①ルイ・アラゴンはシュールレアリズム(超現実主義)文学の旗手の一人である。日本ではアンドレ・ブルトンの方が知名度は高いと思われる。他に日本語で読めるアルゴンの作品は中央公論社『世界の文学』に収録されている作品のみである。
②本作『パリの農夫』は、アレゴリーの宝庫である。文字が非現実を寓意的に示すのだ。表題の『パリの農夫』から受けるイメージは
1)〈パリ〉と〈農夫〉の組み合わせのミスマッチ。前者は都会的で洗練されたイメージなのに対し、後者は田舎(農村)ののどかな田園イメージであって、この両者はどう見ても噛み合わない。
2)そして何よりも、〈農夫〉は〈パリ〉に似合わない。したがって、〈農夫〉が〈パリ〉に対して抱くイメージは「シュール(非現実)」なのだ。
③パリの「オペラ座横丁」が小説の舞台となっている。安酒場や売春宿が立ち並ぶ。大手金融会社が土地の買収に乗り出し、強制立ち退きを命じられた居酒屋店主が買収に抗議する貼り紙をし、設備一切を売却する旨を伝えている。署名の後に第一次大戦で傷ついた軍人であると経歴が述べられる。強制立ち退きが〈強奪〉・〈破産〉と表現され、酒場経営が唯一の生活手段であることが主張されている。立ち退き料や年金等の他の生活手段ことは触れられていないのが面白い。
④主人公がこの横丁を通りかかり、理容店を営む男性理髪師を〈ブロンド(金髪)〉女性しか相手にしないのだろうと妬む。そして〈ブロンド〉を「小麦」に例える。これが主人公である〈農夫〉の非現実(シュール)な「夢想」である。この「小麦」が「羊歯色の髪」に転換され、「ヒステリーのようなブロンド」、「大空のようなブロンド」、「疲労のようなブロンド」、「接吻のようなブロンド」、「金髪の絵の具をぶちまけたパレットの上に、自動車の優美さを、…愛撫のいたずらを。」と表現され、ブロンドの髪はいつしか〈事物〉に転換される。「ブロンドの屋根」、「ブロンドの風」、「ブロンドのテーブル」となり、ついに「ブロンドの百貨店」、「欲望のための歩廊」、「オレンジエードな金色の火薬庫」と化して、どこもかしこもブロンド化するのだ。
⑤そして〈ブロンド〉概念はこの農夫の非現実の夢想の中でいつしか「愛の調べと一体になった一種の色の精神」に転化する。
その色は「白」→「黄色」→「赤」に変色し、その神秘を明かすことなく、「快楽のつぶやき」、「海賊のようにくちびるを盗み」、「澄みきった水面の震え」にも似て、とらえどころなく定義から逃げ去るという。
⑥こういう言葉のアレゴリーが意味するものは、〈ブロンド(金髪)〉という高級なイメージではなく、「低俗(下品)」な嫌らしいイメージに終始した。これが見果てぬ〈農夫〉の非現実な夢想である。ベンヤミンが『パサージュ論』で見出だした〈アウラ(オーラ)〉は、非現実かつ下品な夢想によって〈農夫〉と結び付いた。言葉は夢想を紡ぎ出す〈記号〉である。
こういうシュールな小説を読むのもたまには良い。
お勧めの一冊だ。出来ればもう少し安く買えれば良い(笑い)。
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パリの農夫 (シュルレアリスム文庫) 単行本 – 1988/10/1
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社思潮社
- 発売日1988/10/1
- ISBN-104783727279
- ISBN-13978-4783727279
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登録情報
- 出版社 : 思潮社 (1988/10/1)
- 発売日 : 1988/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 256ページ
- ISBN-10 : 4783727279
- ISBN-13 : 978-4783727279
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