世界史通史を一冊の、しかもこの程度の小冊子にまとめるのは難しい。著者の視点と構成力の良否が試される。この本はその点で成功していると思う。著者がところどころに挟み込む「皮肉と比喩」が格好の気晴らしになって、楽しく読み進められるのも一般書に許される利点である。例えば「要するに、コロンブスは、すでに多くのことが知られつつある一方で多くのことが依然として未知であった海洋への冒険を、計画していたのである」(p.176)なるほど。
本書は、年代順に大きく三部に分かれ、第Ⅰ部の「200万年前から1000年まで」に150頁。第Ⅱ部の「1000年から1800年まで」に100頁。第Ⅲ部の1800年から今日まで」に110頁が費やされている。近代に向かう毎に情報量が激増し、現代との因果関係も強まってゆくのが歴史だが、第Ⅰ部に150頁を割くのは勇気のいることだと思う。確かにこの時代に、現在に通じる政治システムや哲学、宗教が成立しているのだから、人間史の原点として見過ごすことは出来ない。全体で31章仕立てになっており、各章末に短文ながら章内容が総括されているので、読後感をまとめやすい。小冊にも関わらず、人名と事項索引がついているのも貴重だ。
一つの特徴は、歴史書にありがちな「英雄史」でないことだ。人名は挙げられるが、成し遂げられたことは目立たないように配慮され、その結果としての世界の変容に力点が置かれている。第二の特徴は、自然が人間に与え続けてきた条件を忘れずに記し、それに抗し/棹さして、人間が科学技術や技能を発達させてきた歴史に力点が置かれている点。大発明家の大発明として世に知られているものも、そこに至るまでには幾多の経緯があり、名も知らぬ人々による改良的な小発明によって、機械類が少しずつ進化してゆく様子が強調され、「小さな大世界史」というタイトルが似つかわしく感じる。ちなみに原タイトルは;A Very Short History of the World (2007)で、同著者による650頁を超える大作;A Short History of the World(2000)の短縮版だという。道理で文章が熟れている。
第三の特徴は、西洋中心の「発達史」でないこと。中国文明は勿論のことだが、南米やアメリカ原住民の独自文化を始め、アジアの沿岸地帯から太平洋の島嶼を経てオーストラリアとニュージーランドに渡った人々のことも、適当と思われる年代に当て込みつつ詳しく語られる。著者のジェフリー・ブレイニー氏はオーストリア人だそうだが、西欧を相対化する観点は刺激的だ。ただしおかしな箇所もある。「日本では屋外において皮の衣服を着る習慣があったし……」えっ!
人類史には飛躍と停滞がある。第Ⅱ部の終わりで、「たぶん四〇〇〇年のあいだ、ヨーロッパ、アフリカ、そしてアジアにおける平均的なひとびとの生活水準はほとんど向上していなかったと思われる。[一部の富裕層を除いて]人口の三分の二に当たるひとびとにとっては、日々の暮らしが苦痛であった」と著者は記すが、第Ⅲ部の前段に書かれる1750-1850年代の科学技術を軸にした人間生活の変化(特に第26章「蒸気機関と都市化」)は、判っていることながら、通史の中でこう書かれると愕然とする。これによって、良くも悪しくも、大衆が初めて世界史に参画できたのだと思う。
しめくくりの第31章「ぼやけてゆく境界」もユニークな視点である。ここは「人間の歴史において、あまりにも明白なので、めったに論評されることがないひとつの深くて大きな変化」として紹介されているのが、季節、夜と昼、都市と地方、仕事とレジャー等、自然と人文に亘る境界の曖昧化である。これに最近主張されている、主権国家、国境、資本主義の曖昧化なども付け加えれば、歴史通史の終焉としての現代がより浮かび上がってくるに違いないが。その点では著者は抑制的である。
人間は理性的な動物ではない。科学技術依存思想が行き詰まった現在、一度は捨てたはずの空想的思想が「新しい衣をまとって再浮上してもおかしくないのである」と著者は記す。それは社会主義かも知れず、なに主義かは判らないが、「合意もしくは権力による世界政府の樹立」かも知れない。著者が最後に言うように「人類の歴史にとっては、あらかじめ運命的に決められているものなどほとんどないのである」しかしその「ほとんどない」はずの運命的な誤りが、人間を意に反する方向に押し流すのかも知れない。歴史は恐ろしいのだ。
お薦めに躊躇しない良書である。
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小さな大世界史:アフリカから出発した人類の長い旅 単行本 – 2017/9/25
ジェフリー・ブレイニー
(著),
南塚信吾
(翻訳)
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本書は、オーストラリアの歴史家・ブレイニーがコンパクトにまとめた世界史。アフリカを出発した人類が各地に
散らばり、いかに暮らし、働き、技術を磨いたのか。ヨーロッパを相対化しつつ、著者ならではのユニークな視角で、
世界の大きな流れをいきいきと描き出す。随所にちりばめられる軽妙な比喩とユーモアも味わい深いダイナミックな通史。
(原書:Geoffrey Blainey, A Very Short History of the World, Penguin, 2007.)
[ここがポイント]
◎オーストラリアの歴史家によるコンパクトな世界史概説。
◎ヨーロッパ中心主義的でなく、欧米を相対化した視角。
◎科学技術の効果や気候の影響にも目配りしており、示唆に富む。
[おもな目次]
はじめに
第I部 200万年前から1000年まで
第1章 アフリカから
第2章 海面の上昇
第3章 最初の緑の革命
第4章 夜のドーム
第5章 渓谷の都市
第6章 驚きの海——地中海
第7章 黄河の帝とガンジス川の王
第8章 ローマの台頭
第9章 イスラエルとイエス
第10章 キリスト以降
第11章 新月旗——イスラム教の登場
第12章 野生の雁が山を越える——三大宗教の拡大
第13章 ポリネシアに向けて
第II部 1000年から1800年まで
第14章 モンゴル人と中国人の拡張
第15章 気候と病気の危機
第16章 新たな伝達者たち——新しい発見と発明
第17章 鳥かご——ルネサンスと「発見」
第18章 インカとアンデス
第19章 宗教改革
第20章 インドへの航海
第21章 新世界の贈り物
第22章 科学の義眼
第23章 収穫を越えて——穀物生産からの解放
第III部 1800年から今日まで
第24章 一組のトランプの崩壊
第25章 サハラの彼方
第26章 蒸気機関と都市化
第27章 平等への取り組み
第28章 最後の地球探検
第29章 世界大戦
第30章 原子爆弾と月
第31章 ぼやけていく境界
おわりに
文献案内
訳者あとがき
人名・事項索引
散らばり、いかに暮らし、働き、技術を磨いたのか。ヨーロッパを相対化しつつ、著者ならではのユニークな視角で、
世界の大きな流れをいきいきと描き出す。随所にちりばめられる軽妙な比喩とユーモアも味わい深いダイナミックな通史。
(原書:Geoffrey Blainey, A Very Short History of the World, Penguin, 2007.)
[ここがポイント]
◎オーストラリアの歴史家によるコンパクトな世界史概説。
◎ヨーロッパ中心主義的でなく、欧米を相対化した視角。
◎科学技術の効果や気候の影響にも目配りしており、示唆に富む。
[おもな目次]
はじめに
第I部 200万年前から1000年まで
第1章 アフリカから
第2章 海面の上昇
第3章 最初の緑の革命
第4章 夜のドーム
第5章 渓谷の都市
第6章 驚きの海——地中海
第7章 黄河の帝とガンジス川の王
第8章 ローマの台頭
第9章 イスラエルとイエス
第10章 キリスト以降
第11章 新月旗——イスラム教の登場
第12章 野生の雁が山を越える——三大宗教の拡大
第13章 ポリネシアに向けて
第II部 1000年から1800年まで
第14章 モンゴル人と中国人の拡張
第15章 気候と病気の危機
第16章 新たな伝達者たち——新しい発見と発明
第17章 鳥かご——ルネサンスと「発見」
第18章 インカとアンデス
第19章 宗教改革
第20章 インドへの航海
第21章 新世界の贈り物
第22章 科学の義眼
第23章 収穫を越えて——穀物生産からの解放
第III部 1800年から今日まで
第24章 一組のトランプの崩壊
第25章 サハラの彼方
第26章 蒸気機関と都市化
第27章 平等への取り組み
第28章 最後の地球探検
第29章 世界大戦
第30章 原子爆弾と月
第31章 ぼやけていく境界
おわりに
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訳者あとがき
人名・事項索引
- 本の長さ400ページ
- 言語日本語
- 出版社ミネルヴァ書房
- 発売日2017/9/25
- ISBN-104623071405
- ISBN-13978-4623071401
出版社より
20世紀のグローバル・ヒストリー:大人のための現代史入門 | 教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門 | 歴史的に考えるとはどういうことか | 論点・西洋史学 | ものがつなぐ世界史 (MINERVA世界史叢書 5) | 先住民 vs.帝国 興亡のアメリカ史:北米大陸をめぐるグローバル・ヒストリー | |
---|---|---|---|---|---|---|
カスタマーレビュー |
5つ星のうち4.8
11
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5つ星のうち4.1
23
|
5つ星のうち4.5
14
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5つ星のうち4.4
48
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5つ星のうち4.6
6
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5つ星のうち4.8
4
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価格 | ¥3,080¥3,080 | ¥2,750¥2,750 | ¥2,750¥2,750 | ¥3,520¥3,520 | ¥6,050¥6,050 | ¥3,080¥3,080 |
書籍案内 | 高校歴史教科書の知識をベースに、西洋史・東洋史と日本史を結びつけ、複雑に入り組む20世紀の歴史を同時的に描く。人種主義やジェノサイドなど、人類共通の問題群を主軸に据え、各国の視点からではなく、世界史上の出来事のトランスナショナルな関係性を重視するグローバル・ヒストリーの視点から、世界現代史の再構築を試みる。大人が学び直すための世界現代史入門として最適。 | 高校世界史Bの教科書にある内容をもとに、地域や文化をつなぐネットワークを俯瞰したグローバル・ヒストリーの通史。日本史、西洋史、東洋史の枠組みを突破し、世界史が結びあう歴史を学ぶ。地図や図版を多数種録、大人が学び直すための世界史入門。歴史教育の高大連携、新設科目「歴史総合」をも見据え世界史を捉える。現役の学生だけでなく、大人が読み直す世界史の入門書としても最適。 | 市民講座、自分史、歴史小説、映画、テレビ、漫画、ゲーム……私たちの日常には「歴史」があふれている。一方、学校現場では歴史教育に苦労している。学生が減り、制度も変更され、学習指導要領では「(暗記ではなく)歴史的思考力を」と求められる。過去についてもあらゆる情報が氾濫し、誰も信憑性を保証しない今、一人ひとりの「歴史的思考力」が問われている。本書は歴史をとらえる力をいかにして養うか、どのような点に留意して歴史をみるべきかを考える書 | あなたなら、どう考えますか?――本書は、古代から現代に至る西洋の過去に関して、真実=正解を求めて幾通りもの主張が戦わされているポイント、すなわち「論点」だけを集めたテキストです。「論点」に触れ、主体的に思考することで、歴史学ならではの醍醐味が味わえます。各項目は〈史実〉〈論点〉〈歴史学的に考察するポイント〉の3パートから構成され、語句説明やクロスリファレンスも充実。世界史の知識がなくとも理解が進む工夫が満載! | 現代の歴史学において、人・もの・カネ・情報・技術などの動きや交流を切り口として世界史をみるという視点が、もはや主流になりつつあるといっても過言ではない。本書は、「馬」に始まり「ウラニウム」に至るまで、古代から現代にわたって世界史を動かした17の「もの」を取り上げ、それらがいかに世界を結び、どのような影響を及ぼしたかを考察することで、重層的な世界史像を描き出す。 | 合衆国が生まれる以前の北アメリカ大陸。そこでは先住民たちとヨーロッパの諸帝国による、さまざまなドラマが繰り広げられていた――。本書は初期アメリカ史研究の第一人者による、コンパクトな近世北米大陸史。先住民がときに植民者を脅かし、打ち負かし、また交易相手や戦争時の同盟相手として大きな力を持っていたことが、深い学識に裏打ちされた明快な叙述から鮮やかに浮かび上がる。 |
商品の説明
著者について
《監訳者紹介》※本情報は刊行時のものです
南塚 信吾(みなみづか・しんご)
1970年 東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。
現 在 NPO 歴史文化交流フォーラム付属世界史研究所所長。千葉大学・法政大学名誉教授。
主 著 『帝国主義の時代』(ビジュアル版世界史)西川正雄と共著、講談社、1986年。
『アウトローの世界史』日本放送出版協会、1999年。
『世界史なんていらない?』岩波書店、2007年。
南塚 信吾(みなみづか・しんご)
1970年 東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。
現 在 NPO 歴史文化交流フォーラム付属世界史研究所所長。千葉大学・法政大学名誉教授。
主 著 『帝国主義の時代』(ビジュアル版世界史)西川正雄と共著、講談社、1986年。
『アウトローの世界史』日本放送出版協会、1999年。
『世界史なんていらない?』岩波書店、2007年。
登録情報
- 出版社 : ミネルヴァ書房 (2017/9/25)
- 発売日 : 2017/9/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 400ページ
- ISBN-10 : 4623071405
- ISBN-13 : 978-4623071401
- Amazon 売れ筋ランキング: - 616,725位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 863位世界史一般の本
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年11月11日に日本でレビュー済み
2018年1月3日に日本でレビュー済み
朝日新聞の書評で紹介があった。ハラリの「サピエンス全史」が気に入ったから、他の歴史書はどうかなという気持ちもあり、正月休みにちょうど良いかなと読んでみた。小さなと言っても380ページ、結構読み通すのに骨が折れた。
元は、2000年に出版された「A short history of the world」という本。ネットで見る限り、基本的な章立ては同じようだ。
第I部 200万年前から1000年まで
第1章 アフリカから
第2章 海面の上昇
第3章 最初の緑の革命
第4章 夜のドーム
第5章 渓谷の都市
第6章 驚きの海——地中海
第7章 黄河の帝とガンジス川の王
第8章 ローマの台頭
第9章 イスラエルとイエス
第10章 キリスト以降
第11章 新月旗——イスラム教の登場
第12章 野生の雁が山を越える——三大宗教の拡大
第13章 ポリネシアに向けて
第II部 1000年から1800年まで
第14章 モンゴル人と中国人の拡張
第15章 気候と病気の危機
第16章 新たな伝達者たち——新しい発見と発明
第17章 鳥かご——ルネサンスと「発見」
第18章 インカとアンデス
第19章 宗教改革
第20章 インドへの航海
第21章 新世界の贈り物
第22章 科学の義眼
第23章 収穫を越えて——穀物生産からの解放
第III部 1800年から今日まで
第24章 一組のトランプの崩壊
第25章 サハラの彼方
第26章 蒸気機関と都市化
第27章 平等への取り組み
第28章 最後の地球探検
第29章 世界大戦
第30章 原子爆弾と月
第31章 ぼやけていく境界
時間的に3分割しているのだが、著者の前書きによれば、20世紀の記述を少なめにしたのだそうだ。それでも、全体としては指数的に3分割されている。
ハラリの本では、興味深い視点が提供されていた。神話の働き、帝国と科学など。
この歴史書は、2000年に書かれたので、少し古いということもあるかもしれないが、目新しい視点はない。
気になるのは、歴史とは偶然の積み重ねであると強調されているところ。ヨーロッパの発展、イスラム教の興隆、コロンブスの発見、あるいは、ナポレオンの気まぐれなど、歴史のIfがあちこちで述べられている。それらは、骨休めという側面もあるのかもしれないが、一方で一つの見識なのだろう。我々は多数の「もし」を自分の生活の中で抱えている。そのようなことを歴史に投影することは、それはそれで面白いのだが、本質的ななにかがあってもいいのではないか。
まえがきには、人物よりも「科学技術と技能」に注目したと書いてある。さらには、地理的な要素に注目したと。意図せざる形で、普通の人たちの暮らしがどうであったかにもページを割いたとも。そのような事物の記述は、それなりに興味深い。
全体としては、第1部の記述が有益だと感じられた。最終の31章では、季節感や昼夜の区別がなくなりつつあること、最後の「終わりに」では、科学技術の進歩が人間能力のあるしゅの「再生」だと述べているが、一方で、科学が「破壊者として非難されるようになっている」と述べ、最後に、「次の二世紀以内には、世界は縮小しその距離が縮小するので、合意もしくは権力によって世界政府を設立する試みがなされてもおかしくはない」とあるが、どうであろうか。
著者が今から3年後に、本書の改訂版を出すとしたら結論部分がどうなるか、非常に興味がある。
元は、2000年に出版された「A short history of the world」という本。ネットで見る限り、基本的な章立ては同じようだ。
第I部 200万年前から1000年まで
第1章 アフリカから
第2章 海面の上昇
第3章 最初の緑の革命
第4章 夜のドーム
第5章 渓谷の都市
第6章 驚きの海——地中海
第7章 黄河の帝とガンジス川の王
第8章 ローマの台頭
第9章 イスラエルとイエス
第10章 キリスト以降
第11章 新月旗——イスラム教の登場
第12章 野生の雁が山を越える——三大宗教の拡大
第13章 ポリネシアに向けて
第II部 1000年から1800年まで
第14章 モンゴル人と中国人の拡張
第15章 気候と病気の危機
第16章 新たな伝達者たち——新しい発見と発明
第17章 鳥かご——ルネサンスと「発見」
第18章 インカとアンデス
第19章 宗教改革
第20章 インドへの航海
第21章 新世界の贈り物
第22章 科学の義眼
第23章 収穫を越えて——穀物生産からの解放
第III部 1800年から今日まで
第24章 一組のトランプの崩壊
第25章 サハラの彼方
第26章 蒸気機関と都市化
第27章 平等への取り組み
第28章 最後の地球探検
第29章 世界大戦
第30章 原子爆弾と月
第31章 ぼやけていく境界
時間的に3分割しているのだが、著者の前書きによれば、20世紀の記述を少なめにしたのだそうだ。それでも、全体としては指数的に3分割されている。
ハラリの本では、興味深い視点が提供されていた。神話の働き、帝国と科学など。
この歴史書は、2000年に書かれたので、少し古いということもあるかもしれないが、目新しい視点はない。
気になるのは、歴史とは偶然の積み重ねであると強調されているところ。ヨーロッパの発展、イスラム教の興隆、コロンブスの発見、あるいは、ナポレオンの気まぐれなど、歴史のIfがあちこちで述べられている。それらは、骨休めという側面もあるのかもしれないが、一方で一つの見識なのだろう。我々は多数の「もし」を自分の生活の中で抱えている。そのようなことを歴史に投影することは、それはそれで面白いのだが、本質的ななにかがあってもいいのではないか。
まえがきには、人物よりも「科学技術と技能」に注目したと書いてある。さらには、地理的な要素に注目したと。意図せざる形で、普通の人たちの暮らしがどうであったかにもページを割いたとも。そのような事物の記述は、それなりに興味深い。
全体としては、第1部の記述が有益だと感じられた。最終の31章では、季節感や昼夜の区別がなくなりつつあること、最後の「終わりに」では、科学技術の進歩が人間能力のあるしゅの「再生」だと述べているが、一方で、科学が「破壊者として非難されるようになっている」と述べ、最後に、「次の二世紀以内には、世界は縮小しその距離が縮小するので、合意もしくは権力によって世界政府を設立する試みがなされてもおかしくはない」とあるが、どうであろうか。
著者が今から3年後に、本書の改訂版を出すとしたら結論部分がどうなるか、非常に興味がある。