私がこの作品に最初に出合ったのは、朝日ソノラマから発行された上下二巻本でした。
私の驚きは、あの有名なギャグマンガ『がきデカ』の作者がこんなにシリアスな作品を書いていたという事実と同時に、当時学生運動が挫折して社会が右傾化をはじめた中で、やがては戦中戦後よりも過酷な全体主義に移行する危険性をリアルに予感させる作品だったことです。
朝日ソノラマ版は友人のあいだを貸し回している間に紛失し、いずれ古書店で見つけたら買っておこうと思っているうちに、その古書は高騰してずっと買いそびれていました。
それが、連載当時の完全版として発行され、飛びつくように購入して改めて読むと、内容の一つ一つがシチュエーションは異なるものの、あまりにも現代の状勢に接近していることに愕然としました。
『光る風』に書かれた差別、格差、軍隊のあり方など、ことごとく今の日本は当てはまりつつあります。
山上たつひこは、『光る風』のなかで日本が全体主義に移行する現象の一つとして、防衛庁が「国防省」に昇格することを指摘しています。名称は「防衛省」と異なりますが、かつての防衛庁は「省」に昇格し、そのトップは「長官」から「大臣」になりました。
さらにここ数年、大地震などの災害が予測されていますが、『光る風』の中の為政者は、大災害までも全体主義確立のために利用していきます。
何十年も前に初めて読んだとき、エンディングに敗北主義を感じて気になっていたのですが、2008年の現在改めて読むと、このエンディングに続く日本の将来をどう描くのかは、読者である我々の選択にかかっていると、問題を投げかけているように感じられました。
差別や格差はなぜ作られるのか、なぜ、防衛庁は防衛省になったのか、これらはすべて「自分には無関係」なことではなく、実は誰にとっても大変身近なことです。
『蟹工船』を読む若者たちなら必ずそれを理解できるはず。ひとりでも多くの人に読んでほしい作品です。
出版社に一言言わせてもらえれば、定価が高すぎる。せめて2000円以内にならなかったものでしょうか。
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光る風 単行本 – 2008/7/24
山上 たつひこ
(著)
少年マガジンに1970年18号から47号まで連載され、当時、さまざまな反響をよんだ著者の少年漫画誌での代表作のひとつ。軍事国家化が進む架空の近未来日本を舞台に巨大な権力犯罪を告発する社会派SFの傑作。これまで、何度か再刊されてきたが、連載当時の扉まで含めての完全版を1冊に集成するのは、今回はじめてとなります。 近未来ポリティカルフィクションと題された物語は、エリート軍人の家に育った主人公・六高寺弦が、旧友が警官に射殺された現場を目撃したことから、謎の風土病と米軍の謀略に巻き込まれて、物語は進んで行きます。ベトナム戦争を背景とした国際情勢を反映した問題作の待望の完全版の登場です。
- 本の長さ616ページ
- 言語日本語
- 出版社小学館クリエイティブ(小学館)
- 発売日2008/7/24
- ISBN-10477803080X
- ISBN-13978-4778030803
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商品の説明
出版社からのコメント
山上たつひこの代表作『光る風』が刊行されました。
この『光る風』は、
この『光る風』は、
・「少年マガジン」連載時に連載のとき、評判の高く、
物語の一部になっているものあった扉絵(単行本初収録)をすべて収録。
・原本(少年マガジン)を参照したところ、なんとさらにページ抜けもあったため、これを正しました。
・コマがトリミングされていたものもいくつかあったため、これを元通りにしました。
・これまで出版社によって改竄されてた「ネーム」を元に戻し、そこへ新たに著者によるチェックをしてもらっております。
今後、この本が"テキスト"になるでしょう。そういう意味では「定本」ともいえるものになっております。
セキネシンイチ氏の装丁、呉智英氏の解説もすばらしいです。
著者について
1947年徳島県生まれ。出版社勤務を経て漫画家に。70年、ポリティカルフィクション「光る風」。72年、ギャグ作品「喜劇新思想大系」。74年、「がきデカ」連載開始(‾80年)。掲載誌の「少年チャンピオン」を少年誌初の200万部に押し上げた。86年、絵つきエッセー「地図の向こうは隣り町」。 87年、初の短篇小説「カボチャ通り」を発表。90年、マンガの筆を置き、本名の<山上龍彦>として、『兄弟!尻が重い』『蝉花』『春に縮む』を発表。 2003年、再び<山上たつひこ>として小説『追憶の夜』を発表し、漫画「中春こまわり君」を描く。
登録情報
- 出版社 : 小学館クリエイティブ(小学館) (2008/7/24)
- 発売日 : 2008/7/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 616ページ
- ISBN-10 : 477803080X
- ISBN-13 : 978-4778030803
- Amazon 売れ筋ランキング: - 871,464位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年9月8日に日本でレビュー済み
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2018年8月5日に日本でレビュー済み
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昭和の時代なら、なるほどと思う、当時は良いと思われていた近隣諸国に事情が分かってきたから・・今となっては陳腐・・
2009年9月27日に日本でレビュー済み
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近未来を描いたというが、現代社会がこのような世界に向かっているとは思えなかった。
大地震も唐突な印象を受けた。
大地震も唐突な印象を受けた。
2009年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この時代を知らない人間からすると、パラノイアに近い「国家」観だなと感じ、いささかうんざりしました。
学生運動後、時代は右傾化も軍国化もせず、むしろ現在は左翼的な思想が大勢を占めているという印象です。
軍隊ができたら軍国主義になるのであれば、日本以外の国は皆軍国主義であるはずですよね。
現在の、一部のネトウヨと呼ばれる人がことあるごとに「売国奴!」「日本は終わりだ〜」と嘆くのと同じ匂いを感じます。
極端な思想に傾倒するのは、右翼も左翼も根っこは同じ「変化への恐怖心」なのではないかと感じます。
マガジンに掲載されたというのも、後の社会的弱者層狙い→ヤンキー路線へと繋がっていく経緯を感じ興味深いです
ただ、こんな作品が生まれた時代背景を感じ興味深かったです。
まさに時代の徒花といえるのではないでしょうか。
学生運動後、時代は右傾化も軍国化もせず、むしろ現在は左翼的な思想が大勢を占めているという印象です。
軍隊ができたら軍国主義になるのであれば、日本以外の国は皆軍国主義であるはずですよね。
現在の、一部のネトウヨと呼ばれる人がことあるごとに「売国奴!」「日本は終わりだ〜」と嘆くのと同じ匂いを感じます。
極端な思想に傾倒するのは、右翼も左翼も根っこは同じ「変化への恐怖心」なのではないかと感じます。
マガジンに掲載されたというのも、後の社会的弱者層狙い→ヤンキー路線へと繋がっていく経緯を感じ興味深いです
ただ、こんな作品が生まれた時代背景を感じ興味深かったです。
まさに時代の徒花といえるのではないでしょうか。
2014年1月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
少年時代に読んだ本です。
当時は戦争ものだとばかり思ってみていましたが、ボクの勘違いでしたね。
ただ、今見ても現代と通ずることが多い作品だと思うし、社会に投げかける問題も少なくない作品だと思いました。
当時は戦争ものだとばかり思ってみていましたが、ボクの勘違いでしたね。
ただ、今見ても現代と通ずることが多い作品だと思うし、社会に投げかける問題も少なくない作品だと思いました。
2011年9月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
代表作という意味では圧倒的に「がきデカ」だと思う。いろんな意味でそれまでの試作(半田溶助、喜劇新思想体系・・・)を経ての完成形だと思われるから。ただあの超強烈なギャグが生まれるにはこの作品があったと思うのは僕だけでないはずである。この「光る風」は1970年の4月から11月まで少年マガジンに連載された。ここからは僕の想像であるが、少年マガジンというのは創刊からほとんど同じ読者が持ち上がりでその時代まできていたように思う。1959年4月創刊で当時小学3年生が1970年に大学生になっている。つまり昔々小学1年生という月刊誌があって毎年1年ずつ成長していくように、少年マガジンも1970年には大学生くらいの年齢層をターゲットにした企画をしていたと思う。じゃあ1970年の大学生というのはどういう時代だったかといえば、1970年3月に「よど号事件」、6月に「70年安保」、11月には「三島由紀夫事件」と左翼から右翼まで入り乱れて若者の精神(生き方)を揺さぶった時代であった。いまから考えたら想像も出来ないが、1970年くらいまでは、ひょっとしたら自衛隊が軍隊になって徴兵制が復活するのではないかと思ったりしていたし、逆に中国の毛沢東が南下してきて共産国家になるかもしれない等々もっと社会に緊迫感があった時代である。この「光る風」に書かれている物語は、当時の読後感としてはそれほど空想だとは思わなかった。政治体制なんて「さいころ」の転び具合によってどうにでもなりそうな不安を感じた時代でもあった。そんな当時の若者が感じていた不安をよくあらわしていると思う。
2013年6月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
このマンガ自体は、以前読んでいたこともあり、内容も社会派で考えさせられるものでした(一部、左翼的との声もありますが、私はまったくそう感じませんでした)。
商品自体の質も中古とは思えないほど美本で大変満足しております。
商品自体の質も中古とは思えないほど美本で大変満足しております。
2010年3月16日に日本でレビュー済み
あのガキデカの山上たつひこさんが書いたとは思えない違う漫画家の人が書いたような内容。読んでいて猿渡哲也の力王やダムド、どおくまんの暴力大将をなんとなく思いだした。絵は初期の手塚治虫やサイボーグ009の石野ノ森章太郎にちょっぴり似ていたような。目玉が飛びでる頭がぶっ飛ぶなどの描写は猿渡哲也のリアルさにはかなわない。スト-リー的には読み飽きないしスラスラ読めるが、絵はたいしてうまくないし不快になる、最後も善が悪を倒しハッピーエンドで終わるならいいんだけど、なんか変な終わりかた、後味が悪い漫画ですね。ただ読んでいてはまります。