「モレルの発明」と同じく、「モロー博士の島」風孤島物のマッドサイエンティストSFであり、認識論、現実論に関する哲学的着想に基づいたSFアイデア、発明が核になっている点も共通している。そのアイデアはウィリアム・ジェームズの認識論や共感覚の現象などに基づいたなかなか独創的なもので、普通のSF小説としても十分に楽しめる作りになっている。また、全体がミステリ構成になっていて、後半には密室殺人事件も起こるので、ミステリとして読んでも普通に楽しめる。
ただ本作の大きな特徴は、「信頼できない語り手」手法を活用した、徹底的なメタフィクション的構成の導入にある。モレルの発明も「信頼できない語り手」ものであったが、本作はより徹底している。表面上の主人公アンリではなく彼の伯父がアンリの手紙をもとに、時々それを引用しつつ、アンリの体験を想像して語る、という構成になっているのだが、一族同士に利害の対立があって、書かれている内容がどれも真実かどうかがそもそも疑わしいし、なんとなく叙述内容も(時系列、出来事、人物の性格等すべてにおいて)矛盾している。この不確実感、非現実感が最後まで続き、終盤で明かされる作品のコアのアイデアと呼応している、という凝った構成になっている。
本作に近い読後感の作品としては、ジーン・ウルフの「ケルベロス第五の首」がある。あの作品が気に入った人には、本作はうってつけだと思う。
1940年代にこんな凄い作品を書いていたカサレス、畏るべし。
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脱獄計画 (ラテンアメリカ文学選集 9) 単行本 – 1993/9/20
家族との確執もあって悪魔島に赴任したヌヴェール中尉が、そこで見たものは何か。
南米の赤道直下の流刑地で展開する奇怪な冒険を語る、ボルヘスの年少の師の会心作。
南米の赤道直下の流刑地で展開する奇怪な冒険を語る、ボルヘスの年少の師の会心作。
- 本の長さ183ページ
- 言語日本語
- 出版社現代企画室
- 発売日1993/9/20
- 寸法13.5 x 1.6 x 19.5 cm
- ISBN-104773893095
- ISBN-13978-4773893090
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
人間とは、永久に相接することなく、世界という海をただようことを宿命づけられた〈島〉でしかないのか…。ユートピア的な幻想としての〈島〉を舞台に、究極のコミュニケーションの道を閉ざされた人間の絶対的な孤独を描く。
登録情報
- 出版社 : 現代企画室 (1993/9/20)
- 発売日 : 1993/9/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 183ページ
- ISBN-10 : 4773893095
- ISBN-13 : 978-4773893090
- 寸法 : 13.5 x 1.6 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 655,411位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 162位スペイン・ポルトガル文学研究
- - 236位スペイン文学
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年9月10日に日本でレビュー済み
2008年12月16日に日本でレビュー済み
1945年に発表された作品が1990年代に翻訳・発刊されているという事情もあると思うけど、余りビオイ=カサレスの作品に触れたことのない僕にとっては、正直、「あれ?」っていう手応えだった。これって時代を考えると、フランス実存主義の興隆とほぼ同時代な訳で、カサレスが当時どの程度、ハイデッガーやサルトルを読んでいたかは知らないけど、そういう当時の同時代的な文脈で捉えた場合は、読み応えは全然違うのだと思う。
盟友・ボルヘスとの共作である「イシドロ・パロディ」の読み易さ、面白さ(=エンターテイメント探偵小説に特化)に較べると、構成はよく出来てるんだけど、なんか展開がひたすら暗くてジメジメした心理ミステリーに仕上がっている。もちろん、コミュニケーションや世界認識を哲学的に追求した作品ではあるから、読んで損はないんだけど、ひたすら内向的な作品です。カミュやカフカを読むような心構えで読むべき本を、ボルヘスを読むような期待を持ちながら読んでしまった素人の私は、敢えて星3つをつけます。
盟友・ボルヘスとの共作である「イシドロ・パロディ」の読み易さ、面白さ(=エンターテイメント探偵小説に特化)に較べると、構成はよく出来てるんだけど、なんか展開がひたすら暗くてジメジメした心理ミステリーに仕上がっている。もちろん、コミュニケーションや世界認識を哲学的に追求した作品ではあるから、読んで損はないんだけど、ひたすら内向的な作品です。カミュやカフカを読むような心構えで読むべき本を、ボルヘスを読むような期待を持ちながら読んでしまった素人の私は、敢えて星3つをつけます。