「言語」「文学や芸術」に関する記事が非常に多いのは、エリア・スタディーズの他の巻に比べてもかなり目立つ本書の特色。
書中でもとり上げられているが、デンマークの人名や地名に関しては、日本語の文献での「カタカナ表記」が全くバラバラなケースが多い（特に人名は「同一人物」と思えない位に異なるケースが多々ある）。第10章によれば、デンマーク語の母音は何と16種類！もあるそうで、それを「アイウエオ」しか無い日本語の文字で表記する事は、元々不可能である事がよくわかる（まあこれはデンマーク語に限らない問題ではあるのだが）。ただ、第10章を読みながら非常にもどかしい感じに襲われるのは、そもそもカタカナでの「正確な」標記が不可能な言葉の「発音」や「音声」に関する記事を、日本語の文章だけで解説する事自体ムリだからだろう。ぜひ、WEB上で「音声」で確認出来るような方法があれば、多少なりとも実感をもってこの章の内容を理解出来そうにも思うのだが、難しい注文だろうか？
YouTubeでも何でも、方法はありそうだが。
全体としては非常に面白い内容ではあるのだが、エリア・スタディーズの他の巻と比べて、取り上げられたジャンルの幅が狭いのは、評価の分かれるポイントになりそうだ。特に、「経済」や「産業」に関する記事が（ほとんど）無い点は、私には物足りなかった。
「ビール」を取り上げた章で、日本でもおなじみの「カールスバーグ」（本書での表記は「カールスベア」）「ツボルグ」の2大ブランドは登場するが、それ以外の業種（商品・企業）が全然登場しないのは、そのジャンルに詳しい書き手がいなかったのだろうか？デンマークと言わず、北欧の企業の中でも日本における知名度が極めて高い「レゴ」「ロイヤル・コペンハーゲン」「ジョージ・ジェンセン」などが全然登場しないのはどうしたものかと思うし、豚肉を中心とした農畜産業に関しても多少は記事が欲しかったのだが。また、2009年の出版という事もあって、最新の情報は盛り込まれていない。「移民」を巡る問題等々、この10年の間の欧州諸国の変化の大きさを思うと、記事のジャンルの幅を広げ、情報をアップデートした改訂版の登場を望みたいところだ。
基本的には充分お薦め出来る1冊ではあるものの、読者の「ニーズ」によっては物足りなさを感ずる可能性はある。
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