「短歌を作るということは、『五七五七七』の決められた器に言葉を盛り込み、その化学反応でなんらかの世界を築く、言葉の実験の一つ(p.7)」と考える歌人による短歌教室。
著者による短歌の紹介と鑑賞もさることながら、出色なのは「演習問題」。既存の短歌の一部が空欄になっていて、そこにどういう言葉が入るかを読者に考えさせる。私のような素人は、しばしば「説明的」な、ありふれた言葉を入れてしまうので、そのあとに、オリジナルの語句が紹介されると「へえ」「そうか!」と納得する。「動かない」=「ぴったり嵌って効果を発揮する(p.9)」語句というものがあることが体感できるのである。ついでながら、この演習で、俵万智の歌については私の予想が当たることがあった。それがまさに、俵の歌が素人も含む多くの人に読まれた理由なのではないかと思う。もっとも「サラダ記念日」の「サラダ」が空欄になっていたら想像できなかっただろうと思うけれど。
笑ったのは、斎藤茂吉の「赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり」を改悪して「赤茄子の腐れてゐたるところより吾追いかけてくる嫌な蠅」としている箇所。でも私だったらそういうふうに作りそうだ。
本書に登場した印象的な歌。
「次は日没、日没です」と聞こえしはいづくの駅か再び眠る 花山多佳子
みんないい子と眼を開き母はまた眠る茗荷の花のやうな瞼閉ぢ 河野裕子
鳳仙花の種で子どもを遊ばせて父はさびしい庭でしかない 吉川宏志
倖せを疑はざりし妻の日よ蒟蒻ふるふを湯のなかに煮て 中城ふみ子
観覧車よ回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ) 栗木京子

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短歌の不思議 単行本 – 2015/4/1
東 直子
(著)
- 本の長さ257ページ
- 言語日本語
- 出版社ふらんす堂
- 発売日2015/4/1
- ISBN-104781407552
- ISBN-13978-4781407555
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登録情報
- 出版社 : ふらんす堂 (2015/4/1)
- 発売日 : 2015/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 257ページ
- ISBN-10 : 4781407552
- ISBN-13 : 978-4781407555
- Amazon 売れ筋ランキング: - 598,633位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2019年1月19日に日本でレビュー済み
2017年11月8日に日本でレビュー済み
#短歌 東直子 #説明歌 一期一会隙間意識と善悪と必死文体視心曲入 塚本邦雄 革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ #返歌 君が代を斉唱してる講堂に寄りかかられて硬化してゆくピアノ
2015年8月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書を書店で中身を確認したのなら、購入しなかったと思う。
他者の短歌の一部を空欄にして、どんな言葉があてはまるかを問う「穴埋め問題」が23問もある。
短歌作品のオリジナルがあるのだから、正解は短歌の作者の言葉に決まっている。
このような方法は愚かで品がなく、短歌の作者に対しても失礼である。
まるで、学校の国語の試験問題だ。程度が低いと思う。
また、東氏の作品がたくさん掲載されていることを期待していたが、少ししかない。
退屈で、いろんな意味で残念な本だ。
他者の短歌の一部を空欄にして、どんな言葉があてはまるかを問う「穴埋め問題」が23問もある。
短歌作品のオリジナルがあるのだから、正解は短歌の作者の言葉に決まっている。
このような方法は愚かで品がなく、短歌の作者に対しても失礼である。
まるで、学校の国語の試験問題だ。程度が低いと思う。
また、東氏の作品がたくさん掲載されていることを期待していたが、少ししかない。
退屈で、いろんな意味で残念な本だ。
2015年4月25日に日本でレビュー済み
面白い短歌入門書だ。短歌を観賞しながら、歌を作る技術的なことも学んでいくのだが、まず「短歌の秘訣」を、幾つかのタイプに分類する。それは、一語一会/隙間意識/性善悪説/必死条件/文体主義/視心伝心/単刀曲入の七つである。今までにない斬新な切り口だと思う。あと、面白いのは、既成の短歌の中の一語を空白にして、そこにどんな語が入るべきか想像させる問題である。たとえば、「千人の十二歳の解く算数の鉛筆の音が( )を圧す」の( )には、「冬空」が入り[森尻理恵『S坂』]、「( )をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都」の( )には「退屈」が入り[栗木京子『水惑星』]、「赤い髪赤いツナギに赤い靴あれは私の( )だったか」の( )には「動脈」が入る[花山周子『屋上の人屋根の鳥』]。その歌を知らない限り、いろいろ想像してもまず当たらない。しかしそこから見えてくるのは、すぐれた短歌というものは、ありきたりの類型的な発想からはほど遠い、かくも新鮮な発見と言葉の使用に裏打ちされている、という驚きである。