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西田幾多郎と国家への問い 単行本 – 2007/2/9

5.0 5つ星のうち5.0 2個の評価

西田幾多郎の一通の書簡を糸口にして、西田の主権論ないしは国家論を再考しようとしたこの本には、公然・暗黙の二つのねらいがある。ひとつは、とかくイデオロギー的な裁断ですまされがちな西田の晩年の思考を、法と国家の定礎という普遍的な法論議のコンテクストに置き直し、「絶対無」や「絶対矛盾的自己同一」といった西田固有の用語をベースに呈示されたその主権論が、実は何を課題としていたのかを明らかにすること。もうひとつは、その作業の前提ともなることだが、西洋的伝統から生まれた法体系や国家の理論を導入しながら、天皇という特異な存在を軸に国家体制をしつらえた日本で、その継受がどのような問題を孕んでいたのか、そしてそれが全面戦争とその敗北という「例外状況」の中でどのようなかたちで噴き出たのかを洗い直すことである。このことは、グローバル化によって国家の枠や法の根拠が流動化する現代の世界、とりわけ憲法論議をひかえた日本の現状にあって、少なからぬ意味をもつものだろう。
この作業のために著者は、近代における法と国家の定礎の課題、そしてそれに連なる主権の問題系を、ジャン・ボダンからカール・シュミットあるいはフーコーまでたどって素描し、明治憲法の制定期におけるローレンツ・フォン・シュタインや井上毅ら日本の理想家たちの議論の要所を描き出す。ときに一見、迂遠とも思えるこの作業は、しかし西田が取り組んだ課題の歴史的・論理的コンテクストを明らかにし、それを普遍的問いのなかに位置づけるのに役立っている。またそこには、法思想・法制史から哲学にわたる著者の該博な知識と、この課題に取り組むための並々ならぬ理論的準備がよく示されている。
この本の結論は「結」の最初の10行ほどにきわめて凝縮したかたちでまとめられている。その論議を導いているのは、著者がピエール・ルジャンドルから学んだ法の根拠に関する問いと、国家の定礎とそれに関わる第三項の機能に関する論理だが、その観点を西洋法体系の継受の上に立つ日本の国家論や法思想の解明に生かすことで、この本はルジャンドルの仕事がもつ意義を証する優れた成果ともなっている。西田研究、法思想研究の枠を越えて、現代の知的課題に真摯な関心を抱く人びとに広くこの本が読まれることを切望している。
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登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 以文社 (2007/2/9)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2007/2/9
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本 ‏ : ‎ 288ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4753102521
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4753102525
  • カスタマーレビュー:
    5.0 5つ星のうち5.0 2個の評価

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嘉戸 一将
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上位レビュー、対象国: 日本

2016年3月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
 西田幾多郎の国家観なかんずくその国家主権概念を、16世紀フランスの政治思想家ジャン・ボダンの主権の定義"summa in cives ac subuditos legibusque "(臣民からも法からも解放された国家における最高権力)に関する西田の書簡における意図的?誤訳を補助線として用いつつ、彼の論文「国家理由の問題」を読み解くことにより解明した著作。こうした作業を通じて、名高い「絶対矛盾の自己統一」というその根本的発想を踏まえた西田の国家観が、それと並行して1930年代に提唱された「家族国家論」のごとき全体主義的国家観とは異なる、普遍性の次元を目指す試みであったことが示される。

 このことは後者の側からの西田批判のよって来る所以が、どこに存するかを把握するうえでも重要な視点である。西田のこの独自の国家主権観は第一には、個人(特殊)と国家(普遍)を対立させつつ弁証法を通じて前者を後者へと統合するという、ヘーゲルの国家観の克服の試みを踏み台とするものである。こうしたヘーゲルの構えを批判しつつ西田は、国家(普遍)を諸個人の葛藤/共存のうちに内在する自発的秩序ととらえることにより、社会の共同性における個人の自由を救済しようとした(個人的にはこうした西田の姿勢は、ヘーゲルに対するランケの立場と極めて類似したものであるかのように感じる)。

 注目すべきはこうした個人と国家の関係を着想するにあたり西田が、その考察の過程で親炙したはずの帝国憲法論を介しておそらく、井上毅が天皇主権を論じるにあたって依拠した、「シラス/ウシハク」論に多くを負っている点であろう。専制主義と一線を画した天皇の絶対主権を理論化するために着想されたかかる論議は、キリスト教的君主権力理念を欠く我が国において、これを前提とする西洋的な法/権力概念を消化するにあたり、極めて有効な装置であったと考えられる。

 井上の「シラス/ウシハク」論に依拠した帝国憲法下における天皇主権解釈は、美濃部の天皇機関説に至る戦前の標準的学説であったわけだが、穂積八束や上杉慎吉のごとくこうした自由主義的解釈に不満を呈する一群の法学者との論争の対象となったことにうかがわれるように、戦前日本における国家論をめぐる思想史の伏流となっていた。個と全体の止揚を説く西田の国家主権論は一見自由主義的政治観の批判であるかの観を呈しつつ、「シラス」理念を受け継ぎつつ政治における普遍を個別のはざまに作用するものととらえることにより、「家族国家論」が施行するような国家権力の絶対化を、その論理の内部から粉砕する韜晦的な意図を持つものであった。

 全体主義者の側からの西田批判はじつは、こうした西田の韜晦的企図を鋭く嗅ぎつけたものであったともいえる。ともあれ本書は西田の国家論という切り口から、哲学と政治が明治初年以降の我が国においていかに切り結んできたのか、その丁々発止のやり取りを再現してくれる実にスリリングなしごとである。
4人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート
2020年1月2日に日本でレビュー済み
本書は、西田の書簡「国家理由の問題」を読解しながら、西田の絶対矛盾的自己同一概念を用いて近代国家(天皇制国家)の主権と法の関係を説明する大変ユニークは論著である。
①では、西田の絶対矛盾的自己同一とはいかなる概念か。「AはBによって規定されるとい同時にBはAによって規定される」と述べることは、論理的に矛盾し、矛盾律に反する。しかし、西田の生命哲学はこの絶対矛盾的自己の概念によって説明されると哲学者池田善昭氏は年輪を用いて説明する(『福岡伸一、西田哲学を読む』明石書店)。年輪は環境によって規定されると同時に、環境を年輪によって表現することによって、環境を規定すると述べる。まったくその通りで、見事な事例である。
②次に、この西田の絶対矛盾的自己同一の概念を用いて、近代国家(天皇制国家)を説明するとどうなるか。「国家を超越する主権は国法を規定すると当時に、主権は国法によって規定される」と考えることである。主権(天皇主権)が日本の近代国家の明治憲法を規定し、同時に(天皇)主権は、国法(明治憲法)によって規定されると考えるのである。実に説得力ある説明である。主権者である天皇が憲法を制定し、同時に天皇は明治憲法によって規定されるのである。講した天皇制国家の国家体制を「国体」というのである。
③このように考える似よって、天皇制は超越的制度でありながらも、国法によって規定されるという法的根拠を持つことになる。天皇の権力は「万世一系」という神的な存在でありながらも合法的であるという独自の存在となり得たのである。
④もちろん著者は、このような西田の哲学概念を駆使して天皇制国家を正統化しようとするのではない。あくまでも天皇制国家を説明するための概念である。
著者の説明は見事で、西田の初見書簡を用いての論証には大変説得力がある。では、天皇制国家は西洋近代の政治概念によってどのように説明され得るのか?この点が唯一疑問に思われる。美濃部達吉は天皇制を国家有機体説のなかに位置付けた。この考えによれば、天皇の地位の神的性格は否定される。ウェーバーのいう「伝統的支配」が天皇制を説明する根拠となりうるが、これでは西洋の君主制と天皇制が同一視されてしまう。なかなか難しい難問である。
とはいえ、本書は面白く、説得力ある説明が為されている。
復刊を希望したい。お勧めの一冊だ。
1人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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