日本ともどことも知れない海辺の町。
フウガさん、ロドウさん、マイカさんなどネーミングも童話的。
〈風のエキスパート〉〈水のエキスパート〉と呼ばれる自然を読める力のある一部のおとな。(ひとりは「ぼく」のお父さんで、風車を管理)
そして、色感が常人とは違うけれど、天才的造形アーティストの「ぼく」アーチ十二歳。双子の妹は、朝日から夕日まで起きているキサと、逆に夕日から朝日まで起きているトア。
ほぼ閉ざされたこの世界で、自然ととけあいながら生きているひとたち。双子をいけにえにしないと波が鎮まらない双子岩の伝説とか、アーチたちの作品が大規模に盗まれたり、といったすこし波風のたつエピソードはあるのですが、それとても、現実の世界のドラマの鋭さをもつことなく、大らかにこの海と風の世界に抱き取られて、流れさってゆく感じです。
読み終わって、この無時間性は、何かに似ていると思い、ふっと浮かんできたのが、ムーミン谷(トーヴェ・ヤンソン作)シリーズ。ムーミンたちトロールだけでなく、ヘムル、ミムラ、フィリフヨンカ、スニフ、モランなど、ちがった種族が海辺の谷に淡々とくらしていて、ドラマの起伏が少なく(洪水、隕石など自然の災害はありますが)、大きな自然の時間が悠揚とつむがれてゆく物語。
小路流「ムーミン谷」は、少しイーハトーヴォ的なテクノロジーも入り、おとなもこどもも円環的な四季の時間を送りつつ、どこにもないけれどなつかしい、自然界と交感する波長の童話的世界です。
風の綻び、水の繋ぎ目
流れる大地、囀る緑
星の溜りを胸に受けよう
星の目覚めを意志に刻もう
昔から伝わっているというこの歌が象徴的。自然との「境界線のない世界」に生きる、エキスパート、そして子どもたち。
ノスタルジーだけではなく、これからのわたしたちの生き方を示唆するような。
マッチタワーコンクールで、子どもながら準グランプリをとるアーチ。そして、新しい家族ができ、やがて妹たちは、奇しくも「ムーミン谷」の緯度の白夜の世界に癒されてゆきます。微妙な変化は、ひとにも自然にも、「綻び」「繋ぎ目」として訪れます。
文庫版には「それからのこと」がついています。自然の流れに恵まれた〈ポロウ村〉に招かれたアーチ。
自然の流れは完璧なのに、何かが足りずに水がとどこおる。それは妖精や精霊、怪物といった〈ギフト〉が不足しているから。アーティストはそれを作るのが役目なのだ、と言われます。
この掌編がついて、物語は、さらにひとつの新しい方向性を得ました。これは、本編には(ほのめかされていたものの)明示されなかった答えではないでしょうか。シリーズになれば楽しみです。
(書き落としましたが、本のタイトルは「あと・さき」をひっくり返したものですよね。現実の秩序がくつがえる、その意味合いではと思います。)
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キサトア 単行本 – 2006/6/1
小路 幸也
(著)
- 本の長さ300ページ
- 言語日本語
- 出版社理論社
- 発売日2006/6/1
- ISBN-10465207784X
- ISBN-13978-4652077849
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登録情報
- 出版社 : 理論社 (2006/6/1)
- 発売日 : 2006/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 300ページ
- ISBN-10 : 465207784X
- ISBN-13 : 978-4652077849
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,692,531位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2012年5月12日に日本でレビュー済み
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2017年1月9日に日本でレビュー済み
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少年少女が主人公の物語は、その年頃の子にありがちな感情的な部分が表現されている場合が多く(もちろんそれが醍醐味でもあります)、何となく感情移入しすぎて疲れてしまうことも多いのですが、このお話の主人公アーチは大変穏やかでまわりにあまり振り回されず、こちらも穏やかな気持ちで読むことができます。
ジェットコースターのような爽快感やハラハラ感、どんでん返しなどはありませんが、最初から最後までほっこりとしたきもちで読み進められてとても癒されました。
キサトアの歌、聴いてみたいです。
ジェットコースターのような爽快感やハラハラ感、どんでん返しなどはありませんが、最初から最後までほっこりとしたきもちで読み進められてとても癒されました。
キサトアの歌、聴いてみたいです。
2013年3月22日に日本でレビュー済み
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温かいお話。
映像が頭に浮かびやすい進め方はやはり逸品。
最新作を読んでからこれを読んだため
最後に出てくる村にはニヤリとしてしまった。
映像が頭に浮かびやすい進め方はやはり逸品。
最新作を読んでからこれを読んだため
最後に出てくる村にはニヤリとしてしまった。
2008年11月20日に日本でレビュー済み
舞台は、海辺の小さな町。
海から昇る朝陽と沈む夕陽をおなじ場所で見ることができるところだ。
主人公のアーチーは、世界的に評価されるほどの芸術家でもある12歳の男の子。
キサとトアはアーチーの双子の妹。
日が出ている間しか起きていられないキサと、日が沈んでいる間しか起きていられないトア。
風を読む才能を持つ「風のエキスパート」という仕事をしているお父さん。
5年前に町に引っ越してきたこの家族を中心にした1年間のお話。
タイトルは「キサトア」だけど、キサもトアも物語の中心人物ではない。
彼女たちは自然の象徴としているのだと思う。
微妙なバランスの象徴。動と静、昼と夜。
風のエキスパートのお父さんは自然を相手に仕事をしている。
それは自然と戦うのではなく、逆らわず、あるがままに受け入れ、感じる。
だから自然は彼らに応えてくれる。
この世界は信じられないくらいの微妙で、繊細で、かつ絶妙なバランスの上に成り立っている。
大人の世界の汚い欲望や猜疑心に傷つけられそうになるけれど、彼らは悲しむことも怒ることもなく、ただ淡々と受け止める。
自然にあるがままに受け入れる。
「見えるものと見えないもの。それに囚われると自分の周りしか、今いる時間しか考えないようになってしまう。
自分の周りしか考えないと、つながりとバランスを壊してしまう。
今この瞬間にも、どこかでは花が咲き、どこかでは嵐が吹き荒れ、何かが眠り何かが目覚める。この世界には境界線などどこにもない。」
お父さんのセリフがこの物語のベースだ。
なるがままに。あるがままに。
だからこそ、強くしなやかに優しくいられる。
読み終わった後に切なくなるのは、ピュアで優しい世界にひたれたからだろう。
小路幸也の書く物語は大好きだ。
海から昇る朝陽と沈む夕陽をおなじ場所で見ることができるところだ。
主人公のアーチーは、世界的に評価されるほどの芸術家でもある12歳の男の子。
キサとトアはアーチーの双子の妹。
日が出ている間しか起きていられないキサと、日が沈んでいる間しか起きていられないトア。
風を読む才能を持つ「風のエキスパート」という仕事をしているお父さん。
5年前に町に引っ越してきたこの家族を中心にした1年間のお話。
タイトルは「キサトア」だけど、キサもトアも物語の中心人物ではない。
彼女たちは自然の象徴としているのだと思う。
微妙なバランスの象徴。動と静、昼と夜。
風のエキスパートのお父さんは自然を相手に仕事をしている。
それは自然と戦うのではなく、逆らわず、あるがままに受け入れ、感じる。
だから自然は彼らに応えてくれる。
この世界は信じられないくらいの微妙で、繊細で、かつ絶妙なバランスの上に成り立っている。
大人の世界の汚い欲望や猜疑心に傷つけられそうになるけれど、彼らは悲しむことも怒ることもなく、ただ淡々と受け止める。
自然にあるがままに受け入れる。
「見えるものと見えないもの。それに囚われると自分の周りしか、今いる時間しか考えないようになってしまう。
自分の周りしか考えないと、つながりとバランスを壊してしまう。
今この瞬間にも、どこかでは花が咲き、どこかでは嵐が吹き荒れ、何かが眠り何かが目覚める。この世界には境界線などどこにもない。」
お父さんのセリフがこの物語のベースだ。
なるがままに。あるがままに。
だからこそ、強くしなやかに優しくいられる。
読み終わった後に切なくなるのは、ピュアで優しい世界にひたれたからだろう。
小路幸也の書く物語は大好きだ。
2011年2月23日に日本でレビュー済み
父親は風を読むエキスパートのフウガ。息子の少年アーチは色を識別できないが様々なオブジェを創るアーティスト。双子の妹のキサとトアは相手が起きているときは眠っているという不思議な体質を持ってしまっている。
彼らと、彼らが住む海辺の町の人々に起こる出来事の物語です。
事件は起こりますが、優しさと理解と、穏やかな時間に彩られています。この家族のキャラ設定からもわかるように、この物語はどこかしら寓話めいています。ただ、この物語故の色のような物が感じられないのが不思議。抜き差しならない物や事がないように思います。アリスにも賢治作品にも好き嫌いはともかく、そういうもの、う〜ん、不穏さとでもいえばいいのかな、それがあるのですが。
彼らと、彼らが住む海辺の町の人々に起こる出来事の物語です。
事件は起こりますが、優しさと理解と、穏やかな時間に彩られています。この家族のキャラ設定からもわかるように、この物語はどこかしら寓話めいています。ただ、この物語故の色のような物が感じられないのが不思議。抜き差しならない物や事がないように思います。アリスにも賢治作品にも好き嫌いはともかく、そういうもの、う〜ん、不穏さとでもいえばいいのかな、それがあるのですが。
2006年8月21日に日本でレビュー済み
ある世界では、風や水の流れを読む
「エキスパート」という人たちがいます。
主人公の父は風のエキスパートですが子供が
日の出・日没と共に寝起きをするという
奇妙な病気のため街に留まっています。
主人公の友達・周りの大人も表情豊かで
生きる希望を感じられる宮崎作品のような
伸びやかさを感じました。
「エキスパート」という人たちがいます。
主人公の父は風のエキスパートですが子供が
日の出・日没と共に寝起きをするという
奇妙な病気のため街に留まっています。
主人公の友達・周りの大人も表情豊かで
生きる希望を感じられる宮崎作品のような
伸びやかさを感じました。
2020年7月30日に日本でレビュー済み
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風のエキスパート、水のエキスパート、色がわからないリトルアーティスト、朝と夜それぞれ真逆の時間に眠る双子の妹、夏向嵐、ギフト(精霊とか神様とか)、いけにえ、沼にでる幽霊。
このような世界文学に匹敵する設定をもちながら、あくまでも子供目線で書いていく本作は、楽しい子供時代を読者に味わせてくれる。話の省略も上手い。読後感は非常に爽やかです。
ただ、やっぱり、この優れた設定なら、もっと巨大で精緻な物語にできる感じがして勿体ないと思う。
このような世界文学に匹敵する設定をもちながら、あくまでも子供目線で書いていく本作は、楽しい子供時代を読者に味わせてくれる。話の省略も上手い。読後感は非常に爽やかです。
ただ、やっぱり、この優れた設定なら、もっと巨大で精緻な物語にできる感じがして勿体ないと思う。