ヒトのもつ限定的合理性に関し、友野典男は「行動経済学」の中で、網羅的、横断的に
様々な議論を紹介している。その中で双曲割引は少々批判的な紹介に留まる。しかしエ
インズリーはまったく逆に、双曲割引ひとつでどこまで行けるか、やってみようじゃな
いのというアプローチをとっている。その辺は、学問の領域に目配せしなきゃいけない
経済学者と臨床的に使えるものは使っちまえという精神科医との差なのかもしれない。
エインズリーは驚くべきことに、意志の発生すら双曲割引との関連から説明してしまう
のだ。さらに意志の持つデメリット(満足度を減らす場合等)まで検討している。
しかし、本書はプロットも一本槍で筋が通って読みやすいのかといえば、さにあらず。
訳者も述べるように、枝葉が伸びすぎ(枝葉も面白い話が多いのだが)、いったい自分
は何を読んでいるのか、著者に置いてけぼりにされるような箇所が少なくない。
また最初に訳者解説を読むべきかどうか判断に迷う(私は最初に読んでしまった)。な
ぜなら第10章にあるように、それは報酬消費のピークにはやく到達しようとする「い
けてない」拙速な行為だからである。(逆にいえば、本書の読みにくさは、読者の満足
を最大化するために最適化されたプロットなんだろうか。なんて考えたが、多分それは
考え過ぎ。)しかし普通の読者であれば問題は無さそうである。双曲割引という概念に
初めて触れる場合や、本書の押さえるべき主脈は何かについて水先案内を受けたい場合
は、むしろ先に読んでおいた方が、適当だろう。
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誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか 単行本 – 2006/8/30
ジョージ・エインズリー
(著),
山形 浩生
(翻訳)
ヒトはなぜ、ドラッグや酒やタバコ、ギャンブル、不倫、強情、問題の先送りといった、明らかに自分にとって有害だとわかっていること、後悔するとわかっている行動をとってしまうのか。
ソクラテスやアリストテレス、フロイト、フランシス・ベーコン、ヒューム、サミュエルソン、・・・といった様々な分野の人たち(心の哲学、精神分析、行動経済学、知覚心理学、ゲーム理論、カオス理論、神経生理学、神学、…)も、自滅的な行動について研究をしているが、残念ながら、この問題を適切に解明できてはいない。本書では、心理学者である著者が、経済学的な思考のなかでももっとも微視的な応用(ミクロミクロ経済学、あるいはピコ経済学)から、人間の将来予測と価値付けに結び付けて、効用主義にかわる新しい価値の考え方(双曲割引曲線)を生物学的な見地から提示する。
ソクラテスやアリストテレス、フロイト、フランシス・ベーコン、ヒューム、サミュエルソン、・・・といった様々な分野の人たち(心の哲学、精神分析、行動経済学、知覚心理学、ゲーム理論、カオス理論、神経生理学、神学、…)も、自滅的な行動について研究をしているが、残念ながら、この問題を適切に解明できてはいない。本書では、心理学者である著者が、経済学的な思考のなかでももっとも微視的な応用(ミクロミクロ経済学、あるいはピコ経済学)から、人間の将来予測と価値付けに結び付けて、効用主義にかわる新しい価値の考え方(双曲割引曲線)を生物学的な見地から提示する。
- 本の長さ416ページ
- 言語日本語
- 出版社NTT出版
- 発売日2006/8/30
- ISBN-104757160119
- ISBN-13978-4757160118
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商品の説明
著者からのコメント
山形浩生氏の本書のレビュ
人はなぜ迷うのか、なぜ後悔するのか、なぜ誘惑を乗り越える「意志」なんてのがあるのか、なぜ痛いのはいやなのに人は痛みを無視できないのか、なぜ人はついついかさぶたをいじったり口の中のできものをつついたり鼻毛を抜いたりしてしまうのか、なぜ人は中毒になるのか——をれを交差する双曲割引というたった一つの原因から導いてみせる驚愕の一冊。
人はなぜ迷うのか、なぜ後悔するのか、なぜ誘惑を乗り越える「意志」なんてのがあるのか、なぜ痛いのはいやなのに人は痛みを無視できないのか、なぜ人はついついかさぶたをいじったり口の中のできものをつついたり鼻毛を抜いたりしてしまうのか、なぜ人は中毒になるのか——をれを交差する双曲割引というたった一つの原因から導いてみせる驚愕の一冊。
出版社からのコメント
ヒトはなぜ、ドラッグや酒やタバコ、ギャンブル、不倫、強情、問題の先送りといった、明らかに自分にとって有害だとわかっていること、後悔するとわかっている行動をとってしまうのか。
本書では、心理学者である著者が、経済学的な思考のなかでももっとも微視的な応用(ミクロミクロ経済学、あるいはピコ経済学)から、人間の将来予測と価値付けに結び付けて、
効用主義にかわる新しい価値の考え方(双曲割引曲線)を生物学的な見地から提示する。
著者について
ジョージ・エインズリー(GEORGE AINSLIE)
フィラデルフィアのテンプル大学教授。専門は精神医学。
Veterans Affairs Medical Center(退役軍人病院)のチーフ精神病医。著書に、Picoeconomics(Cambridge University Press, 1992)がある。
フィラデルフィアのテンプル大学教授。専門は精神医学。
Veterans Affairs Medical Center(退役軍人病院)のチーフ精神病医。著書に、Picoeconomics(Cambridge University Press, 1992)がある。
登録情報
- 出版社 : NTT出版 (2006/8/30)
- 発売日 : 2006/8/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 416ページ
- ISBN-10 : 4757160119
- ISBN-13 : 978-4757160118
- Amazon 売れ筋ランキング: - 188,094位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年10月5日に日本でレビュー済み
人がなぜ矛盾をはらんだ行動をしてしまうかを双曲割引の理論でもって説明している。理論は完璧のような気がするが、その著者の言っている双曲割引の信憑性を裏付けるデータがほしかった。というのも、矛盾した存在である人間の愚行は特にこれだけのページを読むまでもなく一般人にも周知の事実すぎて、あまりにもあたりまえのこと読まされすぎた感があったからだ。しかし、この理論から、さまざまな可能性を予見させる考え方は大変おもしろく、一般的な読み物として結構おもしろいと思う。それから、訳者の山形氏は訳者としてすごいのかでネットの自由は進化するを読んでも感じたが、文章が大変ポップな感じがして、こういう分野の本を読むのに肩がこらずによめる感じもとてもいい。本論を読む前に、訳者の解説を読んでから読むこともお勧めする。
2012年12月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
経済学、行動分析学、認知科学を学んでおくと、どれがキィワードになっているのか気づきを得やすいのではないか。とは言うものの、訳者の山形さんが書いているように「本書は決してスルスル読める本にはなっていない」という評価が当たっている。日本語もよく分らないところが多々ある。例えば、「意思に基づく戦略が感情的な報酬を利用する能力が低下してしまう」と、第12章のまとめにあるが、どうまとめている言葉なのか読者の注意に引っかからない。私は、書いてある順に読んでいったが「訳者解説」が最後に載っているので、こちらを先に読んでから本文に取りかかった方が気が散らなくて良いだろう。
主題は、人が将来起こることの価値を現時点でどう評価するのか、どのくらい割り引いて評価するか(p.10、75,307、)という悩みに対して、選択という決定をもたらす意志の存在と機能を問う。議論の新しさは、著者の提唱する双曲割引の概念で、将来の価値に対する現在の欲望と判断という二つの選択体験を通して説明しようとする点にある。
著者が割引と言っているのは、将来の満足は手元になく、目の前に誘惑があると、将来は時間がかかる分だけ価値が低く見えるというこの両者の差のことである。双曲的であるとは、時間的に見ると、手前で評価する価値から順に将来の大きな価値に近づくほどその富の値は急激に上がる、というものである(p.51に図あり)。大きな価値を得ようとして始めた行動は(痩せようとか酒・タバコをやめようというような)、誘惑に負けそうになるときに意志が働く。本著では意志とは、「外因的に思える各種の価値や誘惑の行列に対して、自分自身の支配的な価値観を適用する機能のこと」(p.10)、と定義している。
我が国の昔の人は、「後悔は先に立たない」と口酸っぱく言ったが、アメリカの精神・心理学者であるエインズリーによるそのことわざの説明である。強い意志は良いことが多いのだが、その強い意志にも、強迫観念や硬直性などの不都合があるのでこれにも触れている。
目次は章節。索引あり。参考文献あり。しおり紐あり。
主題は、人が将来起こることの価値を現時点でどう評価するのか、どのくらい割り引いて評価するか(p.10、75,307、)という悩みに対して、選択という決定をもたらす意志の存在と機能を問う。議論の新しさは、著者の提唱する双曲割引の概念で、将来の価値に対する現在の欲望と判断という二つの選択体験を通して説明しようとする点にある。
著者が割引と言っているのは、将来の満足は手元になく、目の前に誘惑があると、将来は時間がかかる分だけ価値が低く見えるというこの両者の差のことである。双曲的であるとは、時間的に見ると、手前で評価する価値から順に将来の大きな価値に近づくほどその富の値は急激に上がる、というものである(p.51に図あり)。大きな価値を得ようとして始めた行動は(痩せようとか酒・タバコをやめようというような)、誘惑に負けそうになるときに意志が働く。本著では意志とは、「外因的に思える各種の価値や誘惑の行列に対して、自分自身の支配的な価値観を適用する機能のこと」(p.10)、と定義している。
我が国の昔の人は、「後悔は先に立たない」と口酸っぱく言ったが、アメリカの精神・心理学者であるエインズリーによるそのことわざの説明である。強い意志は良いことが多いのだが、その強い意志にも、強迫観念や硬直性などの不都合があるのでこれにも触れている。
目次は章節。索引あり。参考文献あり。しおり紐あり。
2008年11月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
心理学は人間を機械とみなす傾向がある。コンピューターのアナロジーで脳や心を語るのはその典型だろう。本書で言うところの効用理論と認知理論はどちらもこの代表打者だ。しかし、人間という機械は情報処理装置を備えているだけではない。エンジンなのかモーターなのか知らないが、動力源だって備えている。一般には「欲求」や「意志」と呼ばれていながら、何故か心理学からはほとんど注意を払われてこなかったその動力源をつぶさに解き明かしている。しかし、その解き明かし方がすごい。「ある動物の行動がより低次のプロセスや心的能力で説明できる場合は、高次のプロセスや心的能力を持ち出すべきではない」というモーガンの公準を体現しているからだ。
説明に使う「低次のプロセス」は、ハトやマウスやサルの行動実験から導き出した「双曲割引関数」という原理だけ。あとは、それを補強するための枠組みとしてゲーム理論とカオス理論を少々。これだけの道具で、文学や哲学が長い年月をかけて洗い出してきた「意志」の性質と、それが個人の中で形成されていくプロセスを描き出し、「意志」にまつわる「それってあるある!」というエピソードの多くを説明してしまう。しかも精神科医らしく、フロイトの概念まで説明してみせるというおまけつきだ。そして話は、「意志」の功罪とあしらい方、「意志」と社会環境との相互作用にまで広がっていく。
もちろん、著者も指摘しているように、ここで描かれたストーリーが全て正しいと言い切れるわけではない。この本の一番の意義は、「双曲割引関数」という世間一般にとって目新しい知見を広めたことでも、結論として提示された「意志」にまつわるストーリー自体の面白さでもなく、その間をつなぐ論考そのものにあるのではないかと思う。つまり、一般的な概念や合理論的な推論だけでは演繹できないミッシング・リンクを、行動実験から実証的に得られた帰納的原理を用いることで補ってみせるという痛快さだ。
決して読みやすい本ではないが、興味深い小ネタも満載である。(個人的には、現在の自分と将来の自分との間の異時点間交渉という反復囚人ゲームが面白かった。)巻末にある長めの訳者解説がくどいくらいに親切丁寧なので、まず先にこれを読み、折に触れてそこに立ち戻りながら本文を読み進めるのがいいと思う。
説明に使う「低次のプロセス」は、ハトやマウスやサルの行動実験から導き出した「双曲割引関数」という原理だけ。あとは、それを補強するための枠組みとしてゲーム理論とカオス理論を少々。これだけの道具で、文学や哲学が長い年月をかけて洗い出してきた「意志」の性質と、それが個人の中で形成されていくプロセスを描き出し、「意志」にまつわる「それってあるある!」というエピソードの多くを説明してしまう。しかも精神科医らしく、フロイトの概念まで説明してみせるというおまけつきだ。そして話は、「意志」の功罪とあしらい方、「意志」と社会環境との相互作用にまで広がっていく。
もちろん、著者も指摘しているように、ここで描かれたストーリーが全て正しいと言い切れるわけではない。この本の一番の意義は、「双曲割引関数」という世間一般にとって目新しい知見を広めたことでも、結論として提示された「意志」にまつわるストーリー自体の面白さでもなく、その間をつなぐ論考そのものにあるのではないかと思う。つまり、一般的な概念や合理論的な推論だけでは演繹できないミッシング・リンクを、行動実験から実証的に得られた帰納的原理を用いることで補ってみせるという痛快さだ。
決して読みやすい本ではないが、興味深い小ネタも満載である。(個人的には、現在の自分と将来の自分との間の異時点間交渉という反復囚人ゲームが面白かった。)巻末にある長めの訳者解説がくどいくらいに親切丁寧なので、まず先にこれを読み、折に触れてそこに立ち戻りながら本文を読み進めるのがいいと思う。
2008年1月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者は、未来の報酬の心理的な割引は、
合理的な指数関数ではなく、双曲線型であるという、
ハーバードにいた心理学者ハーンスタインの
仮説を研究してきた。
この事実はいまでは実験経済学の中で広く知られていて、
最近でも阪大のCOE研究でも使われているほどである。
双曲割引では、異時点間の選好に矛盾が生じる結果、
ダイエット中なのに、つい食べてしまう、とか
禁煙したいのにできない、とかいうような人間的、
あるいは日常的な悩みを説明できるのである。
これはすでに行動経済学のすべての教科書に書いてあるので、
詳しくはそちらを読むのがいいだろう。
本書は教科書に比べて、あまりにも話題が散発的で、
あまりまとまっていないため、エッセイというべきだからである。
著者は第一人者であるため、
私は双曲割引の基礎となる神経科学的な基盤について
示唆しているのではないかと期待して読んだが、
それは全くなくて、
過去の人間の知見と双曲割引仮説がいかに整合するかに
の説明に終始しているのは残念である。
合理的な指数関数ではなく、双曲線型であるという、
ハーバードにいた心理学者ハーンスタインの
仮説を研究してきた。
この事実はいまでは実験経済学の中で広く知られていて、
最近でも阪大のCOE研究でも使われているほどである。
双曲割引では、異時点間の選好に矛盾が生じる結果、
ダイエット中なのに、つい食べてしまう、とか
禁煙したいのにできない、とかいうような人間的、
あるいは日常的な悩みを説明できるのである。
これはすでに行動経済学のすべての教科書に書いてあるので、
詳しくはそちらを読むのがいいだろう。
本書は教科書に比べて、あまりにも話題が散発的で、
あまりまとまっていないため、エッセイというべきだからである。
著者は第一人者であるため、
私は双曲割引の基礎となる神経科学的な基盤について
示唆しているのではないかと期待して読んだが、
それは全くなくて、
過去の人間の知見と双曲割引仮説がいかに整合するかに
の説明に終始しているのは残念である。
2015年5月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
惹きつけられて購入しましたが、ページ数の多さと中身の薄さに断念しました。