この本は、言語ゲームの入門書です。ですがちょっと不思議なことに、ウィトゲンシュタインについてはほとんど言及されていませんでした。
また、著者の中川氏は人類学者だそうですが、この本ではファイヤアーベントやヒューム、クーンなどの見解が多数引用されていました。私が読んだ限り、この本は人類学よりも科学哲学の説明に力を注いでいると思いました。
第1講義では、「ゲームの中の意味はゲームの規則(ルール)から生まれる」という見解が披露されています。ゲームに参加しているプレイヤーはゲームの意味を体験できますが、ゲームの外部にいる人は意味を失調してしまいます。
第2講義では、「『文明』の科学は『未開』の呪術よりも優れている」という文明人の優越意識が脱構築されています。伝統社会と近代社会の考え方の境界線が曖昧になっていきます。
第3講義は、自然科学の基礎である帰納法が正しいとはいえないというお話です。帰納が導き出す法則は人間が創造する虚構にすぎないというお話もあります。
第4講義では、科学的なカテゴリーを実在論的に捉える「本質主義」と観念論的に捉える「相対主義」の対立が紹介されます。また、本質主義と相対主義の折衷案である「効用主義」と世界とは縁を切る「主知主義」の対立も紹介されています。
第5講義では、主知主義の考え方がクローズアップされます。主知主義は、「カテゴリーはゲームの中にある」と主張します。他のゲームよりもおもしろい(プレイヤビリティが高い)ゲームが、主知主義では採用されます。
第6講義で紹介されているのは、科学の全体論です。全体論によれば科学を構成する命題はすべてお互いに関連しあっており、あたりまえとされている命題が覆されると科学革命が起きます。科学革命は、今までの言語ゲームをまったく新しい言語ゲームに変貌させます。
第7講義では、主知主義がさらに推し進められています。理論が世界を創り、理論の数だけ世界が存在するというのが中川氏の立場です。
第8講義では、意味は世界ではなくゲームの中にあるものだという考えが徹底されます。中川氏は意味と世界の関係をどんどん小さくしていく戦略で論を進めておられます。
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