特定の宗教における聖地が、観光の対象として積極的に消費されたり、世界遺産として認定され人類の共通財として愛でられたりと、宗教史上のかつてない変化を被っている。こうした状況を、「聖なるもの」が世俗的な欲望やビジネスライクな策略に呑み込まれて衰退していく過程として切り捨てるのではなく、むしろ、ツーリズムという社会文化的な力学の影響をうけて宗教が再編成されていく興味深いプロセスとして理解し、その動態について冷静に考えていこう、という趣旨のもとに書かれた11本の論文(+序章)からなる論集である。
近世までの御師や先達に代わる、鉄道会社や観光業者や地域行政の「信徒/旅客」に対するコーディネーターとしての役割の重要性、ルルドやサンチャゴなどの巡礼地において、「信仰」を持たない者たちが現地の人々によって不意に持たされてしまう聖性や、彼らとの関係で無意識のうちに演出されていく「巡礼」らしさ、観光開発の過程で四国遍路の道に新しく投入されていく現地住民の想像力や郷土愛、オタクの実存を包摂する「聖地」の力、長崎の教会群の世界遺産化にあたり焦点化される真正性をめぐるポリティクスや観光客の倫理の問題、世界遺産化したバングラデシュのイスラーム聖者廟の管理権をめぐる闘争、アウシュビッツを題材とした「ダークツーリズム」(戦争や奴隷制や強制収容など歴史の「負の遺産」に基づく観光)の問題構成など、多種多様な対象と論点がみられ、これ一冊読むだけでかなり勉強になる。
宗教研究のもっともホットな話題の一つについての入門書として使えるだけでなく、現代社会における文化消費の論じ方について学びたい人にも有益な作品であるといえよう。もちろん観光業界にかかわっている読者にも是非おすすめしたい。
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宗教とツーリズム―聖なるものの変容と持続― 単行本 – 2012/6/22
山中 弘
(編集)
近年、教会や修道院、神社仏閣、聖山など宗教施設を巡るツーリズムが盛んである。宗教とツーリズムとの関わりを社会学、人類学、地理学、観光学等の成果も駆使しつつ主として宗教学的視点から初めて論じた、宗教ツーリズム研究の本格的入門書。
- 本の長さ300ページ
- 言語日本語
- 出版社世界思想社
- 発売日2012/6/22
- 寸法13.8 x 2.4 x 19.3 cm
- ISBN-104790715655
- ISBN-13978-4790715658
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登録情報
- 出版社 : 世界思想社 (2012/6/22)
- 発売日 : 2012/6/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 300ページ
- ISBN-10 : 4790715655
- ISBN-13 : 978-4790715658
- 寸法 : 13.8 x 2.4 x 19.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 169,375位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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