犯罪現象一般の生成面、移行面、結果面と行刑面、
別に少年犯罪について、いずれも司法政策との関係面について、
コンパクトにまとまったよい概説的テキストだと思います。
本書でとくに留意している点は、犯罪研究の歴史的側面、
即ち、犯罪を犯罪行為外形と犯罪者人格とに分け、その因果性について、
過去からの連綿たるつながりに還元しうるのか（遺伝因性）、
または両断的に環境面からの形成作用によるものなのか（環境因性）、
といった視点から動機づけようとするものであって、
一方でスタティックな確率的側面での研究と対置しています。
その際、個別具体に学者名を挙げながら、
歴史的犯罪観の推移や思想的潮流に留意するなど、
学説史に重点を置いた記述となっているようです。
また、社会現象としての犯罪現象という点では、
例えば、ある誘拐事件があったとして、その因子を仮にも歪んだ教育に求めるならば、
それはつまり社会誘発性の犯罪現象ともなり、
個別問題のみならず、社会問題をも構成するので、
先ほどのシェマでいえば、遺伝因性と環境因性の中間に位置しうることになりますが、
昨今はむしろロンブローゾ説は否定される傾向にあるため（試験問題としては保留されたようです）、
どちらかといえば、環境や社会（むろんその教育面も）に寄って来ると思います。
そうした変化じたい、時代の流れに乗っているので、歴史的といえ、
史的因果律と反省などフィードバックを加味すれば、
弁証法的な犯罪観形成が犯罪学やその周辺にも影響、社会とも呼応するかたちで、
司法的処遇なども変わってくる、といえましょうか。
因みに、編著者は行刑政策論などを専門とする方で、別著『日本の刑務所』（岩波新書）などもあり、
軽塀禁など監獄内での二重処罰政策の問題性や、「懲役太郎」の舞い戻りの依然とした多さ、
つまり循環論的問題性について、改善すべきことを都度指摘するなど、独自の見解も示しており、
本テキストでもそうした視点のとり方をしているようです。併せてご一読をおすすめします。
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