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土木と景観―風景のためのデザインとマネジメント 単行本 – 2007/4/10
- 本の長さ199ページ
- 言語日本語
- 出版社学芸出版社
- 発売日2007/4/10
- ISBN-104761524030
- ISBN-13978-4761524036
商品の説明
抜粋
景観法時代 ── 地域の価値を再定義する
●地域資産としての景観
「美しい国づくり」が熱心に議論され、公共事業における景観アセスメント
の本格導入を迎えた景観法時代のいま、日本全国の市町村、地域は、その土地の
風土に根ざした景観、それぞれの土地に固有な歴史や文化を見つめ直す必要に迫
られている。地域間競争が先鋭化し、他の都市や地域との比較、あるいは自らの
地域の過去や未来の姿を景観として認識することから始め、地域固有の景観づく
りのために地域行政は何をすればいいのか、地域住民は何を担うのか、専門家を
加えた徹底的な議論が期待される。
いまここで議論する地域景観は、卓越した自然環境や歴史的な街並みなど、
もちろん地域固有の光を観るための観光資源として活用できることに異論はない
が、決して観光のための地域景観づくりの必要性を説いているのではない。地域
景観は、市民参加によってより本質的な地域の姿となりうる。単に観光や美化の
ためではなく、生きられる空間づくり、生活の一部としての景観として成立す
る必要性が地域景観にはある。
地域を人になぞらえれば、健康な地域の景観は、やはり健康的で美しいので
ある。健康は多くの人にとってかけがえのない宝であり、資本であり、資産であ
ろう。地域景観は地域にとって健康であることの証明であり、その景観を支える
地域資産すべてを現している、と言える。
●景観を支えるインフラストラクチャー
工学は、「用・強・美」を備えたもの、あるいはシステムを生み出すことを
命題としているが、特に土木工学は、規模が大きく耐用年数の長い公共空間をか
たちづくり、社会資本を生み出すことが職能とされる。自然との共生を目指し、
人びとのための生活空間を生み出すために、土木はインフラストラクチャーを構
築してきた。都市基盤、社会基盤施設などと訳されるインフラストラクチャーと
は、地形などの自然環境と生活環境の境界部に挿入され、私たちの生活を支え
る、道路、橋梁、ダム、トンネルなどの構造物や電力、ガス、通信網などのライ
フライン系のシステムなどを指す。
人びとが共同生活を営む地域の公共空間は、これらインフラストラクチャー
によって支えられており、地域景観の基盤を成しているといってもよいだろう。
脆弱な国土に「シビルミニマム」を、と整備を急いだ戦後復興の時代に、経済性
と安全性を価値基準とした整備が行われたことは否めない。しかし、景観法時代
の現代においては、国土軸を形成するような最上級のインフラストラクチャーで
はなく、地域景観を支える地域のためのインフラストラクチャーには、その場に
適切な規模、予算、適切な(あるいは伝統的規範に則った)ローカルルールのも
とにコミュニティの地域資産として造られることが求められている。その際、自
ら住まう地域の固有性を認識し、地域資産としての価値を再認識するために、イ
ンフラストラクチャーに対して「愛着」を醸成することが可能かが、インフラス
トラクチャーのデザイン、マネジメントに関わる専門家のなかで注目を浴びてい
る。
土木計画と地域 ── 多様なアプローチ
景観の重要性に気づき、地域コミュニティが育んできた風土を取り戻すため
には、従来のインフラストラクチャー・デザインとマネジメントにおいて、
思考の転換が迫られる。
本書では、公共空間や社会制度、インフラストラクチャーやプロジェクトの
計画に携わる、態度行動変容、公共政策、コミュニティ・デザイン、リスクマネ
ジメント、土木史の各分野から、気鋭の実践派研究者が集まり、転換に必要な視
点と具体的事例を提示し、景観の名の下に地域資産としてのインフラストラク
チャーの可能性を展望する。
藤井は、人の暮らしぶりと地域景観の関係性を指摘し、コミュニティの意志
が景観形成に果たす役割について述べる。秀島は、事例に基づき行政と地域住民
との協働の必要性、アセット・マネジメントとしてのインフラストラクチャー
管理手法を示す。柴田は、公共事業における市民参加の意義を整理し、参加のデ
ザインがもたらす豊かな可能性を指摘する。横松は、防災的な観点から地域コ
ミュニティを分析し、ソーシャルキャピタルのリスクマネジメントを試みる。
田中は、水辺とコミュニティの関わりを歴史的に検証し、地形改変と生活
環境形成に関わる土木技術者のデザイン・マネジメント思想について述べる。
これらの議論は、例えば、景観マネジメントとリスクマネジメントは背反し
ないのか、健全な社会は美しい景観を呈するのか、風景づくりの主体は誰か、
防災文化と景観形成の関係は、など、五名の著述が有機的に重なり合い、健全な
地域づくりのための多元的なアプローチを提示する。
インフラストラクチャーのデザインとマネジメント ── 共同のかたち
ここで、本書の執筆者たちが最も議論を費やしたデザインとマネジメントに
ついて、述べておこう。私たちが相手とする「社会」とは、人と人、人と構造
物、人と環境など、様々な対象間に結ばれた無数の見えない「関係性」という糸
によって構成されている。この社会と密接に関係した土木のデザインもマネジメ
ントも、何らかのシステムや構造、仕組みなどを「つくる」という点、積極的な
働きかけを行う点では一致している。その成果が、「かたち」に多く責任を負っ
ているのか、「人びとの行動」に多く責任を負っているのか、がデザインとマネ
ジメントの違いと言える。両者は、公共空間の現場を扱う際には、ますます密接
かつ複雑に絡みあい、それらの有機的な結びつきやコラボレーションの効用は、
各章をお読み頂ければ理解して頂ける。
価値観が多様化し、地域コミュニティが弱体化したと言われる今日、豊かな
地域景観の基盤となるインフラストラクチャーを、地域の人びとに愛される、愛
着を持たれる存在としてデザイン、あるいはマネジメントできるのか。地域
資産となるインフラストラクチャーに必要な、適切な規模や機能、適切なローカ
ルルールとは何か、インフラストラクチャーの管理・運営には地域住民はどのよ
うに関与していくべきか、共同のかたちを模索する。
地域資産としての景観は、つくる景観だけでなく、なる景観、地域コミュニ
ティの暮らしぶりが、リアリティを伴った景観となる。地域の風土に根ざした、
先祖伝来の健全なコミュニティを支えるインフラストラクチャーは、何によって
かたちづくられるのか。地域の意志、歴史、環境、技術、が地域景観として繋が
るデザインとマネジメントのあり方が、いま明らかにされる。
著者について
登録情報
- 出版社 : 学芸出版社 (2007/4/10)
- 発売日 : 2007/4/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 199ページ
- ISBN-10 : 4761524030
- ISBN-13 : 978-4761524036
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,479,486位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 26,670位工学 (本)
- - 97,198位アート・建築・デザイン (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
藤井 聡(ふじい さとし)京都大学(大学院工学研究科・都市社会工学専攻)教授 1968年奈良県生まれ。
91年京都大学卒業、93年京都大学大学院修了後、93年同大学助手、98年スウェーデン・イエテボリ大学客員研究員,02年京都大学助教授、03年東京工業大学助教授、06同大学教授を経て,09年より現職。
専門は土木工学(土木計画学)、交通工学,ならびに,公共問題のための心理学.
受賞歴は、
『社会的ジレンマ研究』で03年土木学会論文賞,07年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、10年日本学術振興会賞。
『認知的意思決定研究』で05年日本行動計量学会優秀賞(林知己夫賞)。
『村上春樹に見る近代日本のクロニクル』にて06年表現者奨励賞。
『交通政策論』で08年米谷・佐々木賞。
『モビリティ・マネジメント入門』にて08年交通図書賞。
『交通需要予測研究』で98年土木学会論文奨励賞。
『コミュニティに関する進化心理学研究』で09年社会心理学会奨励論文賞。
詳しくは、
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/index.php/fujiilab/fujii.html
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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風景や景観に対して、ただデザイン面から話を転換するわけではなくて、
コミュニティやそこに住む住民の意識に着目してそれぞれの著者による話が展開されています。
たとえば、まちの景観というものは一朝一夕につくられるものではなく、そこに住む住民の一人一人が長期的な視点でものを考え、まちを大事にすることから、ゴミを拾うというような小さなソフト面での行動変容や、そういう意識から、より大きなまち全体といったようなハード面での効果があらわれるようになっていく。
という話や、インフラストラクチャーというものをまちの住民の地域資産ととらえるようになることがよりよい景観につながるといった話など、土木というとダムや堤防といったハードなイメージがわきがちですが、意識やコミュニティといったソフトな面からの話が展開されている本。
日本の景観を廃れたものにしてしまわないために、関係者以外の人に逆に読んでみてもらいたいです。
内容
序 景観法時代の地域と土木のあり方
1 風格ある景観と「行動変容」―風景にのぞむ心のあり方
藤井聡
2 地域資産としての土木施設へ―多様な主体が進める風景づくり
秀島栄三
3 参加による景観デザインの信頼性―風景と市民をつなぐ試み
柴田久
4 地域資産のリスクマネジメント―災害から風景を守るために
横松宗太
5 水辺に刻まれた風土の継承―風景が語る地域の歴史
田中尚人
結 風景づくりに求められる時間と協働のかたち
柴田久