東京上野にある国立西洋美術館・学芸課長が書いたピーテル・ブリューゲルに関する論考。
ブリューゲルはイタリアに赴き、古代芸術やイタリア・ルネサンスを吸収したにもかかわらず、故郷へ戻った後にイタリア体験をうかがわせるような作品を残していません。
その点について著者次のように論を進めます。
ブリューゲルが残した風景画や農民風俗画は、16世紀のフランドル地方のアイデンティティ的絵画ジャンルであり、イタリアからもたらされたより知的な絵画ジャンルと接することによって、そのイタリアの影響が強くなればなるほどフランドル独自の価値を再構築していこうという気概が生まれていった。であるからこそ、ブリューゲルはネーデルラント礼賛的な作品を、あのロマニズム(イタリアの影響が強い芸術潮流)の中で次々と生み出していったというのです。
特に興味深く読んだのは、ブリューゲルは16世紀のフランドル画壇の中心的存在とは当時見られていなかったという著者の考えです。ブリューゲルが16世紀フランドルの代表的画家とみなされるようになったのは20世紀の美術史研究のおかげとのこと。
「20世紀の末期から21世紀に生きているわれわれは(中略)高貴なものや優美なものばかりが絵画の対象になるのではなく、時に卑俗なもの、さらには醜いものでさえも絵画は描き出すということを認めている」(33頁)。だからこそブリューゲルの同時代人と今の我々との間にはおのずとブリューゲルの評価に差が生まれるというのです。なるほど、私たちは生きている今の時代的尺度に縛られながら過去を解釈・判断せざるをえない存在なのですね。
著者によれば18世紀の美の規範はブリューゲルを歴史の表舞台から一時消し去るようなものだったとか。
残念なのは、本書は美術史の専門家としての文体で綴られているため、決して一般の読者が抵抗なく読めるような筆遣いではない点です。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
ピーテル・ブリューゲル: ロマニズムとの共生 単行本 – 2005/2/1
幸福 輝
(著)
- 本の長さ302ページ
- 言語日本語
- 出版社ありな書房
- 発売日2005/2/1
- ISBN-104756605850
- ISBN-13978-4756605856
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : ありな書房 (2005/2/1)
- 発売日 : 2005/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 302ページ
- ISBN-10 : 4756605850
- ISBN-13 : 978-4756605856
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,136,410位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3つ
5つのうち3つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
3グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ