本書のタイトルにも副題にも「人類学」という言葉は出ていないが、本書はイギリスの社会人類学者による児童養護施設のフィールドワーク（1991年の8ヶ月間）に基づいた研究書である。
これまで、日本の児童養護施設関連の書籍といえば、社会福祉関係者の報告書や体験記は蓄積されてきていたが、それを一つの制度として捉え、欧米との比較を含めて全体的に考察した包括的書籍はほぼ皆無であった。本書はこうした制度に取り囲まれた存在を社会的排除の研究という視角から取り組んでいる。
本書の構成は非常に明確である。まず第１章で本書の研究視角の企図を述べ、第２章で制度の仕組みを歴史的な淵源とともに掘り起こしている。これ以降が現場の話で、第３章で施設運営と職員配置の問題、第４章で子どもの暮らしの枠組み、第５章で児童養護施設の有効性の議論、第６章で里親委託と養子縁組という制度の考察をおこなう。そこから、著者がフィールドワークを終えた後に迎えた大きな変化を第7章にまとめ、戦後体制・少子化問題・国連子どもの権利条約・児童虐待問題との関連で再考し、最終の「むすび」で、こうした変化の中の児童養護施設の新たな役割の方向性を示唆している。
原題はChildren of the Japanese State: The Changing Role of Child Protection Institutions in Contemporary Japanで、2000年に出版されたが、訳書では第２章の歴史の部分は日本人読者には不要として割愛され、逆に原著第８章の児童虐待の部分が大幅に加筆されている。
訳文は平明で、訳者の意向もあって本書のようなタイトルになったのはよく分かるのだが、その分、文化人類学者が本書を手に取らなくなった可能性もあるので、これは残念なことだ。その分析視角に全面的に賛同できる訳ではないが、エンブリーやベネディクトらの研究と同様、異文化研究者からの指摘は、福祉制度の研究者のみならず、実務者にも、大いなる洞察を与えるだろう。
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