20世紀米南部作家ウイリアム・フォークナーが作家として自分の書き方あるいは自分らしさをみつけたと思われる1930年代の作品群の成長を分析したもの。1929年に発表された『響きと怒り』から、『死の床に横たわりて』、『サンクチュアリ』、『八月の光』などを経て、最高傑作『アブサロム、アブサロム!』(1936)にいたる作品の進化が論じられている。
フォークナーの作品研究の中心は、従来プロットであるが、そのプロットを読み解くキーとして、「ジェンダー」、「人種」、「南部」といった「ポストモダン」あるいは「ポストコロニアル」的な昨今の研究成果と、「あるべきところにある」という概念(?)を合わせたところに本書のポイントがある。
ただしその「あるべきところにある」は、以前フォークナー作中人物たちの言動を説明する言説、「過去と現在」、大江健三郎のいうGrief、などの延長にあるもので、いずれにせよ、これまでの研究成果を現時点で集大成したところに本書の功績があると思われる。
が、一般読書家としていわせてもらうと、
「ジェンダー」や「人種問題」のアーキタイプをそのままフォークナーの作品にあてはめることには違和感がある。フォークナーの作品にみられるジェンダーは果たして本当に反家父長制度的なものなのか、また人種問題は彼のなかでそれほど「前景化」されているものなのか。そして「あるべきところにある」という説明は、フォークナーのプロットを説明するにはあまりに枠組みが大きすぎないか。
といった疑問が浮かぶ。
その点で繰り返しだが現時点でこれまでの学者の研究成果を踏まえたものでしかない、といいたい。が、いわゆる文学研究で何が行われているのかがわかる点を考慮して星4つ。
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