死ぬ時は、私はもはや私ではなくただの<ひと>だから、主体である私が死ぬのは不可能だというような<不死>概念は、ブランショ、レヴィナス、バタイユらによるハイデガー後を模索する試みとして捉えられる。著者の説明が特に冴えるのは、そうした哲学的思考をアクチュアルな問題関心に照らし合わせて現代社会の分析に至るところである。<脳死>の考え方が疑問ももたれずに当然視される(少なくとも一部の)医療界の単純さには警告を発してもいる。臓器のリサイクル化が、<技術>による<不死>の生産という意味においては戦争や収容所の延長線上にあるということが省みられていないからだ。しかし、そこで「主体」に戻ったりするのは戦争の経験やハイデガー+その後の思考を生かせないどころか、物質的な<不死>が現前しつつある今日において意味がないから、著者は個の拡散した<不死>の時代の可能性として人間の複合性や共同性への注目を示唆するのである。基本的な流れはフランス現代思想にのっとっていながらも、日本で現代社会をウォッチする読者にとってリアリティをもって読むことの出来る好著。読み終える頃には、タイトルにこめられた幾重もの意味も納得できる。
執筆当時(1989~90)のアクチュアリティは、脳死問題の他にも「歴史の終焉」への言及や、ハイデガーのナチ関与に関する論争の経過を追った記述などにもうかがえる。文章の全体的な印象は、ヘーゲルの「否定性」をワイパーに喩えるような比喩をはじめ、割に文学的なスタイルで書かれており、このジャンルにしては息苦しくなく読みやすいものだといえる。
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不死のワンダーランド 増補新版 単行本 – 2002/9/1
西谷 修
(著)
- 本の長さ432ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2002/9/1
- ISBN-10479175994X
- ISBN-13978-4791759941
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
人間の死は「誰でもいい誰か」のものとなり、医療技術によって文字通り「死ねない」世界が到来した。その中で哲学・思想はどうなっていくのか。反「反テロ戦争」の代表的論客の自他共に認める代表作。90年刊の増補新版。
登録情報
- 出版社 : 青土社 (2002/9/1)
- 発売日 : 2002/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 432ページ
- ISBN-10 : 479175994X
- ISBN-13 : 978-4791759941
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,066,602位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 836位フランス・オランダの思想
- - 2,029位西洋哲学入門
- カスタマーレビュー:
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