景気不景気が循環し、階級闘争に明け暮れた19世紀の資本主義経済が、20世紀にはいると機械化による大量生産と利潤の適正な分配によって完全雇用を実現し、ガルブレイスのいう「ゆたかな社会」を実現できたのは、フォーディズムのおかげでした。
しかしチャップリンの「モダンタイムス」に見るように、フォーディズム体制においては労働は細分化され、作業員は機械に縛り付けられる。さらにブルーカラーとホワイトカラーが分離し、生産現場は官僚主義によって硬直する。
1950年代日本の自動車産業の現場では、いわゆる「カンバン方式」によってこの硬直性が改善されました。おかげで石油ショックで主要先進国の景気が低迷する中、一人日本だけは高い生産性を維持できた。それ以後世界中でこの新しい方式が注目され、今日では「リーン生産方式」と呼ばれています。
それは端的にいうなら、生産状況を現場の労働者が判断し、それをカンバンというコミュニケーションによってシステム全体にいきわたらせること。経営上層部がたてる計画に従うのではなく、現場が自主的に考えて行動すること。逆説的なことに、この発想の転換によって結果的に生産ラインは気まぐれな市場の変化に対応できるようになり、大規模工場施設で多品種少量生産を可能にしました。それゆえいわゆる「トヨティズム」はフォーディズムの限界を超えたという意味で「ポストフォーディズム」の先駆けと評価されました。
それは一見するとさらにゆたかな社会をもたらすものと思えるのですが、実際には労働者は「コミュニケーション」の名の下に、企業経営に対して自主的に参加することを求められ、しかもその功績を評価されず、企業に対してさらなる忠誠を要求され、労働者の最後のよりどころである「魂の自由」すら奪われて、あたらな隷属状態に陥っています。
1994年に発表された本書は、欧米で進行していたポストフォーディズムの負の側面をいち早く捉え、新自由主義による福祉国家の解体のもとで、今日「認知資本主義」と呼ばれる新しい労働形態がどのように形成されてきたかを原理的に考察した本です。非正規労働や不安定雇用の増加など今日の新しい社会問題を考える上では必読の書といえるでしょう。
ただし本書は体系的な研究ではなく、EU内のしかもイタリアの政治的文脈に沿って書かれているので、もとより特殊な日本社会にいる私たちにはわかりにくい箇所が少なくありません。フォーディズムと福祉国家と新自由主義について、あらかじめある程度深い理解が必要になります。
私も最初に読んだときはよく理解できず、フォーディズムについてそれなりに理解を整理したうえで読み直し、やっと理解できるようになりました。
最初に読んだだけでわからないからといって、翻訳のせいにはしないように。イタリア語はわかりませんが、読みにくいのは翻訳のせいではありません。
ただあまりにも漠然としたタイトルと、まるでハウツーもののような副題はちょっといただけません。原題は『ソックスの場所 経済の言語学的転回とその政治的帰結』なので、これではまるで判じ物のようで、読者に理解してもらえないと心配したのはわかるのですが、もうちょっとセンスのあるネーミングがほしかった。これでは安っぽく感じられて、かえってねらっている読者層を逃すように思うのですが。
とにかくタイトルにとらわれずに、時間をかけて読んでください。それだけの中身のある本です。
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現代経済の大転換―コミュニケーションが仕事になるとき 単行本 – 2009/2/24
クリスティアン マラッツィ
(著),
多賀 健太郎
(翻訳)
働くことの意味はどのようにして変わったのか。
世界規模で激変する社会の中で労働は大きくそのかたちを変えた。コミュニケーションと労働の結びつきが、働くという概念を劇的に変え、すべての労働が感情労働化し、非正規雇用化することを喝破した画期的名著。
世界規模で激変する社会の中で労働は大きくそのかたちを変えた。コミュニケーションと労働の結びつきが、働くという概念を劇的に変え、すべての労働が感情労働化し、非正規雇用化することを喝破した画期的名著。
- 本の長さ204ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2009/2/24
- ISBN-104791764595
- ISBN-13978-4791764594
商品の説明
著者について
[著者] クリスティアン・マラッツィ(Christian Marazzi)
1951年、スイス生まれ。パドヴァ大学政治学科卒。ロンドン大学経済学スクールに留学し、ロンドン市立大学経済学科で博士号取得。現在、スイス=イタリア専門大学(SUPSI)の社会経済研究所の教授。『そして金は行く 金融市場の国外流出と変革』[E il denaro va : Esodo e rivoluzione dei mercati finanziari,1998]など著書多数。
1951年、スイス生まれ。パドヴァ大学政治学科卒。ロンドン大学経済学スクールに留学し、ロンドン市立大学経済学科で博士号取得。現在、スイス=イタリア専門大学(SUPSI)の社会経済研究所の教授。『そして金は行く 金融市場の国外流出と変革』[E il denaro va : Esodo e rivoluzione dei mercati finanziari,1998]など著書多数。
登録情報
- 出版社 : 青土社 (2009/2/24)
- 発売日 : 2009/2/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 204ページ
- ISBN-10 : 4791764595
- ISBN-13 : 978-4791764594
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,065,166位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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