数式による説明箇所はほとんど理解できませんでしたが、読み終わって思うところをつらつらとカキコしてみます。
ホログラフィック・パラダイムとはD・ボーム自身も述べているように新しい洞察の一形式である。
量子論の観測問題や心脳問題に立ちはだかる大きな壁。
それはデカルトの二元論によって自然科学が哲学から分離し独立し、めざましい進展を遂げた原動力でもある洞察形式、即ち唯物論、(素朴)実在主義、要素還元主義、数理主義に対峙する障壁でもある。
実証主義がこれらの問題を迂回した道具主義と揶揄される中、ホログラフィック・パラダイムは立ちはだかる障壁に真正面から挑むためのひとつの指標を示した良書である。
「顕前秩序はより一般的な内蔵秩序の特殊ないし特別な場合として派生しうるとみなすことができる。(P.303)」
D・ボームによれば個別の運動は全体運動の亜総体であり、生体もこの全体運動の部分集合であり、私たちの顕前意識も生体が持つ膨大な無意識の表層となる。
思考とは言語化に他ならず、言語は論理であると同時に言語化とは固定化や断片化でもある。
顕前意識が静的で断片化されたものへ集中する傾向があるのは顕前意識自体が言語的記憶即ちエピソード記憶や形式知が活性化するところにたち表れるからであり、亜総体や個別運動を顕前意識で捉えることは固定化や断片化の思考活動に他ならない。
影が物体(三次元)の二次元への投影であるように、三次元の物質や空間さらに時間もより高次な実体の射影であるとする発想は昔から自分が抱いていたイメージと重複するころがあり分かりやすいものであったが、これが方程式の意味の考察から導き出されるというD・ボームの見解には驚かされた。(P.315)
事事無礙法界や一即一切・一切即一など華厳や唯識と類似する点は多いが、これをもって短絡的にイデアや汎神論と結びつけることは(訳者が述べるところの)物理学の最前線を担い続けてきた科学者D・ボームの「形而上学の良心」を台無しにすることにもなりかねないとも思う。
また科学が世界から法則性や規則性を抽出しこれを理論化する試みである以上、D・ボームが「内蔵秩序」という語を用いることは理解できるが、秩序自体が無秩序の特殊ないし特別な場合として派生している可能性も否定できない。もっともD・ボームも新たな全体ですら別の新たな全体のひとつの相である可能性も示唆しホログラフィック・パラダイムは新たな全体がつぎつぎと現れる運動と捉えている。問題は私たちの意識を内蔵するこの世界が陰伏的な秩序ある全体運動によって形成されているのか、まったくもって無秩序なのかについての問いについて、これを判定する術が私たちにあるのかないのかである。
何れにせよパラダイムやブレイクスルーは科学と哲学が双方向に交流もしくは、これらのジャンルの中間に位置する発想が起点となるように思え、その意味でも「全体性と内蔵秩序」は画期的な科学&哲学書であると思う。
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全体性と内蔵秩序 単行本 – 2005/11/1
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2005/11/1
- ISBN-104791762185
- ISBN-13978-4791762187
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登録情報
- 出版社 : 青土社 (2005/11/1)
- 発売日 : 2005/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 368ページ
- ISBN-10 : 4791762185
- ISBN-13 : 978-4791762187
- Amazon 売れ筋ランキング: - 465,586位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2008年2月29日に日本でレビュー済み
物理学関係の本の大半は、「関係者以外理解お断り!」との貼り紙がされているような「難解な内容と著者のひとりよがりな文章」で構成されている。
いわゆる「こむずかしい本」である。
ボームは、物理学界(その他)の王道であるところの「こむずかしい本を書く人イコール賢い人&優れた人」という定説を、いとも軽々と切って捨てた。
彼の「気負いの無さ」と「見栄心の少なさ」と「新しいアタマ」に、ブラボー!
この本は、読み手が理解しやすい、ということを念頭に置いて、わかりやすい表現を選んで「真理(世のなりたちに関する真実)」を説明してある。
ボームの論旨はこうだ。
「現在世界中に激増・蔓延している諸悪は、人が事象を断片化して考えることが根源となっている。
全体性に拠る思考を行なうなら、事象の秩序は乱れないのである」
この説は正しい。
ところが、断片化に大反対しているボームこそ、皮肉なことに 断片化の象徴そのものだ。
全体性に拠る思考を行なっている人は、自説にこだわるあまりにそれを著して売り広める、ことなどしないものだ。
例えば、もっとも高い精神を持つアメリカ・インディアンの一部の人はそうだ。
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