第17回ファンタジー大賞辞退作の待望の刊行。
この物語は、厳密な意味での起承転結を取らない。進行する数組の恋愛が模倣関係となり、音楽上のフーガ形式をプロットとする。これは、斬新な試みである。
作者は「告白を聞く」という職業を設定し、長編小説の中に、フーガでいう嬉遊部としての告白を散りばめる。テーマは、一貫して、”愛をめぐる奇妙な告白”であり、決して、”奇妙な愛の告白ではない”。愛は、いかなる形であっても、純粋なものであるという作者の主張が仄見える。この告白部分が、実に、興趣に富む。
嬉遊部には、非常に暗示的なタイトルがつけられている。目次を見ていただければわかるが、「道」というタイトルには、当然、ザンパノとジェルソミーナの関係が投影されているだろう。ここで、嬉遊部は、一貫したテーマを持ちつつ、ポリフォニーの形態をとることになる。
明示されない人名。例えば、ガラス細工のような音楽を指揮していた89歳でなくなったマエストロ? カラヤンを思い浮かべて欲しいのであろう。だが、彼の最晩年の夢が、作中に書いてあったものだとは、私は知らなかった。伝記でも読んでみようか。このように、本作は、どこまででも読者の知的好奇心を刺激する作りとなっている。
舞台となるアパートは、核の傘下にある擬似日本を模しているのは明らかであるし、では、核の上に住むミシンと海亀とはなんなのか? 第三の嘘があるなら、第二、第一の嘘はなんなのか? 考えれば考えるほどに面白い。
だが、この作品の根底に流れるのは、深く抉り取られていく恋愛の分析であり、真の優しさといえる。エンターの手法を取り入れているので、私のように変な深読みは無用。作者のストーリーテリングの才に乗っていけば、自然に、読書の楽しみを味わえる。
実に、うまく作られた小説である。海外小説の影響が非常に強いが、ここ数年の現代日本文学の中では、明らかに出色の出来栄えといえる。
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愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ 単行本 – 2005/12/17
琴音
(著)
魂の形を愛していた。ちょっと歪んだ星の形だった。
そのいびつな形と触れられぬほどの熱さが
私の心の氷を溶かし、涙に変えた ─── 本文より
そのいびつな形と触れられぬほどの熱さが
私の心の氷を溶かし、涙に変えた ─── 本文より
自殺した元恋人の部屋で、「私」は地図の描かれたメモを見つける。地図を頼りに辿り着いたのは、スラム街にある一軒のアパート。住人たちが職業としているのは、個室で客の「告白を聞く」という商売だった。聞き屋となった私は、住人のひとり「イップ」との恋に落ちる。しかし甘い生活は長く続かない。街には葬列、追いかけてくる過去、恋人の秘密。数々の謎はある夜に起きた爆弾テロに収束し、物語はクライマックスを迎える──。
文学界にセンセーションを巻き起こす、誰も書き切れなかった最後の純愛小説!
- 本の長さ264ページ
- 言語日本語
- 出版社ライブドア パブリッシング
- 発売日2005/12/17
- ISBN-104779400333
- ISBN-13978-4779400339
商品の説明
著者からのコメント
幼い時から、お話を書くことが大好きでした。母が超高齢出産だったため、近所に同じ年頃の遊び友達がいなかったからです。ひとり遊びの延長が、ずっと続いて今に至ります。
本作の核は、高校時代に浮かんだものです。ただ、プロットとしてどうしても組み上げることができず、何年も眠らせてありました。それが、宝塚の轟悠さんのポートレートを、偶然、目にした瞬間、ジグソーパズルをはめるようにパチパチとできあがっていきました。
三日三晩、ランダムに降りてくる文章を書きとめ続けたことを覚えています。そして、大切な親友を失った時、行き場のない喪失感を埋めるために、このポリフォニックな愛の物語を、さながらフーガを演奏するように、祈る気持ちで、打っていました。
ひとりでも多くの方に、この終わりのない物語を読んでいただくことが、私の願いです。
本作が書籍になるまで、本当に、たくさんの人々に助けられました。ありがとうございます。感謝いたします。
本作の核は、高校時代に浮かんだものです。ただ、プロットとしてどうしても組み上げることができず、何年も眠らせてありました。それが、宝塚の轟悠さんのポートレートを、偶然、目にした瞬間、ジグソーパズルをはめるようにパチパチとできあがっていきました。
三日三晩、ランダムに降りてくる文章を書きとめ続けたことを覚えています。そして、大切な親友を失った時、行き場のない喪失感を埋めるために、このポリフォニックな愛の物語を、さながらフーガを演奏するように、祈る気持ちで、打っていました。
ひとりでも多くの方に、この終わりのない物語を読んでいただくことが、私の願いです。
本作が書籍になるまで、本当に、たくさんの人々に助けられました。ありがとうございます。感謝いたします。
著者について
1976年4月9日、北海道生まれ。東京大学法学部第1類卒業。現在、ライターおよび翻訳業。第17回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞辞退。
登録情報
- 出版社 : ライブドア パブリッシング (2005/12/17)
- 発売日 : 2005/12/17
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 264ページ
- ISBN-10 : 4779400333
- ISBN-13 : 978-4779400339
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,746,671位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 41,793位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2006年11月28日に日本でレビュー済み
所々、ちょっとなぁ………って感じの表現もありますが、テロの最中、もう会えないと思っていたイップが部屋に飛込んできた後の、たった3分って時間に対する主人公の件がすごく好きです。
2006年1月11日に日本でレビュー済み
『愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ』読みました。
通学の途中で読もうと思っていたのですが、買ってきたその日に、ページをめくり、気がつくと、外は真っ白。こんなに、一気に本を読んだのは初めてです。
登場人物の経験した辛い過去が、自分の経験した辛い過去と重なりとても共感し、涙が溢れました。
私自身、まだ愛というものはよくわからないのかもしれませんが、この本で愛についてを色々と学ばせてもらえたと思います。
私の中では、この物語の世界が不思議な雰囲気で包まれていて、少し目の視点を変えてみれば本当にそんな世界があるんじゃないかと思えるような現実的世界でした。
最初から物語に惹きこまれていき、読み終わった後には自分も告白をして肩の荷が降りたような気分でした。
こんな素敵な本はなかなかないと思います。
通学の途中で読もうと思っていたのですが、買ってきたその日に、ページをめくり、気がつくと、外は真っ白。こんなに、一気に本を読んだのは初めてです。
登場人物の経験した辛い過去が、自分の経験した辛い過去と重なりとても共感し、涙が溢れました。
私自身、まだ愛というものはよくわからないのかもしれませんが、この本で愛についてを色々と学ばせてもらえたと思います。
私の中では、この物語の世界が不思議な雰囲気で包まれていて、少し目の視点を変えてみれば本当にそんな世界があるんじゃないかと思えるような現実的世界でした。
最初から物語に惹きこまれていき、読み終わった後には自分も告白をして肩の荷が降りたような気分でした。
こんな素敵な本はなかなかないと思います。
2007年5月28日に日本でレビュー済み
何かに傷ついている人に是非読んでほしい物語。
この本の中には、傷ついた魂の人々がたくさん出てきます。しかし、だからこそ、その人々のふれあいの中からは愛が生まれ、祈りが生まれます。
「究極の愛」を感じる、ぎりぎりに追い詰められた人々の物語。
たくさんの人々にこの本を手にとって、この物語にこめられた愛や祈りを感じてほしいと思います。
この本の中には、傷ついた魂の人々がたくさん出てきます。しかし、だからこそ、その人々のふれあいの中からは愛が生まれ、祈りが生まれます。
「究極の愛」を感じる、ぎりぎりに追い詰められた人々の物語。
たくさんの人々にこの本を手にとって、この物語にこめられた愛や祈りを感じてほしいと思います。