資本制経済システム（市場原理）とは少数の持てる者（have)が多数の持たざる者（have not)に対し、
いわば搾取によって私腹を肥やすシステムなのだ、と考えることも可能でしょう。
資本・経営側から資本制システムを見た場合にいえることは「利潤の追求」であり、
いわば所有比率をめぐる格差拡大でしょう。
従来の経済理論（近代学派）はこれを看過してきたのに対し、
ひとえにマルクス主義経済学だけはこれを重視し、革命の必然性を説いてきました。
そこで、本書との関連でちょっとマルクス主義経済学を繙いてみましょう。
即ち、その生態文明史観は社会構造（social structure)を、
人類の自然環境(natural environment)への一適応形態と捉えます。
なので各ローカルエリアにおける物質間関係
（レヴィ・ストロースの『野生の思考』などを参照のこと）が、
社会関係としてメタフィジカルに表象・析出し、また商品経済として物象化する中で、
「象徴交換体系」（メアリー・ダグラスらによる)としての文化システムが形成されるわけです。
また、その過程で諸個人はシステムから疎外されます（alienation)。
システムは自動運動（autonomical movement）を開始し、もはや諸個人による制御から逸脱し、
人為的なコントロールが効かなくなってしまいます。この事象を以て「社会科学の成立」としましょう。
文化人類学はその意味では社会科学に属し、また別の意味では人文科学にも属します。
一方、人類学はれっきとした自然科学ですからその間の溝は深いといわざるをえません。
さて、以上のような理由から歴史的時間が下るにつれて革命
（被支配者側に政権が移ること）の確率も増し、
社会主義（共産主義）政権が成立しやすい土壌が生まれます。現にフランスやロシア、
中国などでは革命政権が成立し、労働者が政権を取ったわけですが、近代経済学理論2は理論1に比べ、
そのような政治過程の必然性を十分には理解していないと思います。
例えば、本書のエチオピア農村部もそうですが、メラネシア・フィジー王国における、
30年ごとの首長交代劇に際して登場するのは、
王国内の土地所有関係について詳細に記載した古文書です。
そもそもフィジーのような小規模社会では無産階級なるもの（have not）が存在せず、
各世帯が割と豊かな物質的・精神的生活を営んでいるので革命は不必要なのです。
一方、大規模な資本制経済社会のもとでは大勢の無産階級が生じることから、
革命やクーデター（実力行使による政権奪還）が必然化し、
その抑圧として軍事政権がはびこりやすいのです。
因みに、いまの香港は自由主義側からの社会主義との民主化闘争なのでいわば逆理ですね。
以上紹介したような2つの経済理論間の相互矛盾に対して何か感じるところのある向きには、
本書のご一読をおすすめし、以て統合的な修正資本主義について再考したり、
総合的な人類学への興味関心を深めてもらえたら、と思います。
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