甲南大学の教員で社会調査工房オンライン作成者の一人による、
人類学的フィールドワーク（質的社会調査）の教科書。
文章は丁寧かつコンパクトで参考文献などはほとんどなく、
おそらく高校生レベルでも理解できるので、
大学の授業だけでなく高校の社会科のような授業でも使えるのではないでしょうか。
あと、章末などに挿入されている清水香里氏による味のあるイラストが、
内容のポイントを端的にまとめてくれる上に読書の疲れを癒してくれます（笑）
前半は筆者の学部生時代から現在に至るまでのフィールドワークの経験がまとめられています。
素直な筆致で的確に調査のよかった点と反省点が述べられ、
これだけでも筆者の真摯かつ非常にマメな調査姿勢がよくわかり、ためになります。
さらに後半の概論編で述べられていることの根拠にもなっています。
後半は概論編で、非常に手際よく簡潔に、調査心得が述べられていきます。
どのように調査を準備し、実行し、まとめ、発信するのか。
とりわけ「発信」が論文作成だけではないいろんな形を念頭に置かれて説明されているのは、
おそらく筆者の長年の学生指導と調査経験の蓄積がここに大いに反映されていると思われます。
（実際、筆者は論文や著書を多数発表して学会で目立つタイプの研究者ではなく、
学生や調査先とじっくりと関わって派手ではないものの目の前の人々とのやりとりを真摯に行うタイプのようです）
さらに巻末に、本文で解説されたフィールドワークのポイントが図示されていて、
本文を読み返さなくても内容を復習できるようになっているのも特徴的です。
あえて不満を言えば、調査カードは非常に骨が折れるので
FenrirFSやEvernoteのようにタグ付けして資料を整理するタイプのソフトやexcelの活用など
もっとパソコンを用いた資料整理方法や、紙媒体と電子媒体の善し悪しについて言及してほしいところですが
それはもう無い物ねだりというものでしょう。
近年フィールドワーク本は多数出版されるようになっていますが、
本書はページ数がダントツで少なく、内容もコンパクトで、
「フィールドワークはどうやるのか」が端的に述べられているだけではなく、
筆者の経験や人柄も伝わって（個人的経験こそが人類学のフィールドワークの魅力でもある）、
今まで読んだフィールドワーク入門書のの中で一番よい本でした。
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