、運をつかんだ道長。その栄華とは裏腹に病に悩む姿もあった。本書は膨大な史料と格闘し、等身大の道長像を描き出す。 | 源義経は今もなお英雄である。当時の政治的関係に目を向けつつ、どのような人物・武将であったのかを解き明かす。丹念に史料を紐解き、義経が行った戦いを通して、戦闘論・有職故実の側面から英雄の「人」を炙り出す。 | 後醍醐天皇から信任を受け、劣勢の南朝を支え続けた北畠親房。南朝の正統性を唱えた『神皇正統記』等により、戦前は過度に高く、戦後は過度に低く評価されてきたが、本書では動乱期を生きた一人の公卿という視点から捉え直す。 |
新田義貞:関東を落すことは子細なし | 武田信玄:芳声天下に伝わり仁道寰中に鳴る | 真田氏三代:真田は日本一の兵 | 今川義元:自分の力量を以て国の法度を申付く | 上杉謙信:政虎一世中忘失すべからず候 | |
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書籍紹介 | これまで新田義貞は勤王の面を強調されることが多かったが、本書では源氏嫡流家を背負った人物として、その切り開いた政治的世界を捉えなおす。南北朝内乱により一躍世に出た義貞と一族の行動と規範にも迫る。 | 戦勝を宿命づけられた貴公子、 なぜ信玄は勝ち続けえたか。 武田信玄は代表的な戦国大名として名高く、武将・政治家として取り上げられることが多い。本書では、時代を生きぬいた一人の人間として、彼の教養や思想など、多面的に考察し、現代も思慕され続ける豊かな人間像に迫る。 | 幸隆、昌幸、信之、信繁…… 戦国を駆けた一族、ここにあり 信濃上田の小豪族は、いかにして武田、上杉、北条、豊臣、徳川などの大勢力の挟間を生き抜き、大名にまで上り詰めたのか。真田氏三代四人が織りなす行動と魅力を探る。 | 「海道一の弓取り」が築いた、卓越した領国経営と黄金文化。 今川義元(1519年から1560年)駿河・遠江の戦国大名 今川義元は、馬にも乗れなかったかのような言われ方をして、軟弱武将というレッテルがはられてしまっている。しかし実際の義元は、検地をはじめ戦国武将の領国経営のモデルとなる施策を先駆的に進めた武将であった。 | 越後を本拠に関東・越中・能登を支配した上杉謙信については、江戸時代の兵学者らによって史実と異なることが多く語り継がれてきた。 本書は、謙信が生きた時代の史料のみを使って、本物の謙信像を提示する。 |
商品の説明
著者について
《著者紹介》*本情報は刊行時のものです
元木泰雄(もとき・やすお)
1954年 兵庫県生まれ。
1978年 京都大学文学部卒業。
1983年 京都大学大学院文学研究科博士課程後期課程指導認定退学。
大手前女子大学助教授,京都大学総合人間学部助教授を経て,
現 在 京都大学大学院人間・環境学研究科教授(中世前期政治史専攻・文学博士)。
元木泰雄(もとき・やすお)
1954年 兵庫県生まれ。
1978年 京都大学文学部卒業。
1983年 京都大学大学院文学研究科博士課程後期課程指導認定退学。
大手前女子大学助教授,京都大学総合人間学部助教授を経て,
現 在 京都大学大学院人間・環境学研究科教授(中世前期政治史専攻・文学博士)。
登録情報
- 出版社 : ミネルヴァ書房 (2004/2/10)
- 発売日 : 2004/2/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 252ページ
- ISBN-10 : 4623039676
- ISBN-13 : 978-4623039678
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- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2024年4月14日に日本でレビュー済み
2015年2月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
筆者は学者だが、民俗学の視点がない。どちらかというと左翼的な発想。
2012年5月29日に日本でレビュー済み
私の歴史に対する興味は、幼い時に読んだ講談社の絵本『牛若丸』に端を発している。大雪の中、追っ手から逃れる母・常盤の胸に抱かれた牛若、鞍馬山での修行、五条大橋での弁慶との出会い、金売り吉次に伴われての奥州行き、黄瀬川での兄・源頼朝との対面、父の敵・平家との戦いと鮮やかな勝利――どのシーンにも小さな胸を昂らせたものである。
それ以来、牛若(源義経の幼名)は私の最大の関心事となり、小学生の時には、清和天皇に始まり頼朝、義経を経て、一幡(一萬)、公暁に至る清和源氏の略系図を何も見ることなく、すらすらと書くことができたほどであった。その後、義経のことをもっと知りたいという欲求が、私の興味を静、常盤、頼朝、源義平、義朝、為義、為朝、義仲、金売り吉次、藤原秀衡、平清盛、後白河院、北条政子、義時、泰時、三浦義村といった義経の同時代の人物にとどまらず、源義親、義家、義光、頼信、頼光といった義経の先祖たちに向かわせ、今日に至っている。
この義経を出発点とする私の歴史に対する好奇心は、やがて日本史全体に広がり、世界史に広がり、さらに、さまざまな分野の読書に広がっていったのである。幼時の『牛若丸』体験なかりせば、現在とは大分異なった自分になっていたであろうと思うと、感慨深いものがある。
義経の先祖である源満仲、頼光、頼信といった人物について知りたいという私の願いを叶えてくれたのが、『源満仲・頼光――殺生放逸 朝家の守護』(元木泰雄著、ミネルヴァ書房)であった。歴史を知るには、先ず、その時代を代表する人物を知らねばならず、また、その人物にまつわる事実と伝説を区別して知ることが必要と考える私にとって、この本から多くのことを学ぶことができたのは、望外の幸せであった。
●第1は、武門(清和)源氏の祖とされる源満仲の人物像と、「摂関政治確立の過程で黒子の役割を果たした」とされる、その歴史上の役割が明らかになったこと。
●第2は、満仲の息子・源頼光の人物像と、「摂関政治の極盛期を築いた(藤原)
道長に、表の世界でひたすら追従・奉仕し、官位の上昇を目指した」とされる、
その歴史上の役割が明らかになったこと。
●第3は、頼光の弟・源頼信を祖とする河内源氏が、武力を背景に、その末裔の源頼朝、足利尊氏に見られるように隆盛を誇ったのに対し、一方の兄の頼光を祖とする摂津源氏が衰退してしまったのは、文官として歩み続け、院政期に衰退した摂関家と運命を共にしたためと、その理由が明らかになったこと。
●第4は、満仲と、清少納言の父で歌人として高名な清原元輔との間に長年の交流があったことを知ったこと。
●第5は、酒呑童子伝説からもたらされた頼光の剛勇な武将というイメージと、「受領としての豪富、そして道長に対する献身的な奉仕ぶり」というこの本によって明らかにされた人物像とのギャップの大きさを知ったこと。「権力者に諂い、地位の昇進を図った小心な」頼光に、時代を超えて親近感を覚えてしまうのは、私だけだろうか。
●第6は、頼光が、藤原兼家と『蜻蛉日記』の作者との間の息子である藤原道綱を女婿としていることを知ったこと。
●第7は、頼信の息子・源義家の母が平貞盛の曾孫の娘であることを知ったこと。源氏の代表選手ともいうべき義家に平氏の血が流れているとは、意外であった。
武門(清和)源氏の始祖たちの光と影を、簡潔な文体で過不足なく鮮やかに描き出した『源満仲・頼光』は、歴史好きには堪えられない一冊である。
それ以来、牛若(源義経の幼名)は私の最大の関心事となり、小学生の時には、清和天皇に始まり頼朝、義経を経て、一幡(一萬)、公暁に至る清和源氏の略系図を何も見ることなく、すらすらと書くことができたほどであった。その後、義経のことをもっと知りたいという欲求が、私の興味を静、常盤、頼朝、源義平、義朝、為義、為朝、義仲、金売り吉次、藤原秀衡、平清盛、後白河院、北条政子、義時、泰時、三浦義村といった義経の同時代の人物にとどまらず、源義親、義家、義光、頼信、頼光といった義経の先祖たちに向かわせ、今日に至っている。
この義経を出発点とする私の歴史に対する好奇心は、やがて日本史全体に広がり、世界史に広がり、さらに、さまざまな分野の読書に広がっていったのである。幼時の『牛若丸』体験なかりせば、現在とは大分異なった自分になっていたであろうと思うと、感慨深いものがある。
義経の先祖である源満仲、頼光、頼信といった人物について知りたいという私の願いを叶えてくれたのが、『源満仲・頼光――殺生放逸 朝家の守護』(元木泰雄著、ミネルヴァ書房)であった。歴史を知るには、先ず、その時代を代表する人物を知らねばならず、また、その人物にまつわる事実と伝説を区別して知ることが必要と考える私にとって、この本から多くのことを学ぶことができたのは、望外の幸せであった。
●第1は、武門(清和)源氏の祖とされる源満仲の人物像と、「摂関政治確立の過程で黒子の役割を果たした」とされる、その歴史上の役割が明らかになったこと。
●第2は、満仲の息子・源頼光の人物像と、「摂関政治の極盛期を築いた(藤原)
道長に、表の世界でひたすら追従・奉仕し、官位の上昇を目指した」とされる、
その歴史上の役割が明らかになったこと。
●第3は、頼光の弟・源頼信を祖とする河内源氏が、武力を背景に、その末裔の源頼朝、足利尊氏に見られるように隆盛を誇ったのに対し、一方の兄の頼光を祖とする摂津源氏が衰退してしまったのは、文官として歩み続け、院政期に衰退した摂関家と運命を共にしたためと、その理由が明らかになったこと。
●第4は、満仲と、清少納言の父で歌人として高名な清原元輔との間に長年の交流があったことを知ったこと。
●第5は、酒呑童子伝説からもたらされた頼光の剛勇な武将というイメージと、「受領としての豪富、そして道長に対する献身的な奉仕ぶり」というこの本によって明らかにされた人物像とのギャップの大きさを知ったこと。「権力者に諂い、地位の昇進を図った小心な」頼光に、時代を超えて親近感を覚えてしまうのは、私だけだろうか。
●第6は、頼光が、藤原兼家と『蜻蛉日記』の作者との間の息子である藤原道綱を女婿としていることを知ったこと。
●第7は、頼信の息子・源義家の母が平貞盛の曾孫の娘であることを知ったこと。源氏の代表選手ともいうべき義家に平氏の血が流れているとは、意外であった。
武門(清和)源氏の始祖たちの光と影を、簡潔な文体で過不足なく鮮やかに描き出した『源満仲・頼光』は、歴史好きには堪えられない一冊である。