ファシズムに抗うため、全ての市民にとっての必読書だと思います。一人でも多くの人に読んでいただきたいです。
原著は1998年、松葉訳は2000年出版で、もう20年近く前のものですが、この2-3年の解説書なのではないかと思えるほどの普遍性を持っています。それほどに、ファシズムと、それに対する抵抗は“似る”、つまり理論化できるということなのだと思います。もちろん、現在の社会状況は1998年当時とは異なりますので、全てをただ当てはめることはできません。それでも本書は、現在読める中で最高の「ファシズム取扱い説明書」といえるのではないでしょうか。
本書は、外国人(特にサン・パピエ:「書類のないこと」、不法滞在者)の権利を中心に据えることで、市民とは誰か、市民権とは何であるか、という問いを一貫して追求しています。その考察から導き出される市民社会の在り方こそが、ファシズムに対して抗う最大の武器であると論じます。
バリバールによると、市民権とは、<主>や<守護者>から授与されるものではありません。権力の横暴に対して市民が蜂起し、日常的に行使することによって、市民自身が主体的に手に入れる諸権利の総体です。しばしばその蜂起は実定法への不服従を意味しますが、市民が服しているのはより上位にある人類法(不文律)であり、市民は、人類法と実定法の間に明らかな矛盾を確認すれば、公共空間で争いを起こす義務を負っています。そうした行為は、法の概念を攻撃するものではなく、守るものである、とバリバールは論じます。
では、市民はいかにして両者の矛盾を認識するのか。そのきっかけを与えてくれるのが外国人(サン・パピエ)です。サン・パピエによって人々は自分たちが何者であるかを、あちこちからきた労働者や家族であることを認識し、民主主義とは何かをよりよく理解することができます。そして、政府の主張の欺瞞を暴き、制度的人種差別のメカニズムの一つを明らかにし、この悪循環への抵抗を学ぶことができるのです。彼らの存在によって初めて、既存の「市民権」の輪郭は錯乱し、法の本質、すなわち人類法に従った市民権の再建の必要が明らかになりました。こうして市民権の刷新が図られ、市民が蜂起する(=抵抗/反抗を表明し、組織化する)ことを通じて、我々は国民戦線の下劣さ、憎悪、他者の排除といった特徴と闘うことが可能になるのです。すなわち我々は、サン・パピエに対し幾重にも負っており、より多くの人間が彼らの側に立たなければならない、とバリバールは主張します。
このように、バリバールにとって、外国人問題は単なる社会問題の一つではありません。国家や民主主義、人間の尊厳にかかわる問いを提示し、これを発展させる、「代表」なのです。
本書を読んでいる最中、私は現代日本で起きている様々な社会問題を繰り返し思い出さずにはいられませんでした。在特会など人種差別団体による在日外国人排斥運動、沖縄県における米軍基地の強制や大阪府の機動隊による「土人」発言、タイ人のウティナンさんに対する国外退去処分判決、入管による外国人の虐待、難民受け入れ数の極端な低さなどは、偶然に起きているのではありません。我々は今まさに、岐路に立たされています。一人でも多くの人が本書を手に取り、共に闘う市民になってほしいと願ってやみません。
最後に、他のレビューで話題となっております翻訳の質について触れておきます。
私はフランス語が読めませんので、原著と松葉訳にどれほどギャップがあるのか分かりません。確かに平易な訳文ではありませんが、どうしても不明瞭さが残ってしまうのは多くの翻訳書について共通するものですので、松葉訳がとりわけ妙だとは思いませんでした。
あえて指摘するなら、分かりにくかったのは次のような場合です。
・皮肉的表現。
・前提知識が必要な話題。
・指示代名詞が何を指しているか、一見明らかでない場合。
もちろん、平易な翻訳本が出版されればそれに越したことはありませんが、翻訳書ではこのような問題は避けがたいでしょう。
また、仮に細部が理解できなかったとしても、あきらめずに繰り返し読めば、バリバールが何に憤慨し、何を守ろうとし、我々にどう行動せよと迫っているのかは十分伝わります。読者を市民として突き動かすことこそが本書の目的ですので、冷笑主義やただの観察者でいようとする呪縛から読者を解放し、ファシズムに抗するため立ち上がらせることができたのなら、20年の時を経てバリバールの声はしっかり届いた、といえるのではないでしょうか。
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市民権の哲学: 民主主義における文化と政治 単行本 – 2000/10/1
- 本の長さ261ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2000/10/1
- ISBN-104791758463
- ISBN-13978-4791758463
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ファシズムの台頭、外国人問題など、国家と市民のあり方が全世界で問われている。「公民的不服従」など斬新な概念を提唱し、マルクスからアルチュセール、フーコーらの思想をラディカルに実践。全く新しい主体性を創造する。
登録情報
- 出版社 : 青土社 (2000/10/1)
- 発売日 : 2000/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 261ページ
- ISBN-10 : 4791758463
- ISBN-13 : 978-4791758463
- Amazon 売れ筋ランキング: - 886,577位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2008年2月21日に日本でレビュー済み
Ackyさんの意見に全く同感です。バリバールに限らず、一般にフランス現代思想、社会科学の邦訳には首をかしげるケースが多いように思う。トゥレーヌ、サルトル、モラン、プーランザス、カストリアディスなどなど。われわれ一般市民は彼らの思想を、解説書ではなく翻訳書から本当に掴むことができたであろうか。どのような翻訳作法上の理屈があるにせよ、フランスで知的な平均的市民が普通に読んでいる以上、邦訳も最低限その程度の日本語であって欲しいと思う。買って読んではみたが、理解できたのは「訳者あとがき」の日本語だけというのではあまりに悲しいではないか。訳者、出版社に問いたい。「あなた(がた)は声に出して翻訳原稿を読んでみたのか」「わからない日本語を訳者に問い質したか」と。今や翻訳調に西欧情緒を感じる時代でもないだろう。バリバール、フランス思想と日本の一般読者との関係が切れることを危惧しての提言である。ご寛恕を請う。
2008年2月21日に日本でレビュー済み
とにもかくにも翻訳が酷すぎます。どの1ページでも結構ですが、声を出して読んでみてください。原著を読めば分かるように、バリバールの主張は至極明快なのですが、この翻訳者の手にかかると、全編意味不明のミステリーに変身してしまいます。純粋に日本語として読んでみても意味不明な箇所が多すぎことが判明するはずです。訳者の経歴などを勝手にプラス評価してしまい買ってしまったのですが、大失敗でした。
2008年2月21日に日本でレビュー済み
とにかく翻訳文が読みにくく、意味がとれないところが多すぎます。一日も早い改訳を望みます。