「死者のはたらき」という、ややギョッとするような語句がタイトルにあるが、むろんオカルト的な本ではない。サブタイトルに「遺訓・家訓・辞世」とあるとおり、近世日本において死者が遺した言葉や物は、現世に生きる人びとにも多大な影響をもたらしたという前提のもと、近世の死者あるいは死をめぐる「政治文化」について、いくつかの論点を実証的に提示している作品である。
近世において、生者と死者の距離は現在よりも遙かに近かった。流動性の乏しい村や家において、ある人間が死んでいく様を周囲の人間はじっくりと見て、聴いて、嗅いで、触ってきたし、彼や彼女が死者となってからも、彼らからのメッセージを真摯に受けとめ、生きていく上での指針や、家業や政治を行う際の規範としてきた。そうした生者と死者の「昵懇」といってもよい関係性あるいは距離感を、本書は様々な事例を通して示そうとしており、学ぶところが大きい。
死者は、しかし近世日本だけでなく、いつでもどこでも、常に生者と共にあり、歴史の形成に関与してきたのではないか。そうした前提のもとに歴史を論じる著者の文章は、いまに生きながらときに死者を強く意識する我々にとって、多くの示唆を与えてくれるはずである。
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