最近続々と邦訳が出ているバウマンの著書だが、なかには他の著書と一部重複している個所などもあって、今後の新しい展開は期待薄の感もあった。
だが本書には見事にその予想を裏切られた。読み始めるとなかなかの充実ぶりで読み応え十分であり、80歳をはるかに超えるこの老思想家の健在ぶりや気迫、タフネスぶりをみせつけられた思いである。
とくに「近代のアテネに古代エルサレムの疑問への回答を求める」と「悪の自然誌」は多少難解なものの、問いかけの切実さと思索の深さが感じられた。
前者は「ヨブ記」に登場する恣意的で専制を極める一神教の神への疑問符と、スターリン体制にみられた同じような恣意性や、現代の市場原理主義やグローバル化が引き起こしている不確実性・不安定性への異議申し立てが重層的に配置されていて、示唆に富んでいる。
後者はバウマンの名著「近代とホロコースト」を展開する形で（と「訳者あとがき」でも指摘されているが）、現代の悪の諸相とそれを助長する科学・技術の暴走、その歯止めとなるはずの人間の倫理感の沈黙や抹殺に言及している。現代の悪とは何か、倫理とは何かを厳しく問う内容になっている。
また本書のタイトル「コラテラル・ダメージ（巻き添え被害）」は、昨今展開されているイスラエル軍のガザ侵攻に伴う犠牲者や、地球上の各所で起きている同様の事象の犠牲者がいずれも子供や女性などの弱者である現状を考えると、非常に説明力と喚起力に富んだ概念なので、さらに鍛え上げ磨き上げていって欲しい。
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