特に路線バスにおける「バスの車掌」という女性の専業とも言える職業が、見られなくなったのは何時頃からでしょうか？失われた職種とも言えるその実態を描いた試みは評価出来ます。しかもその発生から記述しているという点では、記録としても貴重です。「私は東京のバスガール」という歌に象徴され、花形の職業と思われていた女性の車掌の過酷な実態を初めて知ることが出来ました。
ただ、こういったある種のノンフイクションを書く作家群によく見られることですが、調べたこと・知ったことを何でもかんでも総て書かずにはいられないという落とし穴にこの作品も陥っているのです。加えてその職業が如何に過酷な職種であったかを強調するあまり、同じ様な記述が繰り返されるのです。（例えば揺れるバスの中で短い時間に連呼しながら、乗車賃を集め切符を切らねばならないということを何度繰り返し書けば気が済むのか？読んでいて嫌になりました。）
こういう風ですから、例えば「チャージ」と呼ばれる料金の着服を防ぐための人権を無視した身体検査の実態等、肝心の読ませる箇所の記述がぼやけてしまう、第９章のその為に自殺した犠牲者の項を読む前に、もういいやという気持ちになってしまった、そこへ行くまでに読むのが嫌になってしまったのは自分だけでしょうか？生理休暇も取れない過酷な乗務実態なども、第８章の「生活・家庭」に行くまでに何度も繰り返され、もう読むのがうんざりになってしまいます。
このように、ある意味で著者の情熱のあり過ぎが、「これでもかこれでもかという文体」となってしまい、惜しまれる一冊となっていると思われます。著者は読者に読ませるノンフイクションを書きたかったのか、単なる資料集を出したかったのか、編集者はもう少しアドバイスを出来なかったのでしょうか？期待して読み始めただけに残念な読後感です。
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