９０年にわたる行政のハンセン病に関する政策の誤りと、国会の法制定と、その過程で加担した司法の三権を相手にした国賠は、０１年５月１１日に熊本地裁で、原告の全面勝訴判決として出され、国も控訴せず確定した。
また11年6月22日には、厚生労働省正面玄関前に「強いられてきた苦痛と苦難に対し深く反省し、率直にお詫びするとともに、多くの苦しみと無念の中で亡くなられた方に哀悼の念をささげます」と刻まれた、「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の碑」が設置された。
これによって、ハンセン病療養所に隔離されこれまでに亡くなった約2万5千人と、現在も生活している2,275人の名誉回復が一見図られたかに見える。
しかし、全国１３カ所のハンセン病療養所の平均年齢82歳にもなる入所者に対する差別は本当になくなったのだろうか？
03年9月には、過去に何度も宿泊先を変えて問題なく催行されてきた、県の事業である「ふるさと訪問事業」での、国立ハンセン病療養所菊池恵楓園入所の元患者18名と付き添い4名の宿泊を、アイレディース宮殿黒川温泉ホテルが宿泊拒否した。
最終的には、04年3月にアイスター元社長（事件当時社長）、ホテルの総支配人、法人としてのアイスターは略式起訴により有罪判決が出され、確定。
ホテルは2004年5月をもって廃業、即時に建物は取り壊されたのだが、マスコミが大きく報道し、支援者からもホテルに抗議が続き、県知事名の抗議文が出た後になってのようやくの入所者自治会への謝罪では、「会社の方針ではなく、総支配人個人の偏見に基づく判断だった」というもので、「誠意がない」と自治会がこれを拒否した場面が繰り返しＴＶで放映されると、今度は自治会に対して「人権を武器にしたゆすり・たかり」といった、殆どが匿名による誹謗の電話・手紙・ファックス・ネット上の書き込みが多数殺到した。
そして営業停止（3月15日 - 17日）が執行される直前の3月12日に行われたアイスター社による記者会見では、抗議の意思を含む声明文も発表される始末であった。
このように日本における差別は根深く、今年5月に行われた第７回ハンセン病市民学会では、沖縄愛楽園退所者で園のボランティアガイドを務めている平良仁雄さんが、「らい予防法は廃止されたが、心の中ではまだ生きている。 ほとんどの退所者は隠れてしか生きられない。 私がカミングアウトできたのは、皆さんの温かい心に触れたから。」と話し、全国ハンセン病療養所入所者協議会会長の神美知宏さんは「厚生労働省は（高齢化している）入所者がいなくなったら療養所を閉鎖しようと考えている。 差別の連鎖を絶つことが究極の解決。 問題が解決しないうちに閉鎖させてはならない。」と訴えたように、世間も含めた真の解決には至っていない。
96年、らい予防法が廃止されたのをきっかけに、病歴と実名を明かした闘病気録を出版し、98年には実名で国賠で臨んだ森元美代治さん夫妻は、97年、故郷の鹿児島県喜界島に近い奄美大島で講演会の開催が決まると、親戚から「森元家の恥」「お前がハンセン病もと患者ということで、これから育っていく甥や姪、孫たちの就職や結婚に支障を来すのがわからんのか。」と激しくののしられ、兄夫婦も「みんなの反対を押し切って講演するなら、二人で夜逃げしようと思った。」と語るほど追い詰められ、兄姉弟にも国賠への実名提訴時や、勝訴後の参院選出馬時には「青酸カリを飲んで死んでくれ。」とまで言われ、幾度となく断絶の危機を繰り返した。
全国で千人以上いる療養所を退所して社会で暮らす人の殆どは、配偶者、家族、職場、友人、隣近所にも病歴を隠して生活している。
彼らがカミングアウトした時、あなたはそれを受け止めて、一緒になって差別と闘えるか？
自分の病歴が知られた為、新たに家族にトラブルが起きたり、子どもが結婚の差別を受けた人もいる。
差別は当事者だけでなく、その家族にも向けられる。
全国の各療養所にある納骨堂には、療養所で亡くなり、家族が受け取りを拒否した、故郷に帰れない入所者の遺骨が残されたままになっている。
身近な人ほど直接的に差別被害を受けやすい為、家族はハンセン病となった肉親との関係を断ち、被害を避けようとする。
遺骨を受け取り墓に入れることで、その関係が知られる事を恐れているのだ。
ハンセン病の病歴を持った入所者しか治療を受けられなかった療養所の医療や福祉のレベルを維持改善し、充実させていく事などを国・地方公共団体に義務づけ、地域に開放して存続させる為、100万人の署名に後押しされて09年に成立した「ハンセン病問題基本法」だが、制度改革による国家公務員削減と入所者が亡くなることで生じる人員削減により、医師・看護師・看護助手が不足し、重度の障がいのある回復者が人間らしい生活を維持することが困難になっており、悲惨な人権侵害を受けた高齢の回復者が、心安らかに残された時間を過ごすことさえ、その前には問題が山積している状態だ。
本書を含む関連書で、人々の社会力が増し、未来に対する不安感や漠然とした孤独感を「私があなただったら、あなたがわたしだったら」と相手の立場を理解し合い、手を差し伸べ合う契機に変えることがるようになるには、まだ道は遠いと思う。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
