社会科学を学ぶ者にとって、また9：11以降の「イスラーム、脅威か否か」的な議論に辟易していた者にとって待望のイスラーム「政治」研究書である。
本書の特色は、現代イスラーム運動の代表格ともいえる「ムスリム同胞団」運動を、近代国家における「普通の」社会・政治運動として比較分析している点にある。具体的には、「エジプト同胞団（非合法）」と「ヨルダン同胞団（合法）」の活動が「議会活動」と「地域紛争」を事例に比較されているのだが、教義的なレトリックを並べ立てずに両組織の活動の軌跡を淡々と叙述しているため、そこには欧米メディアに登場するイスラーム運動組織の胡散臭さは感じられない。むしろ、両組織が合法的な勢力拡大のために新戦略を取り入れつつ一進一退を繰り返す姿は、イスラーム運動が他の政治・社会運動と異なる特殊な運動だと考えていた者にとっては目から鱗である。政治学の様々な理論を意欲的に取り入れているあたりも、それまでの研究とは一線を画する。
ただし、文献中心で地域研究的な深みが足りないのと、他の重要な同胞団・同胞団系運動（シリア、パレスチナ）まで広がりを持たない点で、評価は星4つ。
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