スリリングで刺激的で楽しく、一息に読了できました。意義からしてマルクス『資本論』にも劣らない思想史上の名著が、ハウツーものを装って出版されてしまったことは残念だったけど。
エロティック・キャピタル(エロス的資本)とは、フランスの社会学者ブルデューの、エコノミック・キャピタル(金銭的元手)、カルチュラル・キャピタル(文化的資本。学歴や知識が生み出す知的な元手)、ソーシャル・キャピタル(社会的資本。人脈力)という3つの元手に、ハキムさんが加えた第四の力の源泉のこと。せまい意味の性的身体的魅力だけでなく、人を引き付ける立居振舞の魅力や社交力なども含まれます。そう、本書こそ、ピューリタン的な学者さんやフェミニズムによってタブー視されてきた誰にでも自明な事実――女性は現代社会では男性よりずっと生き生きと生活を享受し、各種の満足度調査でもたいてい男性を上回り、自殺率も極めて低く、ずっと長生きするという事実を、しっかり説明してくれるのです。年収も低く、管理職や議員も男性より少なく、つまり「社会的地位が低い」はずなのに女性のこの生活の充実ぶりはなぜ?それは、女性の方が男性よりずっとエロス的資本に恵まれているからなのです。ゆえに、女性に男性と同様のヤボな労働によって経済的資本を獲得せよとハッパをかける英米流のフェミニズムは、女性のエロス的資本を禁圧することでむしろ女性を抑圧する側に回ってしまっていると、著者は言います。
エロティック・キャピタルの説を展開するために、非常に多くの文献を動員し、またフェミニズム(特に英米流の先鋭的フェミニズム)との論争にかなりのスペースを割いているため、ハウツーを期待した読者は当て外れかもしれません。でも、日本を、フランスなどラテン諸国と並んで女性のエロス的資本が尊重されている社会として何かと引き合いに出したり、エロス的資本の活用例として、性風俗に従事して体験記まで出した女性が、その資金で学位を取って優秀な科学者になっていった例がいくつもあったり、面白いエピソード満載です。
ちなみに原題中の副題The Power of Erotic Capitalは、直訳すると「エロス的資本の権力」となるので、私ならズバリ、「エロスの権力」と訳したいところです。そう、文明の段階は、
剣の権力――古代・封建時代
金の権力――産業資本主義の時代
エロスの権力――現代(先進資本主義諸国限定)
と、変遷します。腕力や長時間労働能力は男性にかたよって所有されていたために、剣や金の時代は、男性支配の社会でした。けれど、エロス的資本は女性にかたよって所有されているため、エロスの権力の時代は女性の時代となると、私はかねがね思っていました。だから、武士が腰に差した刀が剣の権力の象徴だったのと同じように、近年、若い女性が好んでする絶対領域ファッション(フトモモむき出し姿)は、エロスの権力の象徴としての抜身の白刃なのです。
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エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き 単行本(ソフトカバー) – 2012/3/3
元ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会学者が発表して話題になった論文がオリジナルで、著者が“エロティック・キャピタル"と名付けた、人間の人を引き付ける資質について、各種サーベイに基づいて語っていく。
どうして一部の人たちは人を惹きつける魅力を持っているのか?私生活にしろ、学校、職場にしろ、個人資質としての魅力を備えることで得られる利益は大きい。
著者はその資質があるとどんなメリットがあるのか、成長段階でいつごろから発揮されるのか、自分にエロティック・キャピタルがないと思われる場合、身につけるためにはどうしたらよいのか、などを論じる。
これまで魅力を全面に出すことは、はしたないなどと、女性がエロティック・キャピタルを表面に表すことは男性優位の社会では妨げられがちであったが、今日では個人の資質としてその重要性が増している。
男女間の性差などについて述べているが、ジェンダーに終始するわけではなく、男性でも管理職や専門性を必要とする職業などにエロティック・キャピタルは必要であると説く。
2011年ロンドンのブックフェアでも人気があり、既に英・米・韓など7カ国で版権の販売が決定。
論文発表時にはタイムズ、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズといった英国の大手紙ほとんどで大きく取り上げられている理論である。
ヨーロッパにおける社会政策研究の第一人者、キャサリン・ハキムが長年の構想のもと、発表したセンセーショナルな一冊である。
私たちが他者を見るとき、あるいは他者とやり取りするときに、他者のもつ容姿や気品といった要素のもつ影響力はきわめて大きい。
簡単にいえば、こうした魅力の総称がエロティック・キャピタルである。著者は、このエロティック・キャピタルが実態としてどのようなものなのか、どのくらい普遍的なものなのかを、膨大な文献と資料から明示していく(日本については縄文時代の土偶から、最近の女子高校生の話まで出てくる)。
そうした中で、エロティック・キャピタルは本来女性に有利な「資本」であることが明らかにされていく。にもかかわらず、これまで社会科学はエロティック・キャピタルという概念を提示してこなかったし、また私たちの社会も人がエロティック・キャピタルを行使すること、その影響を受けることに対する反応は常に否定的であった。
なぜ、エロティック・キャピタルは否定され、抑圧されてきたのか?著者がエロティック・キャピタルを論じる本当の狙いはここにある。
本書の内容には賛否が付きまとうが、世界中の文化に言及し、文献と資料を駆使する著者の知識量は圧巻である。論争の書ではあるが、面白さ、知的刺激は確実に与えてくれる一冊である。
首都大学東京人文科学研究科教授 稲葉昭英
どうして一部の人たちは人を惹きつける魅力を持っているのか?私生活にしろ、学校、職場にしろ、個人資質としての魅力を備えることで得られる利益は大きい。
著者はその資質があるとどんなメリットがあるのか、成長段階でいつごろから発揮されるのか、自分にエロティック・キャピタルがないと思われる場合、身につけるためにはどうしたらよいのか、などを論じる。
これまで魅力を全面に出すことは、はしたないなどと、女性がエロティック・キャピタルを表面に表すことは男性優位の社会では妨げられがちであったが、今日では個人の資質としてその重要性が増している。
男女間の性差などについて述べているが、ジェンダーに終始するわけではなく、男性でも管理職や専門性を必要とする職業などにエロティック・キャピタルは必要であると説く。
2011年ロンドンのブックフェアでも人気があり、既に英・米・韓など7カ国で版権の販売が決定。
論文発表時にはタイムズ、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズといった英国の大手紙ほとんどで大きく取り上げられている理論である。
ヨーロッパにおける社会政策研究の第一人者、キャサリン・ハキムが長年の構想のもと、発表したセンセーショナルな一冊である。
私たちが他者を見るとき、あるいは他者とやり取りするときに、他者のもつ容姿や気品といった要素のもつ影響力はきわめて大きい。
簡単にいえば、こうした魅力の総称がエロティック・キャピタルである。著者は、このエロティック・キャピタルが実態としてどのようなものなのか、どのくらい普遍的なものなのかを、膨大な文献と資料から明示していく(日本については縄文時代の土偶から、最近の女子高校生の話まで出てくる)。
そうした中で、エロティック・キャピタルは本来女性に有利な「資本」であることが明らかにされていく。にもかかわらず、これまで社会科学はエロティック・キャピタルという概念を提示してこなかったし、また私たちの社会も人がエロティック・キャピタルを行使すること、その影響を受けることに対する反応は常に否定的であった。
なぜ、エロティック・キャピタルは否定され、抑圧されてきたのか?著者がエロティック・キャピタルを論じる本当の狙いはここにある。
本書の内容には賛否が付きまとうが、世界中の文化に言及し、文献と資料を駆使する著者の知識量は圧巻である。論争の書ではあるが、面白さ、知的刺激は確実に与えてくれる一冊である。
首都大学東京人文科学研究科教授 稲葉昭英
- 本の長さ360ページ
- 言語日本語
- 出版社共同通信社
- 発売日2012/3/3
- ISBN-104764106388
- ISBN-13978-4764106383
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商品の説明
著者について
社会学者で、ロンドンの政策研究センター、シニア・フェロー。
ロンドン・オブ・スクール・エコノミクスで長年にわたり社会学の研究員を努めた。
労働市場における社会学、社会体制の変化、女性の雇用と社会での女性地位理論の専門家。
その学術論文や著書は、欧州、米国で広く出版されている。
ハキム博士のエロティック・キャピタル理論は、発表と同時に多くのメディアに取り上げられ、世界中から注目されている。
ロンドン・オブ・スクール・エコノミクスで長年にわたり社会学の研究員を努めた。
労働市場における社会学、社会体制の変化、女性の雇用と社会での女性地位理論の専門家。
その学術論文や著書は、欧州、米国で広く出版されている。
ハキム博士のエロティック・キャピタル理論は、発表と同時に多くのメディアに取り上げられ、世界中から注目されている。
登録情報
- 出版社 : 共同通信社 (2012/3/3)
- 発売日 : 2012/3/3
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 360ページ
- ISBN-10 : 4764106388
- ISBN-13 : 978-4764106383
- Amazon 売れ筋ランキング: - 107,814位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 13,438位社会・政治 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年3月10日に日本でレビュー済み
一言で書くと「美は資本也(美的資本主義と呼んでも良い)」ということ。
もう、フェミニストの皆様が読んだたら血相変えて批判するか、それともあまりに軽薄といって無視するか…
両極端の反応しか出てこないのでは?と勝手に想像してしまうくらい刺激的で、且つ面白い論文です。
エロティック…という表題に「性的」なものだけを連想してしまうかもしれません。著者の言を借りれば
それは「美しさ、セックスアピール、快活さ、着こなしのセンス、人を引きつける魅力、社交スキル、性的能力
などが組み合わさった外見的な魅力と対人的な魅力を総合したもの(本文p17より)」とのこと。
それを生まれもって身につけている人は、そうでない人より金銭面、社会的地位、人付き合い等々で有利である!と。
また、身につけてない人でも、努力次第で手に入るとも−*1)豊富な実証データで−説いています。
(実際、ここら辺について、我々は実社会で体感しています。それを可視化したのが、この本の業績のひとつ)
*1)これについては著者にとって都合のいいデータだけ拝借、という可能性もあるが、私には分かりません。
ただ、売春について述べた部分は、マイナス部分を軽視し過ぎの感あり。
そして(ここが一番刺激的なのだが)それが他者より秀でているのなら、どんどん使って、自分の人生を
豊かにしなさい、と(豊かには金銭面、仕事面等いろいろある)。
美しさで人を落とせるなら、それを活かして何が悪い!と。逆にそれを活かせないのは、自分の地位を
脅かされることを恐れた男性既得権益者と、女性解放を謳いながら(結果的に)男性既得権益者の考えに乗った
フェミニストが作った「幻想」にすぎないと(そしてそれが幅を利かせているだけとも)。
冒頭に記したとおり刺激的ですが、女性を囲むいろんな柵を突破するにはこれくらい過激な論もありでしょう。
過激であっても、トンデモではないので。分かってても語ることを躊躇する感のあった「美的資本」の有意性を
説いたこの本、読者の価値観も破壊してくれるかもしれません。
もう、フェミニストの皆様が読んだたら血相変えて批判するか、それともあまりに軽薄といって無視するか…
両極端の反応しか出てこないのでは?と勝手に想像してしまうくらい刺激的で、且つ面白い論文です。
エロティック…という表題に「性的」なものだけを連想してしまうかもしれません。著者の言を借りれば
それは「美しさ、セックスアピール、快活さ、着こなしのセンス、人を引きつける魅力、社交スキル、性的能力
などが組み合わさった外見的な魅力と対人的な魅力を総合したもの(本文p17より)」とのこと。
それを生まれもって身につけている人は、そうでない人より金銭面、社会的地位、人付き合い等々で有利である!と。
また、身につけてない人でも、努力次第で手に入るとも−*1)豊富な実証データで−説いています。
(実際、ここら辺について、我々は実社会で体感しています。それを可視化したのが、この本の業績のひとつ)
*1)これについては著者にとって都合のいいデータだけ拝借、という可能性もあるが、私には分かりません。
ただ、売春について述べた部分は、マイナス部分を軽視し過ぎの感あり。
そして(ここが一番刺激的なのだが)それが他者より秀でているのなら、どんどん使って、自分の人生を
豊かにしなさい、と(豊かには金銭面、仕事面等いろいろある)。
美しさで人を落とせるなら、それを活かして何が悪い!と。逆にそれを活かせないのは、自分の地位を
脅かされることを恐れた男性既得権益者と、女性解放を謳いながら(結果的に)男性既得権益者の考えに乗った
フェミニストが作った「幻想」にすぎないと(そしてそれが幅を利かせているだけとも)。
冒頭に記したとおり刺激的ですが、女性を囲むいろんな柵を突破するにはこれくらい過激な論もありでしょう。
過激であっても、トンデモではないので。分かってても語ることを躊躇する感のあった「美的資本」の有意性を
説いたこの本、読者の価値観も破壊してくれるかもしれません。
2014年7月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容はとてもまじめで、むしろアカデミックな本です。
でも私は装幀がいまひとつ好きになれません。
もっと上品でありながらも、さらにもっと「エロティック」なデザインにできたはずなのに、
どこの誰でも思いつくような下卑たデザインで終わっています。
でも私は装幀がいまひとつ好きになれません。
もっと上品でありながらも、さらにもっと「エロティック」なデザインにできたはずなのに、
どこの誰でも思いつくような下卑たデザインで終わっています。
2018年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
知り合いにおススメされて購入して読みました。
個人的にはあまり面白くなかったです。
メラビアンの法則に似た解説があり、納得する部分とすでに知っていた部分があったので、なんともいえなかったです。
シンプルにメラビアンの法則をより深く理解すればいいと思いました。
個人的にはあまり面白くなかったです。
メラビアンの法則に似た解説があり、納得する部分とすでに知っていた部分があったので、なんともいえなかったです。
シンプルにメラビアンの法則をより深く理解すればいいと思いました。
2012年4月3日に日本でレビュー済み
「すべてが手に入る自分磨き」というサブタイトルに惹かれて(ひっかかって?)買いましたが、内容はまるでHOW TOには触れていません。時代のモードと、その「美の基準」に合致した容姿、外面的な表現力を持つ人は、生物学的に正しく、社会経済的にはアドバンテージを持つ、そして、そういった資質「エロティック・キャピタル」はもっと高く評価され、取引されてもいいはず、という趣旨を、あれこれ検証する学術論文です。