本書が取り上げるのは幕末から昭和の戦前期に建てられた建物(一部の戦後建築も含む)。書名の通り「窓」に注目して、
口絵のカラー写真32点、本文ページの白黒写真約120点を用いて解説している。時代や様式を代表する事例とともに、遊び心のある事例、個性あふれる事例などを幅広く取り上げている。
評者は建築に詳しくはない。そのため、本書で取り上げている建物の選定や、そもそも「窓に注目する」という鑑賞法が妥当なのかは分からない。
しかし、ともかく、注目する要素が「窓」に絞られているおかげで、それぞれの作品の特徴や個性がとてもつかみやすかった。読了後、自分なりに建物を鑑賞できるような気分になった。
本書は全く予備知識のない読者を前提に書かれている。必要な知識を文中で無理なく盛り込みながら筆を進めているため、高校生なら問題なく理解しながらスムーズに読めると思う。本文を堅苦しくしない配慮なのか、専門用語や登場人物の経歴等は頭注で説明している。(ほぼ全ページにわたって頭注が付いており、律儀に読むと本文、頭注、カラー口絵の3か所を行き来することになるので、多少の手間を要する本ではある。)
巻末に窓に関する用語集があり、一つひとつの用語を写真付きで説明している。
章立ては以下のように、読み物として楽しめるように構成されている。
・窓が建物全体に与える印象
・窓を建物の内外から眺める人に与える心理効果
・有名建築家による作品の特徴
・窓の文化史
窓とそれ以外の要素が相まって生じる効果、建設当時の技術事情や時代の要請などについても筆が及ぶ。また、建築家や住人をはじめとする関係者の発言も随所で引用している。
文章は抒情的である。建築家の目論見や配慮、窓を見た当時の人々が抱いたであろう思いなど、窓をめぐる人々の感情を想像力豊かに描いている。現地に足を運んだときに著者が受けた印象にも言及しており、著者が心底、建築を愛し、楽しんで鑑賞していることが伝わってきた。
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窓から読みとく近代建築 単行本 – 2006/4/30
酒井 一光
(著)
出窓、天窓、三連窓…。建築のファサードを彩る窓に着目し、建物に対するその存在感を読み解きながら、近代以降、日本に根づいていった新たな建築文化の姿を浮き彫りにする。近代建築黎明期の名作や、戦前の有名建築だけでなく、街中の目立たない建物をも取り上げ、建築鑑賞に新たな視点を提供。形と機能を網羅した窓事典付。
- 本の長さ207ページ
- 言語日本語
- 出版社学芸出版社
- 発売日2006/4/30
- ISBN-104761523875
- ISBN-13978-4761523879
商品の説明
抜粋
この原稿をほぼ書き終えたある日、淡路島の洲本で昼食をとるため、赤煉瓦建築を改装したレストランに入った。外は突風で、煉瓦の頑丈そうな壁に比べ、いかにもか弱そうな一枚の窓ガラスが風に耐えている様が、痛ましくもあり心強くも感じた。思えば、数十センチもある外壁と、わずか数ミリの板ガラスが同じ力に耐えているのだ。激しい気象条件の変化から人を守るという建築の役割を、もっとも強く物語っているのは窓であると改めて実感した。
元来、私は雨が嫌いなたちなので、本書を振り返ってみれば雨の日の窓について、ほとんど触れていなかった。窓はどんな天候の時でも建物とともにあるものだから、もっぱら晴れの日を念頭に書いた私の文章は視野が狭いといわれるかもしれない。天候による窓のイメージの変化は、また時を改めて書いてみたいと思う。
このように、本書で記した窓と建築の関係は、窓のごく一面に過ぎない。むしろ、ここで書かれていない窓の魅力を読者が発見し、建築に親しみを持っていただければ幸いである。
私が窓に興味を覚えたのは、学生時代、何人かの先生方から建築意匠における窓の重要性を断片的に聞きかじり、それが常に心に残っていたからだ。しかし、実際に窓のことを調べてみたいと思った時、窓について書かれた文献が意外と少ないことに気付いた。建築関係の本では、建具や建築金物といった窓の構成材料のものが若干あり、他には設計に役立つ詳細図集が大半を占めていた。他方、窓は建築以外の分野から注目され、幾冊かの優れた本や写真集があった。私はそれら建築内外の文献から多くを学ばせていただいた。
窓に関する雑多な観察や研究の成果は、私の勤務する大阪歴史博物館での建築講座「窓からはじめる建築鑑賞」で話す機会があり、そこでの参加者との対話から学ばせていただいたことも多かった。その後、学芸出版社編集部の永井美保さんから、窓からみた近代建築について書いてみてはどうかとのお話をいただき、この本の構想が出来上がった。
しかし、話をすることと書くことでは大違いで、執筆に約束の何倍の時間がかかってしまったか、今では思い出すことすらできない。休日は建築をみに出かけることを楽しみとしていたが、いつしか文章を書く日々となり、運動不足気味になった。おかげで、自宅近くの河川敷を走ったり歩いたりする、という新たな過ごし方を見いだした。
そんな楽しみながらの執筆で、編集者には大いにご迷惑をおかけしたことと思う。永井さんの丁寧なチェックとアドバイスのおかげで、なんとかまとめ上げることができた。本作りを建築にたとえれば、私はスケッチを描くようなもので、編集の仕事はそれを原寸図に起こして確認し、現場監理をするようなものだろう。しかも、プロデューサーも兼ねている。編集者とのやり取りには、プロの気迫を感じた。また、表紙写真のために休日に何度も足を運んでくださった小林淳男さんと、美しい装丁をしていただいた山本剛史さんのおかげで、内容以上に立派な本に仕上がったと思う。
元来、私は雨が嫌いなたちなので、本書を振り返ってみれば雨の日の窓について、ほとんど触れていなかった。窓はどんな天候の時でも建物とともにあるものだから、もっぱら晴れの日を念頭に書いた私の文章は視野が狭いといわれるかもしれない。天候による窓のイメージの変化は、また時を改めて書いてみたいと思う。
このように、本書で記した窓と建築の関係は、窓のごく一面に過ぎない。むしろ、ここで書かれていない窓の魅力を読者が発見し、建築に親しみを持っていただければ幸いである。
私が窓に興味を覚えたのは、学生時代、何人かの先生方から建築意匠における窓の重要性を断片的に聞きかじり、それが常に心に残っていたからだ。しかし、実際に窓のことを調べてみたいと思った時、窓について書かれた文献が意外と少ないことに気付いた。建築関係の本では、建具や建築金物といった窓の構成材料のものが若干あり、他には設計に役立つ詳細図集が大半を占めていた。他方、窓は建築以外の分野から注目され、幾冊かの優れた本や写真集があった。私はそれら建築内外の文献から多くを学ばせていただいた。
窓に関する雑多な観察や研究の成果は、私の勤務する大阪歴史博物館での建築講座「窓からはじめる建築鑑賞」で話す機会があり、そこでの参加者との対話から学ばせていただいたことも多かった。その後、学芸出版社編集部の永井美保さんから、窓からみた近代建築について書いてみてはどうかとのお話をいただき、この本の構想が出来上がった。
しかし、話をすることと書くことでは大違いで、執筆に約束の何倍の時間がかかってしまったか、今では思い出すことすらできない。休日は建築をみに出かけることを楽しみとしていたが、いつしか文章を書く日々となり、運動不足気味になった。おかげで、自宅近くの河川敷を走ったり歩いたりする、という新たな過ごし方を見いだした。
そんな楽しみながらの執筆で、編集者には大いにご迷惑をおかけしたことと思う。永井さんの丁寧なチェックとアドバイスのおかげで、なんとかまとめ上げることができた。本作りを建築にたとえれば、私はスケッチを描くようなもので、編集の仕事はそれを原寸図に起こして確認し、現場監理をするようなものだろう。しかも、プロデューサーも兼ねている。編集者とのやり取りには、プロの気迫を感じた。また、表紙写真のために休日に何度も足を運んでくださった小林淳男さんと、美しい装丁をしていただいた山本剛史さんのおかげで、内容以上に立派な本に仕上がったと思う。
著者について
1968年東京都生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程中途退学。大阪市立博物館学芸員を経て、現在大阪歴史博物館学芸員。
登録情報
- 出版社 : 学芸出版社 (2006/4/30)
- 発売日 : 2006/4/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 207ページ
- ISBN-10 : 4761523875
- ISBN-13 : 978-4761523879
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,378,450位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 773位西洋の建築 (本)
- カスタマーレビュー:
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