周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』のDVDを鑑賞したあと、その映画の脚本づくりの元になった実際の痴漢冤罪事件の当事者の手記として本書があることを知り、さっそく注文した。
映画のほうはフリーターの独身青年が、就職面接に行こうとした日に痴漢冤罪で捕まってしまい、勾留期限まで否認を貫いたものの、地裁では有罪とされてしまい、控訴を決意するまでを描いたものだったが、この手記のほうは、妻子があって常勤の職場もある男性が痴漢冤罪に巻き込まれたというもので、妻の信頼のもと、控訴審までを闘い、ついに無罪を勝ち取るまでを描いたものだった。夫の手記と妻の手記が、ほぼ交互に掲載されている。
この実際の事件での、「被害者」の供述による公訴事実というのは、あまりにも露骨に卑猥なものなので、映画のほうでは「スカートの中に手を突っ込んだ」という話に描き直されていたが、本にあるような卑猥な容疑で夫が逮捕され、裁判にかけられたのを、家族として支え続けた奥さんも、本当につらかっただろう。
しかも、この著者の男性は、裁判にかけられた時点で職場を辞めざるをえなかったし、いくら無実の証拠を積み上げても「被害者」の供述のほうが裁判官の心証のうえでは重視されてしまう現実を前に、くじけそうにもなり、支える妻とのあいだで何度も家族崩壊の危機を経験している。
私は、留置場というのは被疑者という身分の者が勾留期限23日のあいだだけ入るところで、被疑者が刑事裁判の被告人となれば、拘置所のほうへ身柄を移してもらえるものと思っていたが、地裁の第一審の途中まで、長々と代用監獄である留置場に留め置かれるのだとは、驚きだった。これでは弁護団とのしっかりした話し合いもできないではないか。
それに、著者のはいていたズボンはボタン式のもので、「被害者」のいう「チャックをあけて……」という供述に合致しないし、しかも、基本的に婦人向けの仕立てのズボンだから、男性にとっては小用を足すのもベルトをゆるめてズボン全体を押し下げてからでないとできない構造になっていたという事実だけで、私が見れば無罪にするに足る証拠だと思えるのに(このことは婦人もののズボンをはいてみた男性ならすぐにわかる)、一審の裁判官がそのことを全然評価してくれなかったとは、たまげる。
要するに、日本の刑事司法は「推定有罪」から始まり、「無罪になりたかったら、推定有罪をくつがえす心証を裁判官に与えるだけの十分な証拠を弁護側が出せ」という注文がまかり通っている世界なのだ。
いったん被疑者にされた者にとって、刑事裁判を闘い抜くことがこんなにつらいことだったとは!
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お父さんはやってない 単行本 – 2006/12/5
矢田部 孝司+あつ子
(著)
この事件と出会わなければ、僕の映画は生まれなかった----周防正行監督
冤罪に巻き込まれた夫のために、家族は何ができるのか? 有罪率99.86%の
日本の裁判制度と闘い、逆転無罪を勝ち取った家族の、苦悩と愛情に満ちた感
動の手記。周防正行監督映画「それでもボクはやってない」の原点。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社太田出版
- 発売日2006/12/5
- ISBN-104778310462
- ISBN-13978-4778310462
登録情報
- 出版社 : 太田出版 (2006/12/5)
- 発売日 : 2006/12/5
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 304ページ
- ISBN-10 : 4778310462
- ISBN-13 : 978-4778310462
- Amazon 売れ筋ランキング: - 940,911位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ちょうどこの本を読んでいるときに、PC遠隔操作ウィルス事件があった。
犯人でない人が「自白」したという事実に、空恐ろしさを感じた。
冤罪というものを身近に感じる。
そして、警察・検察側が考えるよりもはるかに、冤罪被害者の人生は滅茶苦茶にされてしまうのだ。
そして、信じ合っていたはずの夫婦間にも亀裂が入り始める・・・
もしも我が身にふりかかったらと思うと、怒り、哀しみ、そして息苦しさを感じる。
実話なだけに重みがあり、涙がにじむ場面もあった。
また、拘置所の様子などが具体的に書かれていて、勉強になった。
犯人でない人が「自白」したという事実に、空恐ろしさを感じた。
冤罪というものを身近に感じる。
そして、警察・検察側が考えるよりもはるかに、冤罪被害者の人生は滅茶苦茶にされてしまうのだ。
そして、信じ合っていたはずの夫婦間にも亀裂が入り始める・・・
もしも我が身にふりかかったらと思うと、怒り、哀しみ、そして息苦しさを感じる。
実話なだけに重みがあり、涙がにじむ場面もあった。
また、拘置所の様子などが具体的に書かれていて、勉強になった。
2012年9月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
憤りを感じずには読めない。
起訴されたら99.86%の確率で有罪となる世界。
絶望的な状況で、さまざまな人間の醜さを見せつけられる。
痴漢嫌疑→起訴→会社退職までの流れがあまりにもあっさりしていて、
「そんな簡単に人一人の人生が壊されるのか」と涙さえこみ上げてきた。
裁判に至る道程はまさに人の心を折る過程だ。
読むのは辛いが、それでも読んで欲しい一冊だ。願わくば、真に
社会正義を志して司法の道を選ぼうとする若者たちに読んで欲しい。
起訴されたら99.86%の確率で有罪となる世界。
絶望的な状況で、さまざまな人間の醜さを見せつけられる。
痴漢嫌疑→起訴→会社退職までの流れがあまりにもあっさりしていて、
「そんな簡単に人一人の人生が壊されるのか」と涙さえこみ上げてきた。
裁判に至る道程はまさに人の心を折る過程だ。
読むのは辛いが、それでも読んで欲しい一冊だ。願わくば、真に
社会正義を志して司法の道を選ぼうとする若者たちに読んで欲しい。
2007年1月2日に日本でレビュー済み
この本を読んで、「満員電車に乗る怖さ」「腐りきった警察、検察の内情」
「えん罪によって人生が狂う事」「裁判をすることによる精神的な負荷」
「裁判に勝つことの難しさ」を知りました。
この本を読む前は、踊る大捜査線やサスペンス劇場のようなテレビドラマなどから、
犯人にでっち上げられても、警察や検察は、犯罪の真実を究明するために、
しつこく捜査してくれる、民衆の味方のように思っていました。
しかし、実際はそうではなく、犯人と決めつけ、
捜査もせずに虚偽報告や脅すなどをして
調書をまとめ、さらに馬鹿にした態度をするなど
人権を無視するかのような振る舞いをする、ということを知りました。
(すべてがそうではないと願いたいです)
また、裁判もテレビでは結果がよくニュースで扱われていて
そんなに、内情を知りませんでしたが、証拠を自分たちで作ったり
調べたりすることが、どんだけ苦労し、裁判に臨んでいるかを知り
裁判することの怖さもしりました。
痴漢は、簡単に犯罪者にされる身近なものだけに、
この本を読んで、本当に電車に乗るのが怖くなりました。
ただ、この本を読んでこのようなことがあることを、知ることができたことが、
自分としては良かったと思います。
なので、男性はもちろん読んで欲しいですが、
女性も「痴漢です」と言うのは勇気がいると思いますし、
言うこと自体は大事ではありますが、
確認もせずに言うことにより犯人を間違ってしまうと、
間違われた人の人生を狂わすことになることを知るためにも、
この本を読んで欲しいです。
「えん罪によって人生が狂う事」「裁判をすることによる精神的な負荷」
「裁判に勝つことの難しさ」を知りました。
この本を読む前は、踊る大捜査線やサスペンス劇場のようなテレビドラマなどから、
犯人にでっち上げられても、警察や検察は、犯罪の真実を究明するために、
しつこく捜査してくれる、民衆の味方のように思っていました。
しかし、実際はそうではなく、犯人と決めつけ、
捜査もせずに虚偽報告や脅すなどをして
調書をまとめ、さらに馬鹿にした態度をするなど
人権を無視するかのような振る舞いをする、ということを知りました。
(すべてがそうではないと願いたいです)
また、裁判もテレビでは結果がよくニュースで扱われていて
そんなに、内情を知りませんでしたが、証拠を自分たちで作ったり
調べたりすることが、どんだけ苦労し、裁判に臨んでいるかを知り
裁判することの怖さもしりました。
痴漢は、簡単に犯罪者にされる身近なものだけに、
この本を読んで、本当に電車に乗るのが怖くなりました。
ただ、この本を読んでこのようなことがあることを、知ることができたことが、
自分としては良かったと思います。
なので、男性はもちろん読んで欲しいですが、
女性も「痴漢です」と言うのは勇気がいると思いますし、
言うこと自体は大事ではありますが、
確認もせずに言うことにより犯人を間違ってしまうと、
間違われた人の人生を狂わすことになることを知るためにも、
この本を読んで欲しいです。
2007年1月20日に日本でレビュー済み
冤罪という言葉を聞くようになって、かなり久しい。
だからといって、自分には関係ない、あるはずがないと勝手に思い込んでいた。
しかし「明日は我が身」という恐ろしい現実に、正直読んでいて息苦しささえ覚えた。
ある日、いつもと変わらぬ朝を迎え、普通に出勤した父親・・・。
今日は残業はしないと言い残し、子供たちと家族水入らずで食べる食事を楽しみにしていた。
そんなどこにでもあるような平凡な家族を突然おそった悲劇・・・。
警察の人間味のない対応や、裁判官の明らかに女性を正しいと決め付ける偏った考え・・・。
家族のため、自分のため、両親のため、もう一度笑顔を取り戻すことを夢に見て戦い続けた父親。
平凡な生活から、一変、司法という壁に阻まながらも一生懸命夫の無実を晴らすために動き続けた妻。
実際の事件には、刑事ドラマのようなエンディングはなく、出口の見えない暗い道が続く。
そんな暗い道に差し込む一本の光は、やはり家族という財産でした。
覚えのない罪を着させられ抑留されていた父が書いた息子たちへの手紙には涙が出そうだった。
また、幼いながらも感じた裁判官への怒りの気持ちを書き記した子供たちの抗議文には、脱帽した。
私自身、幸せな家庭を壊した被害者と言われる女に対し、怒りに似たような感情を抱いたことも確かで
す。
お父さんはやっていない・・・
家族を信じ続けることの大切さや生きることの意味、いつ自分が犯罪に巻き込まれるか分からない怖さ、
やってもいないのに罪を着せられて生きることの辛さなどなど考えさせられることが多々ありました。
ぜひ読んでみて欲しいです。そして一緒に考えてみませんか。
だからといって、自分には関係ない、あるはずがないと勝手に思い込んでいた。
しかし「明日は我が身」という恐ろしい現実に、正直読んでいて息苦しささえ覚えた。
ある日、いつもと変わらぬ朝を迎え、普通に出勤した父親・・・。
今日は残業はしないと言い残し、子供たちと家族水入らずで食べる食事を楽しみにしていた。
そんなどこにでもあるような平凡な家族を突然おそった悲劇・・・。
警察の人間味のない対応や、裁判官の明らかに女性を正しいと決め付ける偏った考え・・・。
家族のため、自分のため、両親のため、もう一度笑顔を取り戻すことを夢に見て戦い続けた父親。
平凡な生活から、一変、司法という壁に阻まながらも一生懸命夫の無実を晴らすために動き続けた妻。
実際の事件には、刑事ドラマのようなエンディングはなく、出口の見えない暗い道が続く。
そんな暗い道に差し込む一本の光は、やはり家族という財産でした。
覚えのない罪を着させられ抑留されていた父が書いた息子たちへの手紙には涙が出そうだった。
また、幼いながらも感じた裁判官への怒りの気持ちを書き記した子供たちの抗議文には、脱帽した。
私自身、幸せな家庭を壊した被害者と言われる女に対し、怒りに似たような感情を抱いたことも確かで
す。
お父さんはやっていない・・・
家族を信じ続けることの大切さや生きることの意味、いつ自分が犯罪に巻き込まれるか分からない怖さ、
やってもいないのに罪を着せられて生きることの辛さなどなど考えさせられることが多々ありました。
ぜひ読んでみて欲しいです。そして一緒に考えてみませんか。
2007年2月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
悪いことをしなければ、国家権力を行使されることはない、と認識している方々には是非読んでいただきたい本です。著者は作家ではないので、表現が上手とはいえませんが、国家権力のおそろしさ、それが最も発揮されやすい刑事訴訟において、国民側にコントロールする術がないことが非常に良く描かれています。また、国家権力に対峙する時に、弁護士と友人がいかに大切かということが非常に良く理解できます。私はこの本を読んで、国民主権が刑事訴訟の面において定着するまで、当面は憲法を変えないほうが良いと確信しました。
2018年11月28日に日本でレビュー済み
冤罪被害者と妻子持ち性犯罪者
人数的にどちらが多いのか、と考えると明らかでしょう
悪いのは罪をなすりつけた性犯罪者です
間違っても痴漢された女性を責めるのはやめましょう
人数的にどちらが多いのか、と考えると明らかでしょう
悪いのは罪をなすりつけた性犯罪者です
間違っても痴漢された女性を責めるのはやめましょう
2016年12月16日に日本でレビュー済み
扱いの詳細はリアルで震える。本件に触発された周防監督のフットワークにも納得の、他人事での片づけられなさ。