人口減、高齢化、過疎という今後日本全体として不可避な「３現象」から派生する諸問題にいち早く直面している鳥取県。その鳥取県で実際に起こっている生の問題に対して、鳥取大学の様々な専門の研究者達が当事者として、自治体と連携、頭を悩ませながら解決に当たってきた数年間の記録。地域に求められる地方大学のあり方を提示した好著。
「３現象」から派生する諸問題として相互扶助、国土管理、公共交通、健康、災害、インフラ管理、産業（観光等）、医療福祉などが分野横断的に取り上げられている。
この書籍にある重要な情報の一つは、それぞれの問題におけるアセスメント（地域診断：問題の根っこに何があり、それらがどの程度深刻なのかの判断）の方法論が（何気なく）示されていることである。学術の世界にありがちな小難しさはなく、この中に書かれてあることを読み、少し頑張りさえすれば、誰でも（小規模自治体の職員でも、卒論レベルの大学生でも）地域のアセスメントができそうである。
諸問題に対するソリューションについては、広域・域内連携、自治体運営（大学との人事連携）、GIS、IT（遠隔医療やソーシャルメディア）等をキーワードにいくつかの方向性が示されているが、ここはやや弱いかもしれない。そもそも解決策の捻りだしが難しいということもあろう。しかし安易に人口増加、流出阻止になびかず、「３問題」を前提にどう適応していくべきかが真摯に描かれている。
本書の最後には、「今後自治体にはこれまでにないクリエイティビティが求められる」とあるが、これらソリューションの捻りだしについては、ソーシャル・イノベーションの専門性の出番があるのかもしれない。またまさに本書内でも触れられていたように、各問題の所轄の縦割りをうまく調整してプロジェクトメイク出来る（例えば複数の補助金をマッチングさせる）ノウハウや、現在小規模に行われている各取り組みにレバレッジをかける（取り組みの社会発信、ヒト集め、金集め）ノウハウが必要だろう。
そのため、民間組織や、多くの情報・専門人材が集積する都市部とのネットワーク構築にも今後注力すべきではないか。また都市部との連携を進めるために、本書を契機に、都市部を含む各地の行政人材等を過疎地の大学が受け入れ、「３０年後の日本の姿」を見せながら、将来を構想できる行政人・社会人教育ビジネス等が創発できるようになると面白い。
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