魚柄氏の本を読むのはこれで3冊目。実に面白い内容だが、重々しいタイトルで損をしている感はある。本書において「戦争」や「敗戦」は直接的なテーマでは無い。戦中・戦後の厳しい食糧事情は「背景」としてあるものの、その限られた食材や調理環境の中でどうやって「美味しい食事」を作っていくか、という難題に立ち向かう庶民たちの奮闘ぶりが伝わってきて、読み進むうちに明るい気分になってくる1冊だ。
他の魚柄氏の著作と同様、この本も主に1930~1950年代にかけての婦人雑誌の付録料理本が材料となっており、それらの記事から著者が様々な推理を行ない、掲載された「レシピ」をもとに料理の再現を試みる。そこから浮き上がってくるのは決して恵まれたとは言えない環境下でも「より良い食生活」を実現させたいという(当時の)日本の人々のバイタリティの凄さ。
全部で8つの章に分かれているが、個人的に最も面白かったのは最初の2章「すき焼き」と「サンドイッチ」。今日「すき焼き」と聞いて日本人が想像する料理に「バラツキ」があるとは考えづらいが、魚柄氏によればほんの50年位前までは「すき焼き」という呼称はかなり勝手気まま?に使用されていたようだ。今なら「鉄板焼き」と呼ばれるような料理を「すき焼き」と呼んでいるケースも載っているが、爆笑なのは山田耕筰による「スキヤキ・アラ・バタフライ」(P.30/1951年)。著者のツッコミを待つまでもなく、「これハンバーグでしょ」と言いたくなる料理(でも中々美味そう)。ドイツ留学仕込み、「蝶々夫人」に引っ掛けた命名などは如何にも山田耕筰らしい。
第2章では、明治時代にはまだ「舶来のお料理」であったサンドイッチが、どのように日本の家庭の食卓に普及していったのかがとり上げられるが、文中に登場する戦前~戦後にかけての奇想天外な「サンドヰッチ」の数々には驚くばかり。鰹節、塩辛、奈良漬け、わさび漬け・・・。今日的感覚では「実験料理」のようなものばかりだが、別に奇をてらったわけではなく、著者が指摘するように食糧事情の悪化から「あるものを挟む」方向をとらざるを得なかったというのが実態のようだ。米不足が深刻だった当時、パンは「米の代用品」という位置づけでもあったようである。「日本人にとって寿司とサンドイッチはほぼ同じカテゴリーの食べ物だったのでしょう」(P.71)という著者の指摘は非常に興味深く、文中には「和食と洋食」「寿司とサンドイッチ」という垣根を飛び越えたようなメニューが続々登場する。かつて「スシバー」が海外で流行り始めた頃、日本の寿司と全然違うと「批判」する向きがあったが、何のことは無い。そういう「ボーダーレスな寿司」は日本人自らが戦前から生み出していたのである。
第3章の「うどんとマカロニ」では、今日言うところの「パスタ」が意外に早い時期から日本の食卓に登場していた事に驚くし、「昭和初期から戦後の食糧難の時代にうどんとマカロニがクロスオーバーして日本独自の麺料理文化を生み出してきた」(P.76)という著者の指摘には共感する。「マカロニ鍋」や「トマトうどん」など印象的な料理が多く紹介されているが、中でもインパクト充分なのが「マカロニー・ライス」(P.86/1934年)。ご飯、マカロニ、ジャガイモ、インゲン、トマトケチャップを組み合わせたこんな料理が昭和初期の婦人雑誌で紹介されているのが驚きだが、同じく米とパスタを組み合わせたエジプトのB級グルメ「コシャリ」を思い出してしまった。
第4章以降の後半部分も、前半ほどのインパクトには欠けるが、興味深い記事が並んでいる。全編読んで実感する事を、書中で著者がズバリと述べている。
「『なにを食べるか?』ではなく『ここにあるものをどうやって食べるか?』こそが和食の底ぢからなのです」(P.77)。
本書に掲載された料理以外にも「ラーメン」や「カレー」等々、元々「外来種」であった料理を大胆不敵に「和食」に溶け込ませてしまった日本の先達のチャレンジ精神には感服する他ない。やや場違い感のあるタイトルに惑わされず、気軽に手に取り、楽しんで頂きたい良書である。
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台所に敗戦はなかった: 戦前・戦後をつなぐ日本食 単行本 – 2015/8/7
魚柄 仁之助
(著)
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購入オプションとあわせ買い
家庭の食事を作っていた母親たちは、あるものをおいしく食べる方法に知恵を絞って胃袋を満たしていった。戦前―戦中―戦後の台所事情を雑誌に探り、実際に作って、食べて、レポートする、「食が支えた戦争」。飽食のいま、食糧難が生んだ和食文化を食べる!
- 本の長さ206ページ
- 言語日本語
- 出版社青弓社
- 発売日2015/8/7
- 寸法14.8 x 1.5 x 21 cm
- ISBN-104787220616
- ISBN-13978-4787220615
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著者について
1956年、福岡県生まれ。食文化研究家。著書に『腸を元気にするレシピ109』(飛鳥新社)、『食ベ物の声を聴け!』(岩波書店)、『冷蔵庫で食品を腐らす日本人』(朝日新聞社)、『うおつか流大人の食育』(合同出版)ほか多数。
登録情報
- 出版社 : 青弓社 (2015/8/7)
- 発売日 : 2015/8/7
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 206ページ
- ISBN-10 : 4787220616
- ISBN-13 : 978-4787220615
- 寸法 : 14.8 x 1.5 x 21 cm
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- - 17,489位日本史 (本)
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2020年7月20日に日本でレビュー済み
2015年12月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
物凄く興味はあるのですが、ページレイアウトがちょっと好みじゃなくて…、文字もつまっていて読みづらいんです。
そのためか、1ページも読み進めず…読みたいのに読みづらくて(あくまで個人の感想です)、葛藤しています。
そのためか、1ページも読み進めず…読みたいのに読みづらくて(あくまで個人の感想です)、葛藤しています。
2023年1月27日に日本でレビュー済み
結構興味深く、拝読できました。意外と、小麦、食パン、バター、砂糖、牛肉のオンパレードに、米不足とは。。。本書末にでてきた、糠も活用しよう!となるのはわかりました。これでは、日本人、栄養不足です。どう考えても、これも、戦争の要因と私は思いました。敵国に栄養のないもの輸入させられてるとしか思えませんでした。名古屋にしるこサンドというお菓子があって、〇〇サンドというところから、きてるんかなと思いました。こどものころは、なんでお汁粉をビスケットに挟むんだ?と思ってました。日本文化って、洋の外側、中に漬物とか和を挟むものが結構あってなんで?と思ってました。おやきとか。市販のサンドイッチも昔、漬物みたいなのが挟まってました。今もそういのあるのかな?
結構前から、食パンに洗脳されていたのですね。すき焼きに砂糖も謎でした。とにかく、栄養のないものの組み合わせばかり。なんとなく、おしゃれ風?著名人によって広告洗脳か?興味深く見させていただきました。日本の雑誌文化が今でもようわからん、日本食の文脈があるのは間違いないですが、とにかく情報が少ない時代、文字だけで、個々のイメージで作り出す、オリジナリティあふれる食であったのは、間違いなさそうです。まあ、でもこれは、80年代ぐらいまでありましたから、一度見てみたい、食べてみたいと、庶民の噂や憧れの対象であったのは、間違いないでしょう。面白かったです。
結構前から、食パンに洗脳されていたのですね。すき焼きに砂糖も謎でした。とにかく、栄養のないものの組み合わせばかり。なんとなく、おしゃれ風?著名人によって広告洗脳か?興味深く見させていただきました。日本の雑誌文化が今でもようわからん、日本食の文脈があるのは間違いないですが、とにかく情報が少ない時代、文字だけで、個々のイメージで作り出す、オリジナリティあふれる食であったのは、間違いなさそうです。まあ、でもこれは、80年代ぐらいまでありましたから、一度見てみたい、食べてみたいと、庶民の噂や憧れの対象であったのは、間違いないでしょう。面白かったです。
2021年4月16日に日本でレビュー済み
テーマ:☆☆☆☆☆
タイトルにもある戦後の食糧難時代の工夫がメインかと思いきや、全体の一部でしかない。
しかし洋食が初めて日本に入って来た頃の話や、今普通に食べられている物の変遷などは興味深い。
文体:☆★★★★
よく言えば軽快、悪く言えば軽薄。
巷にあふれるまとめ駄サイトのような「~なんです」などの口語体が鼻につく。
かと思えば「~なのです」とも言っていたり、「私」や「わたくし」が混ざっていたり、とにかく安定してない。
また噺家に憧れてでもいるのか「~なりますわな」「~しているんですの」等々変な語尾を多用している。
ページ構成:論外
古い料理雑誌などの記事写真が引用されているが、資料の記事と本文とはっきり分ける事をしておらず大変に見づらい事が多い。
また図には折角番号を振ってあるにもかかわらず本文では「この図では」とだけで「この図(図15)では」と指定する事もしていない。
しかもその図が「この図」より前であったり後ろであったり好き放題で、別のページの図を指している事もしばしばあり、「最低」の一言。
タイトルにもある戦後の食糧難時代の工夫がメインかと思いきや、全体の一部でしかない。
しかし洋食が初めて日本に入って来た頃の話や、今普通に食べられている物の変遷などは興味深い。
文体:☆★★★★
よく言えば軽快、悪く言えば軽薄。
巷にあふれるまとめ駄サイトのような「~なんです」などの口語体が鼻につく。
かと思えば「~なのです」とも言っていたり、「私」や「わたくし」が混ざっていたり、とにかく安定してない。
また噺家に憧れてでもいるのか「~なりますわな」「~しているんですの」等々変な語尾を多用している。
ページ構成:論外
古い料理雑誌などの記事写真が引用されているが、資料の記事と本文とはっきり分ける事をしておらず大変に見づらい事が多い。
また図には折角番号を振ってあるにもかかわらず本文では「この図では」とだけで「この図(図15)では」と指定する事もしていない。
しかもその図が「この図」より前であったり後ろであったり好き放題で、別のページの図を指している事もしばしばあり、「最低」の一言。
2015年9月14日に日本でレビュー済み
タイトルだけからすると、戦争は是か非かといったたぐいの本のようだが、
そうではない。
戦中から戦後、日本は貧しいながらも「料理」を工夫し、
安くておいしいモノをつくってきた。
その経緯だけでなく、料理の作り方まで解説した本。
つまり、戦争には負けたけど、どっこい料理は生き抜いていたぞ
という本である。
変なふうに戦意高揚に流れてもいないし、
ヒステリックに反戦を叫ぶわけでもない。
あくまで「台所」から見た、あの時代の本である。いろんな料理の紹介が楽しい。
一読に値すると思う。
そうではない。
戦中から戦後、日本は貧しいながらも「料理」を工夫し、
安くておいしいモノをつくってきた。
その経緯だけでなく、料理の作り方まで解説した本。
つまり、戦争には負けたけど、どっこい料理は生き抜いていたぞ
という本である。
変なふうに戦意高揚に流れてもいないし、
ヒステリックに反戦を叫ぶわけでもない。
あくまで「台所」から見た、あの時代の本である。いろんな料理の紹介が楽しい。
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