敗戦と東日本大震災で3つに分けた時期を、共同幻想の変化としてとらえようとしている。
敗戦前の天皇が威光をもつ共同幻想は、敗戦後の核の威力や合理性や科学性の共同幻想によって疎外されることで、非合理的で非科学的なものとして見えるようになった。原発は生み出すエネルギーの2/3を海に捨てている「海温め装置」であり、その稼働には被曝する労働者の存在なしにすますことができない。そんな原発に対する安全神話が成り立っているのは戦後の共同幻想による。吉本隆明も戦後の共同幻想から自由ではなかった。
圧巻は、『永遠の0』が震災後に爆発的な売れ行きになった原因を考察したくだりである。
戦後の共同幻想は、日本国内の戦死者についてうまく追悼することができなかった。しかし、震災によって共同幻想の飛躍が起きる。死者と共にこの国を作り直していくしかないという共同幻想が生まれることによって、死者について思い出してはいけないということが、間違ったものと感じられるようになった。戦争をみずからが引き起こした主体的な犠牲としてではなく、戦争を災厄として、災厄に巻き込まれた犠牲者ととらえる。敗戦は未曽有の出来事だった。戦争と震災がともに未曽有の出来事として重なり、死者と共にこの国を作り直して行くしかないと、『永遠の0』の読まれ方が変化した。
震災後に共同幻想の飛躍が起きたが、戦後日本的なものは残っている。その共同幻想の特徴を「都合の悪い同胞は切り捨てられても仕方ない」ととらえている。都合の悪いものの時間的な表象が戦争中の死者であり、空間的な表象が沖縄である。この戦後的共同幻想を終わらせるにはどうすればよいかと問うている。そのためには、いまのわたしたちが戦前にいたとしても敗戦に終わる戦争を繰り返すだろうという「戦争を引きうける」態度が必要だと語る。
以上のことを、加藤典洋、坂口安吾、平野謙、中野重治、梅崎春生などを引用し丁寧に展開している。
本の後半のみに関して書いたが、緩やかでありながらも、衝迫力のある評論であった。
「都合の悪い同胞は切り捨てられても仕方ない」というのは、国家の共同幻想そのもので排除できないのではないかという疑問をもちつつも、この本を読むことで、安倍一強で、やりたい放題にも関わらず高い支持率を維持しているのは、経済成長や科学への信頼も崩れつつ、それでも経済成長や科学のほかに頼ることがない状況を、自然災害のように受け止める共同幻想によるのではないか、など、いろいろ考えさせる本である。
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震災後の日本で戦争を引きうける: 吉本隆明『共同幻想論』を読み直す (いま読む!名著) 単行本 – 2017/2/15
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1960~70年代、吉本隆明が熱狂的に読まれた理由を現代の視点で検証!
1974年生まれの俊英が問う震災後の共同幻想。
1974年生まれの俊英が問う震災後の共同幻想。
- 本の長さ213ページ
- 言語日本語
- 出版社現代書館
- 発売日2017/2/15
- ISBN-10476841009X
- ISBN-13978-4768410097
商品の説明
著者について
1974年、富山県生まれ。慶應義塾大学経済学部、文学部仏文学科卒業。2000年、評論「欠落を生きる――江藤淳論」で第7回三田文学新人賞を受賞。現在、法政大学文学部日本文学科教授。おもな著書に『江藤淳』(慶應義塾大学出版会、2001年)、『あの戦場を越えて 日本現代文学論』(講談社、2005年)、『新約 太宰治』(講談社、2006年)、『吉本隆明』(アーツアンドクラフツ、2014年)など。
登録情報
- 出版社 : 現代書館 (2017/2/15)
- 発売日 : 2017/2/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 213ページ
- ISBN-10 : 476841009X
- ISBN-13 : 978-4768410097
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,177,511位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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