P3のスピンオフ的なストーリーを描く、オリジナル本その2。
一冊目の出来がすばらしかったのと、もともとのゲームが好きでしたので、こちらも続けて読みました。
タイトルは「シャドウクライ」=シャドウの慟哭、と思わせますが、本来の意味は「シャドウ喰らい」、シャドウを食べる異形の彼(イズミ)の通称。
このイズミというのはこの作品のオリジナルのキャラです。
話はストレガというゲーム本編では敵キャラとしてでてくるメンバーの話で、読み終わって感じるのは「すごくすごく・・胸に迫る話」ということでした。
前作のオワリノカケラがすごく正だとしたらこれは負。終始シリアスな展開(前作はコメディな展開が多かった)で、時期としてはゲーム本編の8月~9月の晩夏の話です。
前回がSEESの過渡期を描いたものなら、これはSEESに対抗するストレガの、過渡期を描いたもの。
ジンがメインの語り手となっておりますが、タカヤにチドリも出演シーンが多いです。
あとは荒垣もシーン多いです。ジンがかなり荒垣に肩入れしていたのがわかります、ここらへんはゲームでは語られなかったので裏側が見れて良かったです。
更にゲーム本編では語られることも少なかった、ペルソナ召喚の秘儀?なども描かれております。
「ペルソナ召喚、とは死を仮想体験することにより、魂の負の部分を具現化」とあり、それを行うのが召喚銃。
何故銃で頭を打つのか、というのがここに来てはっきりとわかります。
つまり死ぬことを考えたときに出現するものがペルソナなのですね。
そして、ペルソナ能力の低いものは、死の追想だけに留まらず、実際に自身の体を物理的に痛めつけることもするそうで、それが召喚ナイフ、というもので今回はイズミというこの作品のオリジナルキャラがそれを用いております。
一方、召喚器なくとも召喚できるのがタカヤ。彼はすごく精神能力が高いとのことです、扱うヒュプノスもかなりの高位ペルソナらしい(メギド使いというのもそれゆえでしょうか)
ゲームでは、重要な役どころでありながらもその裏が語れることが少なかったこのストレガの日常やら、思いやら、を描いているので、そこに興味があったのですごく楽しめました。
あとはストレガと荒垣の関係、もかなり書かれているのでここらへんもすごく読み応えあります。
話は、ジンが再会した旧友イズミの出現で始まります。
ちょうど時期的には、ストレガが出現しだしたころ・・つまりあの地下の武器庫?に閉じ込められて~のボス戦あたりです。ジンの言葉にも「この前あいつらを閉じ込めてやった」とかいうのがありました。
そして、このイズミというのは過去、桐条研究所での実験体としてとらわれていた時のジンの友人らしい。
そこより逃げ出したときにジンをかばって顔に傷があり(これが後ですごく意味を持ちます)、その傷を隠すために前髪を伸ばしております。
再会をうれしく思うジン、そしてイズミも長年の会わなかった時間をないかのようにふるまいますが・・
イズミは変わった、ことに気づくジン。
イズミは、ある女性と暮らし、その女性の子にパパと慕われるほどに、人間の生活になじんでいる。
イズミの今の願いは、人間になること、つまり生への執着。
これは常に死を予感し、一時一時を生きるストレガにとっては、ま逆の思考。
ジンはそんなイズミをばかばかしいと思いながらも、子と戯れるかつての親友を見るたび、うらやましい、とも思いだす。
このジンとイズミの話が主軸にあります。
この関係は、夏祭りに一緒にいったり、風呂を貸してもらったり、イズミがバイト先(はがくれ)のラーメンをおごってくれたり・・そんな幸せなシーンをちりばめながら、最後の決戦のシーンに持ち込みます。
そして、この戦闘シーンが、最高でした。この作者の描くアクションシーンは前作もですが非常に躍動感があり、読んでいて一気に引き込まれます。スピード感と緊張感の続く展開に、後から後から繰り出される技にどんでん返しの連続。
イズミvsストレガ3人なのですが、このイズミはシャドウ喰らい、でありさまざまなシャドウを自分の中に取り入れているからその特性を生かしているため、全部の技に耐性があします。本当にメギドぐらいしか効かない(ので、タカヤの消耗が激しい)
ラストのシーンまでが本当に、手に汗を握ってしまいました。
前回のオワリノカケラもですが、この戦闘も最高で、何回も読み返してしまいます。
イズミを殺したくない、と思いながらも、わしの手でほおむってやる!というジン。
ジンはすごくこう、他のストレガ2人と比べ人間味がある、と感じます。
泣きながら、でも戦い続ける姿には胸を打たれました。
このクライマックスの戦闘はボリュームもかなりのページにわたるのですが、長さを感じさない最高のシーンでした。
ほかの軸として、
ストレガの復讐代行の話があります。
復讐代行を頼んできたのが、イズミ。殺してほしい相手は、
「過去に手負いの自分を助けてくれた人・・その人が誰かに殺されたらしい・・世間ではその死は事故となっているらしいが、殺人というのは遺族の話からは確実らしく・・、その相手を探して殺してくれ」
というもの。
その「自分を助けてくれた人」=天田の母、「遺族」=天田、です。
つまり、そういう・・ことです・・
これを引き受けたジンはその殺害現場となった(事故とされている)場所におもむき、その場所に花を手向けている人物を見つけます。
その人物=荒垣です。
荒垣、そんなことしてたんか・・と思わずにいられない・・
そしてちょうどそこを、シャドウクライに襲われそうになったジンは、荒垣に間一髪助けられ。
その恩として、荒垣に声をかけます。どこに誘えば来てくれるか、と悩んだジンは無難にはがくれに誘い(これはいつか荒垣がぼそりと言った、「ラーメンは気軽に食えていい」という言葉をしっかり覚えていた)ますが、このはがくれにイズミがバイトおり、ここで3人顔合わせがなんとも複雑です。読んでいるほうをいろいろハラハラさせる展開でした。
あとは荒垣がSEESのことをストレガに教えた・・という気になる書かれ方もありました。
その代価として制御剤をもらったのか?とかも思わないでも・・
あとは制御剤を服用しすぎると、内臓がくさって吐血するらしいということ。
イズミはもうこの域に行ってます・・荒垣もそのうち変化でてくるのか・・
あとは制御剤で肌に痕がでる、というのも当方はゲームプレイ時に少し想像していたことだったので、びっくりしました。
これで荒垣の厚いコートの意味もわかりうる気がします。(痕を隠すため・・?)
ストレガもチドリに、ジン、手先まで隠れる服、というのもこれでしょう。
タカヤは逆に、その痕を誇りにさえおもっており、その痕をアートにしたてたtatooを入れているとのことでした。
ちなみに、チドリの傷は、背部にあり、肩甲骨から背中の中央にかけて二つ長い痕があるそうで、それを「翼のもがれたあと」と表現しているのが、なんか感慨深かかったです。
今回はストレガ3人もですが、このチドリにもかなりいいシーンが多いです。
背中の傷のエピソードもですが、イズミの世話している子に懐かれ一緒に風呂に入っているチドリ、はじめはうるさいとさえ思ったその子にふといとしさを感じる瞬間。
こんな子、なら生んでみたい・・
というチドリ。
どきっとしました、生む、という発想をする彼女もですが・・(ほしいじゃないのか・・それはつまり腹を痛めてという過程を経て?)という感覚を持つことに、彼女のリアリズムを感じました。普通の女の子ならほしい、というのでしょうが、彼女は「そんなほしいなんて、ほしいなら生む、でしょう」とでも冷めた目で、でも真理を言うんだろうなと思います。
あとは、今回、イズミが女性を愛して、しまったばかりに道を外れてしまった・・と思うジンは、
最後のシーンで「おまえは人間の男に心移りしたりして、変な道行くなよ」などとチドリに軽く言います。
まあ、これは冗談なのですが・・
チドリは、そんなことあるはずもない、私の絵、理解する人もいないし、と自分の絵を理解しない限りありえないみたいなことを言い残しポロニアンモールにスケッチに出かける・・で、この話「シャドウクライ」は終わっておりますが・・
つまり、そういうことですね、これは、このあと、順平との出会いが待っているということ・・
あとはちょこっとした読みどころとして
・天田が自分の親の復讐のことで悩んでいて、それを真田にそれとなく相談するシーン
「僕のやるべきことを、やるべきだとは思うのですが・・」
それに真田は
「思ったことはやり遂げろ」
と力強くいい、そしてそれに天田は決心をきめるとかいうんですが・・
これすごいな・・
いろんな意味で、悲痛というか、残酷なシーンにも見えた。
・あとは、Y子が登場した
ジンがオンラインRPGをしているときに出会うんですが、ここでY子、N島、という話が出て
「なんやそれ」というジンに
「中島に弓子、ですね」とかいう(隣からのぞいていた)タカヤ
あとはY子とN島が実際にジンの前で会話ってのもありました。
Y子のきゃぴきゃぴ具合にも、終始「どうでもいい」と返答する中島
ここは面白かったです。
・あとは夏祭りで一人っきりの鳥海先生
とか
・はがくれラーメン時に、グルメキングが「ボクの友達に電話!」とか言っていたけど、あれは主人公か・・
・あとは、主人公は夏祭りをだれかと言ったらしい(デートしてる、でも相手のカも見えない)とジンは言ってます。
などなど、本当に主軸の話の展開もさることながら周囲の取り巻くいろいろな話も素晴らしく読み応えありました。
いろいろこの記事だけでは書ききれませんが、とにかくいろいろをこのP3というゲーム作品の裏面が明らかになり、更に考えさせられることも多くあり、とても刺激的な一冊でした。
そして私はジンが好きになり、タカヤの美学に惚れました。
ていうかこのタカヤを崇拝しているジン、ですが、でもイズミのターゲットが荒垣と知ったとき、それをタカヤには言えなかったジン・・
こんなタカヤに隠し事をする彼も珍しいのですが・・
「じぶんの中で、なぜかあいつ(荒垣)は気になる存在・・」とかも言っております。
ジンはタカヤには敬愛、イズミには友愛、そして荒垣には愛情のようなものを感じていたのかもしれません。
荒垣と真田の絆を読むなら、前作オワリノカケラ。
深い感動とペルソナ3のあの世界観をどっぷりと堪能+本編であかされなかった謎を知りたい・・、でしたらこっち「シャドウクライ」に軍牌があがりそうです。
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ペルソナ3 シャドウクライ (ファミ通文庫 P 7-1-2 SPECIAL STORY) 文庫 – 2007/6/30
今日と明日の狭間にある在りえない時間――影時間。
そして、影時間に現われる異形シャドウと謎の塔タルタロス。
唯一シャドウに対抗しうる力――ペルソナ能力を駆使し戦う〈S.E.E.S.〉の
活躍の裏側に、ペルソナ能力を己のためだけに行使する『ストレガ』と名乗る者達がいた。
その能力を使った「復讐代行」を生業とする彼ら――タカヤ、ジン、チドリの
ゲームでは語られることのなかったエピソードを綴る、大人気ゲームのノベライズ第2弾!
そして、影時間に現われる異形シャドウと謎の塔タルタロス。
唯一シャドウに対抗しうる力――ペルソナ能力を駆使し戦う〈S.E.E.S.〉の
活躍の裏側に、ペルソナ能力を己のためだけに行使する『ストレガ』と名乗る者達がいた。
その能力を使った「復讐代行」を生業とする彼ら――タカヤ、ジン、チドリの
ゲームでは語られることのなかったエピソードを綴る、大人気ゲームのノベライズ第2弾!
- 本の長さ262ページ
- 言語日本語
- 出版社エンターブレイン
- 発売日2007/6/30
- ISBN-104757735952
- ISBN-13978-4757735958
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登録情報
- 出版社 : エンターブレイン (2007/6/30)
- 発売日 : 2007/6/30
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 262ページ
- ISBN-10 : 4757735952
- ISBN-13 : 978-4757735958
- Amazon 売れ筋ランキング: - 469,081位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年8月31日に日本でレビュー済み
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2007年7月4日に日本でレビュー済み
(ストレガ)のジンが主役の物語。死んだと思われていた友人イズミとの再会を果たす面々。
知られていないストレガの私生活も知る事が出来ます。ジンの夏祭りの奮闘も必見!
物語の終盤は切ないです。ジンとチドリのやり取りもおかしくて笑えます!
知られていないストレガの私生活も知る事が出来ます。ジンの夏祭りの奮闘も必見!
物語の終盤は切ないです。ジンとチドリのやり取りもおかしくて笑えます!
2013年6月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ストレガと新垣との意外な交流や、他のコミュも断片的に関わり、ペルソナ3の世界にかなり奥行きが生まれたと思います。他にもノベライズが数冊出ていますが、自分の中ではこれが1番です
2007年8月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
もう1人の気のいいストレガの出身者イズミと復讐代行業のジンを中心とした3人のメンバーの交流を縦軸にストーリーが展開します。
復讐代行業者だって、頭髪の後退は気になるし、シャワーも浴びれば、ラーメンも食べる(当然「はがくれ」)。
そんなゲーム本編の昼の学生生活の「明るさ」「軽妙さ」から受け継いだ笑ってしまう軽妙なやりとりと、ヒトとしての生活の「明るさ」が描かれれば描かれるほど暗さを増す「ストレガ」「シャドウ」「影時間」といった存在の暗さ、残酷さが、上手く受け継がれていると思います。
「限りがあるからこそ、今生きていることが輝ける」
だからこそ際立つ「残酷な結末」。
アトラスのアトラスたる所以です。
単純なアンソロジーではなく、きちんとそういったゲーム本編のエッセンスのある作品です。
最終ページがチドリが伊織と出会うその日を予言する文になっているので、時期的な設定はゲームの進行と一部並列になるのかな?
復讐代行業者だって、頭髪の後退は気になるし、シャワーも浴びれば、ラーメンも食べる(当然「はがくれ」)。
そんなゲーム本編の昼の学生生活の「明るさ」「軽妙さ」から受け継いだ笑ってしまう軽妙なやりとりと、ヒトとしての生活の「明るさ」が描かれれば描かれるほど暗さを増す「ストレガ」「シャドウ」「影時間」といった存在の暗さ、残酷さが、上手く受け継がれていると思います。
「限りがあるからこそ、今生きていることが輝ける」
だからこそ際立つ「残酷な結末」。
アトラスのアトラスたる所以です。
単純なアンソロジーではなく、きちんとそういったゲーム本編のエッセンスのある作品です。
最終ページがチドリが伊織と出会うその日を予言する文になっているので、時期的な設定はゲームの進行と一部並列になるのかな?
2009年12月22日に日本でレビュー済み
内容はゲーム本編で主人公たちと敵対したストレガ三人組とオリジナルキャラが話の中心で、ジンが主役な話です。ゲーム本編の主人公も少しだけですが出てくるし、真田や荒垣や天田やコロマルと言ったメンツも出てきますが、荒垣以外は脇役な感じです。評価は、はがくれや一部のコミュニティのキャラが出てきたりと、どこかゲーム本編の雰囲気が出ていたり、ストレガのアジトでのタカヤ達の生活が分かったり、チドリやジンの会話が面白かったり、最後の話でおっ?と思ったので★四つです。