高谷幸「追放と抵抗のポリティクス」(ナカニシヤ出版)とともに、毎日新聞(2017年)に紹介されていたことで手に取った。
著者は京都大学で社会学のトレーニングを受けてきた。そして、自らのバックグラウンドをもとにして本書を著した。
著者も認めるとおり、この分野の著作は豊饒なる成果があるが、本書はそれにほとんど「何か」を加えられていない。
220ページ弱の本文では、本書の学問的性格と方法論の検討で60ページ弱を費消している。
著者がこだわたったといい、方法論的正当化にも紙幅を費やすオーラルヒストリー(ききとり)も、4・5章の一部でしか用いられていない。
率直に言って、本書は学術書としてはアンバランスに過ぎる。
オビでは、オーラルヒストリーのオリジナルな成果を歌っている。
にもかかわらず、本書でそれがまったく活きてこないし、そもそも言及があまりに乏しい。
外国人登録にあたっては、現場の役人や警官の「気まぐれ」に左右されるところが大きかったと著者は言う。
だが、その面でも考察や深化があまりに中途半端である。
行政学でいう、いわゆる現場官僚制の問題は、在日コリアン研究と絡めるととてもおもしろそうなテーマだけに、実に惜しい。
本書を読むと、評者としては、在日コリアンの戦後の来歴をたどる3章が「復習」として役立った。
でも、だとするなら、著者がリスペクトする大沼保昭ほか、この分野の優れた先行研究に当たった方がいいとも思える。
最後の謝辞にはビッグネームが縷々連なっているが、その大きな学恩にして本書の出来であるとは、納得いかない。
タイトルが野心的なだけに楽しみにしたのであるが、とても残念である。
著者には必ずやリベンジを期待したい。
多分、彼女の読みやすい軽やかな筆致であれば、よりオーラルヒストリーを前面に出した新書の類の方が面白いのではないか。
(小熊英二の集英社新書のような)
その意味で、評者の期待はつながれている。楽しみにしている。

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外国人をつくりだす: 戦後日本における「密航」と入国管理制度の運用 単行本 – 2017/7/30
朴 沙羅
(著)
占領期、在日朝鮮人はいかにして「外国人」として登録され、入国管理の対象となったのか。詳細な聞き取りと資料から明らかにする。
- 本の長さ288ページ
- 言語日本語
- 出版社ナカニシヤ出版
- 発売日2017/7/30
- 寸法13.5 x 2.5 x 19.4 cm
- ISBN-104779511852
- ISBN-13978-4779511851
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商品の説明
著者について
京都大学文学部を経て2013年京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学・2013年)。立命館大学国際関係学部准教授を経て神戸大学国際文化学研究科講師。編著に『最強の社会調査入門』(ナカニシヤ出版、2016年)、訳書にポルテッリ『オーラルヒストリーとは何か』(水声社、2016年)。
登録情報
- 出版社 : ナカニシヤ出版 (2017/7/30)
- 発売日 : 2017/7/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 288ページ
- ISBN-10 : 4779511852
- ISBN-13 : 978-4779511851
- 寸法 : 13.5 x 2.5 x 19.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 770,688位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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