最初に、この本は読み方に注意すべきだ。本の途中で頁を開くと、右側に日蓮の言葉と現代語訳、左側に超訳がくる。しかし、この右と左が対応するのでなく、左頁の超訳の元となる日蓮の言葉（とその現代語訳）はその次の頁の右側に記されている。これは紛らわしい。読み方に注意しないと、せっかくの本書の良さが伝わらない恐れもあろう。
さて、内容である。超訳のニーチェが大ヒットし、世は超訳本ブームである。仏教関係でも『超訳 ブッダの言葉』『超訳 般若心経』『空海 人生の言葉』など色々と出ている。でも、ニーチェ好きな私は、今一つ物足りなさを感じてきた。「考えない」「怒らない」「こだわらない」「捨ててしまう」等々、どちらかといえば後ろ向きなメッセージが多いからだ。ニーチェのように我々の生を大らかに肯定し、大胆に、自由に、自立して生きる秘訣を仏教から得られないものか。そう思っていたところに本書が出て、さっそく手に取った。
「正しく怒る練習をしよう」「欲望を従えよう」「われわれはしょせん動物である」「悟りとは究極の自覚である」「悲しみを突き抜ける力」「ナショナリズムは弱者の宗教である」「仏教に終末論はない」――まさしくニーチェ的な仏教僧がここにいた。本書は「人生の仕組み」「運命の仕組み」について、ウソ偽りなく語り、多くの気づきを与えてくれる。
あくまで筆者の超訳なのかもしれない。だが、明治の文学者の高山樗牛がニーチェと日蓮を結びつけて論じたように、日蓮こそニーチェ的な仏教の思想家であろう。その超訳本はやはり面白い。「悪を生かして使う」「誠実なウソは悪くない」「運命を変える方法」「死者とともに生きている」「優れた宗教は最高に便利」など、ニーチェにはないラディカルな視点もある。もちろん、「自分にこだわらないからこそ他人にやさしい」「他人に尽くせば自分のためになる」などの仏教らしい言葉も多くある。
超訳のニーチェが好きで、仏教の超訳も読みたいという人にはお勧めの一書かと思う。
追記
政治評論家の森田実氏が、『中外日報』紙に書評を書いている。その中で「本書は、多くの人々に生きる勇気と活力と信念と思想を与えてくれると思います。読者は『活力』ある『不屈の楽天主義者』になることができるでしょう」と述べるなど、本書を高く評価していた。
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