ニューヨーク在住30年を超える著者によって書かれた2冊目のニューヨーク論。20世紀に書かれたニューヨーク論としては著者も前著頻繁に引用しているオランダの建築家レム・コールハースの「錯乱のニューヨーク」があるし、ル・コルビジュの「伽藍が白かったとき」もまた優れて詩的な著作である。これらはいづれも建築家の都市計画からの視点で構築された都市論であり、在住者の目線で描かれてはいのが弱点である。著者というのは、神の如き視点を得ようとし、高邁に構える。だがこの著者はその不遜な視点を唾棄し、路上生活者と同じ目線で生活をエンジョイするニューヨーカーの力強い民衆からの観察から、権力に絡め捕られることに抵抗しながら行き続ける人々のイデオロギーと新自由主義の標語の下に公権力を行使する行政権力の横暴を暴き出しながら、ニューヨークの民主的スタンスを描き出す。
中でも「ニューヨークの公共施設は、基本的に全て「疑似公共空間」である。・・・その比較的な成功例は、ニューヨーク公共図書館である。」（p,83）と指摘して、週に二度は通うという。ニューヨークの知的殿堂の魅力を分析し、公共圏のあり方の試金石として紹介している。著者の観察目線の凄さは、マンハッタンを自転車で駆け巡っていることで、そのは広くて温もりがある。150民族以上のサラダ・ボールといわれる現状を精確に踏まえて、議論を構築せんとするには、飛行機のような俯瞰的な目線は盲目なのだ。世界民衆の目線を維持し、現象を捨象し、理論構築を試みる。なんとも力強い試みが読者を励ます一方で、マンハッタンに住むマジョリティとマイノリティの相克の歴史と文化を描き出す。このリベラルな志向性こそ、ニューヨークを支える原点なのであり、ニューヨーク知識人たちが共有する財産でもある。生活者でなければ描きだせない都市論で、卓越した議論である。ニューヨークを精確に理解したい方は是非ご一読を。
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