これは、落語に造詣の浅い（こんな言い方あるかしらん）僕などが軽々に「すごい」などと語ってよい本ではないだろう。が、レビューがひとつもない状況はいかにも寂しい。読んだ者の責任として、なにがしかの感想を残しておきたいと思う。
著者は、今日の上方落語そのものと言ってもいい桂米朝師。この人の学究肌なかりせば、本当に上方落語は滅んでいただろう、ということがとてもよく伝わってくる1冊だ。始まりは小沢昭一氏編集の季刊誌『芸能東西』で、それが廃刊になってからは大阪で出ていた『上方芸能』に移して連載が続けられた。内容は、「私の専門である上方落語のあれこれ、書き残しておきたいもの何でも……」という、まさに雑記ノートである。
しかしこれが、ちょっと門外漢には手も足も出ないというか、僕なんか理解の及ばないところも多々あった。それでも米朝師によって復活され、現在日の目を見ている古典落語はほんの氷山の一角で、時代の狭間に消えていった噺がどれだけあったか、ということはよくわかった。その死屍累々の上に、今日の『地獄八景亡者戯』の栄光もあるのである。
米朝師が素晴らしいのは、それら滅びゆくものたちにも光を当てようとしていることだ。「世の中には何の役にも立たない研究や考証ではあるが、こんなものを懸命になって書き残そうというバカはあまりあるまいから、ともかく出版社の御好意に従って世に出すことにする次第である」とは米朝師らしい口上である。僕にはある意味、その行為は鎮魂のようにも感じられた。
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