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猫はカガクに恋をする? 単行本(ソフトカバー) – 2007/6/7

5.0 5つ星のうち5.0 3個の評価

商品の説明

抜粋

プロローグ

 深夜の暗闇の中、透(とおる)はふと目を醒(さ)ました。書斎の方で、物音
がしたような気がしたのだ。
 ----何だろう......本が落ちたのかな?
 書斎の机の上や棚には、本のタワーができている。その中の一冊が滑り落ちた
のだろうか。この部屋はマンションの八階だ。まさか誰かが壁をよじ登っ
て侵入してくるとは思わないが、なぜか今の音が気になった透は、起きて書斎を
確認しようと横向きになろうとした。が、
 ----か、身体が動かない!
 目はパッチリと開いているのに、身体が硬直して全く動けない。
 ----これが、俗にいう金縛りなのか?
 透に「霊感」などというものはなく、今まで幽霊も人魂(ひとだま)も、未確
認飛行物体も見たことがなかった。全く、初めての経験だ。書斎のほうから、明
らかに何者かの気配がする。足音を忍ばせて、隅々を嗅(か)ぎまわっている様
子だ。
 書斎の窓と同じ高さに、隣の専門学校の裏階段の踊り場がある。そこから書斎
の窓に飛び移ることはできないにせよ、ロープなどを張って伝ってくれ
ば、窓の柵に手をかけることは可能だ。だが、寝る前に窓の鍵は閉めたはずだ。
 その気配は、書斎を出てリビングへと移って来た。微(かす)かではある
が、足音がする。
 ----やはり侵入者か!
 何とかしたいが、身体は全く動いてくれない。動かせる唯一のものは、目だけ
だ。完全に目は醒め、耳は研ぎ澄まされているのに、何もできない。その気配
は、リビングを一通り物色したかのようで、やがて透の寝ている寝室へと向かっ
てきた。
 微かな鼻息が聞こえる。まるで匂いを嗅いでいるような......気配は、ベッド
の横を通り過ぎると、透の足元のほうへと移動した。
 ----ひっ!
 何者かが、ベッドの上に乗ってきた。思っていたよりもずっと軽い。そしてそ
れは四つん這(ば)いでベッドに這い上がってきたようだ。ゆっくりと、透の身
体の上を、足元から頭のほうに向かって進んでくる。それはまるで、小さな赤ん
坊が這いずってくるかのようだ。
 ----み、水子の霊か?俺に水子なんて憑(つ)いてたか?
「それ」は明らかに人間ではない気配を漂わせている。この世のものではないよ
うな......背筋が寒くなる。「それ」は匂いを嗅ぐような鼻息をたてながら、
徐々に透の顔のほうへと近づいてきた。
 得体の知れない恐怖に、透のこめかみから冷や汗が伝う。やがて「それ」は、
とうとう透の顎元までやってきた。匂いを嗅がれている。「それ」の吐くけだも
のじみた息に、透の恐怖はさらに増幅された。
「それ」の手が、枕に沈み込んだ。暗闇の中に、緑色の双眸(そうぼう)がぎら
りと光り、透の目とまともに合った。透は、その目の妖しい輝きに意識が吸い込
まれてゆくのを感じていた......

***

 透は、再び目覚めた。窓からは明るい日が射し込み、小鳥が鳴いている。朝
だ。いや、既に昼過ぎだ。
 ----夜中のあれは......夢か......
 穏やかな午後の日差しの中では、昨夜の出来事など、ただの冗談のようにし
か思えない。馬鹿馬鹿しい夢を見たものだと呆(あき)れながら、透は横向きに
なって起き上がろうとした。
「うわっ! お前、どこから入ってきたんだ!」
 透の枕元には、ビロードのような灰色の毛並みをした仔猫が、丸くなって眠っ
ていた。透の声に片目を開いたその灰色の猫は、ちらりと透を見やると、長い尻
尾(しっぽ)の先だけをちょいと動かして、また目を閉じてしまった。
 透はベッドから跳ね起きると、窓という窓を調べた。どの窓も、もちろん玄
関もきちんと閉まっている。書斎の窓も、ちゃんと鍵がかかっている。
 しかし、昨夜、物音がしたのはこの部屋からだ。床を見ると、一冊の本がペー
ジを開いた状態で落ちていた。拾い上げて見ると、「シュレディンガーの思考
実験」のページが開かれている。量子(りょうし)論の本だ。
 この本を、机や棚の上に置いておいた覚えはない。スライド式の書棚の、奥に
しまってあったはずだ。しかもこの本の場所は、そのスライドの後ろ側だったは
ずである。昨夜寝る前に、調べ物をするためにスライドを動かした記憶がしっか
りとある。どの本がどこにあるかくらい、それなりに把握(はあく)しているつ
もりだ。
 スライドを動かしてみる。結構重い。スライドの奥の書棚を見ると、ちょうど
その本が入っていたと思われる隙間(すきま)が、ぽかんと口を開けてでもいる
かのように空いていた。
 ----スライドが勝手に動いて、この本が落ちたのか?それとも、この本がスラ
イドをすり抜けて落ちたとでもいうのか? トンネル効果※の話でもあるまい
し、一冊の分厚い本がスライドの壁とそこに詰まっている本をすり抜けて、落ち
てきたとでも?
 透は、開かれたページをまじまじと見つめた。
「シュレディンガーの猫、ねえ......」
 ふと気づくと、さっき枕元で丸くなっていた灰色の猫が、尻尾を足に絡ませ
て、擦(す)り寄ってきていた。しゃがんで頭を撫でてやると、気持ちよさそう
に喉(のど)を鳴らす。
「お前、どこから来た?......まさかな」
 この本の中からか、と訊(き)こうとして、その考えのあまりの馬鹿馬鹿しさ
に、透は苦笑した。

※現代科学では本がスライドを「トンネル」のようにすり抜ける確立はゼロで
ないことがわかっています。

登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ インデックス・コミュニケーションズ (2007/6/7)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2007/6/7
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 280ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4757304552
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4757304550
  • カスタマーレビュー:
    5.0 5つ星のうち5.0 3個の評価

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