本書は１８５３年のペリー来航を皮切りに、１８７０年から１年きざみに、当時のもようを伝える絵はがきで、歴史をつづってゆく、という体裁をとっています。
著者も最初に書いていますが、絵はがきといえば、名所や美しい風景を撮った観光地みやげ、あるいは珍しい建物や文化財を写したもの、というイメージが現代では強くなっています。もちろん、１９世紀末に訪れた世界的な絵はがきブームは、旅行ブームと連動したものでもありました。
しかし、著者は日本の「時事絵はがき」として売られたものを手がかりに、報道写真にも近い絵はがきの役割に気づき、大きな記念イベントの記録としての絵はがきを収集し、それによって時代の雰囲気をあぶりだそうとします。
この年にこういう事件があった、という解説がページの下三分の一、そして上は絵はがきそのものが大きく載せられており、歴史的事件が当時の国民にとってどういう意味があり、どういうニュアンスであったのか、がなまなましく伝わってきます。
特に日露戦争以来の戦勝記念の絵はがきは、多くの死体が写っている報道写真的なものあり、東郷平八郎が連合艦隊司令官に抜擢されたときの親子そろっての写真館的な肖像あり、「肉弾三勇士」の写真と遺品を陳列した写真あり、記念碑や銅像の写真ありと、ひたすら驚かされました。
また時の首相や軍人のほか、野口英世、藤原義江のまさに「ブロマイド」もあります。
もちろん新設の橋、駅、地下鉄開通、工場、国会議事堂などの建物の記念絵はがき、博覧会やデパートの、囲み写真をちりばめた洒落たもの、桜島の噴火、関東大震災など災害現場を冷静に写したもの、宝塚歌劇場や日比谷公会堂、あちこちの名勝を背景にしたホテルなど新たな文化施設を紹介するものもあります。
このあたり著者の取捨選択によっていますが、何とも不思議な思いにとらわれます。
奉祝的なおめでたいものだけでなく、天災のみならず大火の惨状など人為災害の悲惨を伝えるものが、そのつど出されていたのです。絵はがきは「報道メディア」そのものでした。
またたとえば、昭和三年の「ラジオ体操始まる」のページを見ると、上空から撮った「簡易保険局の屋上でラジオ体操をする職員たち」の写真があり、絵はがきが国民への啓蒙活動、広告メッセージとしても広く用いられていたことがわかります。
年代的には、１８７０年から１９４５年まですべての年について、大きな事件とそれをあらわす複数の絵はがきが並んでいて、絵はがきの持つ「報道メディア」としての意味をクローズアップ。ページから、当時の空気が（時には言葉を失わせるように）濃密にたちあがってきます。
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