その国の「地理」「歴史」「文化」「政治」「経済」「社会」等々の項目を上手く整理し、広範な情報をわかりやすく伝えているという点は、他の「エリア・スタディーズ」の巻と本書は共通しており、一般的な意味ではお薦め出来る。
ただ、本書が上梓されたのは2010年8月。よりによって、その半年後の2011年初めに、「アラブの春」の先駆けとなる政変が発生し、20年以上この国に君臨したベン・アリー政権があっけなく崩壊してしまうなどという事が起きるとは、本書の企画時、執筆時には誰しも予想出来なかったであろう。その意味では、何とも「不運」なタイミングで世に出てしまった本である。ベン・アリー政権の経緯についてとり上げた第51章（P.318～322）を読むと、ベン・アリーは強権的ではあるが、その経済運営の成功によって高い支持率を維持しており、結果この国は周辺諸国に比べても「安定し」「治安も良く」、国民は「豊かな生活水準を享受」している、とあるのだが、実態は貧富の格差の拡大等による政権への不満・不信のマグマは国民の間に相当に溜まっていたのであろう。
「革命」は成功し、ベン・アリーは追放されたものの、その後この国が大きく「改善」されたのかは微妙だ。少なくとも、この国が誇った（そして本書にも紹介されている）「安定」や「治安の良さ」は過去のものとなってしまった。本書の記述には、その点で現状とのズレを感じさせる部分が散見されるのは確か。これはもちろん執筆者や出版社にはいかんともし難い事柄であるのだが、本書を読むにあたっては、その点は注意されたい。「アラブの春」後のこの国に関する情報を別途入手された上で、それと本書を対比させながらお読みになる事をお薦めする。
人々の暮らしや社会に関する情報が豊富に載っているのは非常にありがたく、面白い。巻末には日本とチュニジアの交流についても記されているが、意外に知られていない事が多いのではないだろうか。宮城・石巻の「チュニジア通り」に関するコラム（P.350～）が印象的だ。東日本大震災で石巻が被災した際に、チュニジアの人々が援助の手を差し伸べたのが当時は意外だったが、なるほどこういう「歴史」があったのか・・と感心させる。
読みやすく面白い好著だけに、尚更、上梓の直後に「アラブの春」が発生したという巡り合わせは何とも皮肉としか言い様が無い。
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