良い本と悪い本の違いは、その本に集中できるか、つまりその世界に入り込めるかどうかだと思っていますが、この本についてはそれができませんでした。
航海術はとても興味のある分野なので、情報を得る、という観点からすれば悪くないのですが、いかんせん文章力や表現力が乏しく、物語としては楽しめません。話の流れに脈略がない、もしくは飛ぶ箇所が多く、出来事の時系列がわかりづらい、登場人物の行動や言動の意図を推測しなければならない、といったことになります。
それが原文のせいなのか、訳者のせいなのかは、原書を読んでいないのでわかりません。機会があれば原書を読んでみたいと思いますが、この日本語版については情報収集として割り切ったほうがよいです。
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星の航海術をもとめて: ホクレア号の33日 単行本 – 2006/10/1
- 本の長さ362ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2006/10/1
- ISBN-104791762932
- ISBN-13978-4791762934
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登録情報
- 出版社 : 青土社 (2006/10/1)
- 発売日 : 2006/10/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 362ページ
- ISBN-10 : 4791762932
- ISBN-13 : 978-4791762934
- Amazon 売れ筋ランキング: - 364,804位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 546位世界史一般の本
- - 34,461位科学・テクノロジー (本)
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2008年1月1日に日本でレビュー済み
本書は2006年に出版されたのだが、原著 "An Ocean in Mind" は1987年の出版で、扱われているポリネシアの伝統航法によるハワイ−タヒチ往復航海は1980年に行われたものだ。新刊書なのに内容的にはえらい古いので初めは違和感を持った。航海で使われた「ホクレア号」が2007年に来日すると言う事で出版されたのであろうか。
ホクレア号の航海は、ポリネシアの人類の放散過程が、遭難等の偶然に依るものか、それとも、意図的な遠洋航海に依るものかの論争に決着をつけようとしたものだ。遠洋航海で小さな島に到達するためには、緯度、経度、方位を正確に知る必要がある。西洋航海術では緯度は六分儀による天測、経度は天測と正確な時計、方位は(特に曇天時の)磁石を用いる事でこれが可能となっている(現在ならGPS一発で全部分かる)。それらなしに例えばハワイ−タヒチ間を航海することは長らく不可能と考えられて来た。しかし、1976年にポリネシアの航海師マウのナビゲーションでホクレア号がタヒチ−ハワイ間の航海に成功して、意図的放散派が力を増していた。
ただ、そのナビゲーションがどのような原理で行われているかは、西洋的な説明に慣れないマウから詳細を聞き出せなかった。そこで、ポリネシア人の血を引き西洋の教育の元で育ったナイノア・トンプソンが航海師となるべく訓練をし、もう一度行ったのが1980年の航海だ。その結果、ポリネシア航海術は十分な精度でナビゲーションが出来ることを再度証明するとともに、その航海術の西洋的な理解が進んだのだ。
ポリネシア航海術で用いられるのは、やはり天測が中心だ。緯度の測定には基本的には星の高度を用いるのだが、「二つの星が同時に昇る/沈む」という観測で極めて精度の良い決定が出来るというのは感心した。方位は、水平線上にある星を用いる。もう一つ感心したのが、方位決定にうねりを使う手法だ。太平洋では例えば南氷洋でできたうねりが長距離つたわることが知られている。この波の方位は安定していて、船の方位決定に使える。問題は他の波と重なっているのを見分けるのは極めて難しそうだが、訓練された人間の感覚で見分けられるというのは、ありそうな話で、曇天での方位決定という問題がこれで解決する。航海師マウは船の船倉で揺れを感じているだけで、船の方位が分かると言う。
経度については、一定の方位である緯度まで進んで、それから方位を転換することで、経度の計測無しでも航海は不可能ではない。目的の島の緯度に島の風上側で到達するように航路を設定して、その緯度に達したら緯線に沿って風下へ進む事で島を発見する。それで島が見つかるかと言うと、海水、鳥、波を注意深く観察すれば島の影響領域は広く、100km離れていても島の方位を知る事ができるという。西洋文明に毒された我々は過去の技術を過小評価しがちであるが、復元できてみると極めて高度だし面白いという典型の一つである。
このレビューでは技術的な面のみを取り上げたが、ナイノアが航海術を獲得して行く間の人間模様、航海の記録、そしてプロジェクトの危機など、記録文学としても非常に面白い。翻訳もこなれていて読みやすく、お薦め。ただ、タイトルは原著のロマンが失われているように感じて少し残念。もっとも、『心の中の海』というタイトルでは手に取る事もなかっただろうから、適切なタイトルなのかもしれない。
ホクレア号の航海は、ポリネシアの人類の放散過程が、遭難等の偶然に依るものか、それとも、意図的な遠洋航海に依るものかの論争に決着をつけようとしたものだ。遠洋航海で小さな島に到達するためには、緯度、経度、方位を正確に知る必要がある。西洋航海術では緯度は六分儀による天測、経度は天測と正確な時計、方位は(特に曇天時の)磁石を用いる事でこれが可能となっている(現在ならGPS一発で全部分かる)。それらなしに例えばハワイ−タヒチ間を航海することは長らく不可能と考えられて来た。しかし、1976年にポリネシアの航海師マウのナビゲーションでホクレア号がタヒチ−ハワイ間の航海に成功して、意図的放散派が力を増していた。
ただ、そのナビゲーションがどのような原理で行われているかは、西洋的な説明に慣れないマウから詳細を聞き出せなかった。そこで、ポリネシア人の血を引き西洋の教育の元で育ったナイノア・トンプソンが航海師となるべく訓練をし、もう一度行ったのが1980年の航海だ。その結果、ポリネシア航海術は十分な精度でナビゲーションが出来ることを再度証明するとともに、その航海術の西洋的な理解が進んだのだ。
ポリネシア航海術で用いられるのは、やはり天測が中心だ。緯度の測定には基本的には星の高度を用いるのだが、「二つの星が同時に昇る/沈む」という観測で極めて精度の良い決定が出来るというのは感心した。方位は、水平線上にある星を用いる。もう一つ感心したのが、方位決定にうねりを使う手法だ。太平洋では例えば南氷洋でできたうねりが長距離つたわることが知られている。この波の方位は安定していて、船の方位決定に使える。問題は他の波と重なっているのを見分けるのは極めて難しそうだが、訓練された人間の感覚で見分けられるというのは、ありそうな話で、曇天での方位決定という問題がこれで解決する。航海師マウは船の船倉で揺れを感じているだけで、船の方位が分かると言う。
経度については、一定の方位である緯度まで進んで、それから方位を転換することで、経度の計測無しでも航海は不可能ではない。目的の島の緯度に島の風上側で到達するように航路を設定して、その緯度に達したら緯線に沿って風下へ進む事で島を発見する。それで島が見つかるかと言うと、海水、鳥、波を注意深く観察すれば島の影響領域は広く、100km離れていても島の方位を知る事ができるという。西洋文明に毒された我々は過去の技術を過小評価しがちであるが、復元できてみると極めて高度だし面白いという典型の一つである。
このレビューでは技術的な面のみを取り上げたが、ナイノアが航海術を獲得して行く間の人間模様、航海の記録、そしてプロジェクトの危機など、記録文学としても非常に面白い。翻訳もこなれていて読みやすく、お薦め。ただ、タイトルは原著のロマンが失われているように感じて少し残念。もっとも、『心の中の海』というタイトルでは手に取る事もなかっただろうから、適切なタイトルなのかもしれない。
2006年10月30日に日本でレビュー済み
最初は星の見つけ方がつづくので、ちょっと引いてしまいましたが、
そこをこらえて読むと、いつの間にか自分が大洋のなかにいて
古代ポリネシアの人たちといっしょに波間に揺れているような気がしてきました。
わたしたちが忘れかけている何かを思い出せてくれるなかなかの良書だと思います。
そこをこらえて読むと、いつの間にか自分が大洋のなかにいて
古代ポリネシアの人たちといっしょに波間に揺れているような気がしてきました。
わたしたちが忘れかけている何かを思い出せてくれるなかなかの良書だと思います。
2006年11月19日に日本でレビュー済み
航海術の基本は、「船の位置を求めること」と「船の向かう進路を求めること」という、空間認知にあります。まだ海図や航海計器のなかった時代の航海者たちの心には何らかのイメージマップがあり、彼らは天体、風、風浪とうねり、潮海流、海水の色、鳥や魚、陸の匂いなど、自然のもたらす様々なサインを読み解きながら航海術を実現していたのでしょう。
こうした空間認知力は海を渡る航海者だけに特有のものだったのではなく、広大な草原や砂漠を旅する遊牧民たちにもあった筈で、人間は本来そのような身体知を駆使して旅をする能力を持ちうる存在です。そして、人が自然から受け取る多くのサインの中でも、星は特に重要な役割を果たします。
本書に登場するナイノア・トンプソンは、西洋化された現代のハワイ社会で育った人です。一方、彼に航海術を教えたマウ・ピアイルッグは、ミクロネシアの離島サタワルで生まれ、幼少の頃からカヌーで大海を渡りながら生きてきた、太古から続く身体知的な航海術を今に伝える稀有な人です。
ナイノアはマウから航海術を教わる際に、生まれたときから海と接してきたサタワルの若者たちが学ぶやり方だけでは無理だと悟ります。そこで、プラネタリウムを使って星の動きについての理解を深め、それによって自分の頭にイメージマップを作り上げていきます。
こうした論理的なアプローチと、マウから学んだ身体知的なアプローチは、ホクレア号というカヌーで大海を渡るという実践を通して、ナイノアの中で一体化していきます。本書はこのナイノアの学びの過程を描いたドキュメンタリーなのですが、僕は思わず興奮して引き込まれ、一気に読み通しました。
船や航海についての基礎知識がないと少し読みづらい箇所もあるのですが、加藤晃生さんの丁寧な訳文と訳注がそれをカバーしていますので、是非多くの人に読んでいただきたい一冊です。
こうした空間認知力は海を渡る航海者だけに特有のものだったのではなく、広大な草原や砂漠を旅する遊牧民たちにもあった筈で、人間は本来そのような身体知を駆使して旅をする能力を持ちうる存在です。そして、人が自然から受け取る多くのサインの中でも、星は特に重要な役割を果たします。
本書に登場するナイノア・トンプソンは、西洋化された現代のハワイ社会で育った人です。一方、彼に航海術を教えたマウ・ピアイルッグは、ミクロネシアの離島サタワルで生まれ、幼少の頃からカヌーで大海を渡りながら生きてきた、太古から続く身体知的な航海術を今に伝える稀有な人です。
ナイノアはマウから航海術を教わる際に、生まれたときから海と接してきたサタワルの若者たちが学ぶやり方だけでは無理だと悟ります。そこで、プラネタリウムを使って星の動きについての理解を深め、それによって自分の頭にイメージマップを作り上げていきます。
こうした論理的なアプローチと、マウから学んだ身体知的なアプローチは、ホクレア号というカヌーで大海を渡るという実践を通して、ナイノアの中で一体化していきます。本書はこのナイノアの学びの過程を描いたドキュメンタリーなのですが、僕は思わず興奮して引き込まれ、一気に読み通しました。
船や航海についての基礎知識がないと少し読みづらい箇所もあるのですが、加藤晃生さんの丁寧な訳文と訳注がそれをカバーしていますので、是非多くの人に読んでいただきたい一冊です。