本書の一番の魅力は患者となる主人公からの視点だろう。
精神科医やソーシャルワーカーなどが、精神障害について語る本は腐るほどあるのに対して、当事者そのものが感じた日常を綴ったものは存在こそするが、やはり未だに少数派だと思う。
このノン・フィクションでは、主に精神科病棟に入院することになったスザンナとその仲間たちの青春群像劇のようなものだ。
精神病棟といえば様々な想像が膨らむが、読むうちに彼女達がやらかす事柄や会話には鬱々としたものはない。
むしろ閉鎖的な空間に若者が集められてしまい、その環境に文句を言ったり退屈しのぎに誰かをからかたり、タバコを吸ってナースを煽ったりする行動は、その辺にいるヤンチャな若者と大差無い。
それだけでなく彼女達は、見えない場所に食い込んだトラウマを抱える共通点から、協力しあったり、あるいは慰めあったりしている。
本書を読むと「精神科」とは、実に微妙な立場の医療機関だな、と思う。
よく「内科や外科と同じ」なんて言われるが、あまり適切だとは思えない。
たいてい患者は見えない場所に傷があり、そのトラウマは心にあったり、記憶にあったりもする。そして一見なんてことない「普通」という言葉に傷つきやすい。
その原因の大半は「精神科」に行き「病名または障害」という名前(レッテル)を張られる事により、そこから差別的なものが生じてしまう二次被害があるからだろう。
最近になり、ようやく世の中に精神障害の理解を促す傾向があるが、まだまだマイノリティになりやすくもある。
例えを言えば「私は内科で風邪といわれた」と同じテンションで、近隣の人に「精神科で精神障害だっていわれた」といえるだろうか?という明らかなる温度差だ。
細かい事だが、日常はそういう細かい事柄で成り立っていると考えると、精神患者の心理は切実になりやすい。
一般的には「当たり前」や「とるにたらない」ということでも、傷だらけになることだってあるし、死に至らしめるほど苦しい思いもする。
臨床心理には限界がある。と、どこかで聞いたことがある。だからといって専門家不在なのも良くはない。
人の心とはそれぐらい繊細で、時には荒れ狂うほどの威力を持ち、当事者でさえ自分を恐れるほど持て余すことがあるからだ。
かといってマスメディアの真偽も理解もないままに、センセーショナルな部分のみの報道をして誤解を生むのも、また世間との壁や溝を造る要因でもある。
精神科や専門家を全否定はしない。
彼らが理解者となりうる場合も確かにあるからだ。
だが。やはり未だに身近な病という認識は、古い時代から日本には浸透しているようだ。普通外来と同等に扱えない土台が既に蔓延しつくしている国では、精神科やその患者は一般的に、マイノリティとしての居場所しか与えてもらえない現状も現実も改善しにくいだろう。
この本の凄いところは、主人公のスザンナが上記の微妙で表現しづらい世界を、実に見事に上手く書き上げている視点だ。
笑っても泣いてもカルテに書かれ、日々の生活やプライバシーをえぐるように話す事で、病名や障害されてしまう精神科の真実が、正にそのまま綴られているからだ。
世間との接点や繋がりは「自分達(精神患者)が隔離」されているから成立するという、当事者でしか解らない独特な感情まで表現してくれている。
この本を手にした世界を見たときに、目撃するのはニュースになるような猟奇的なものではなく、むしろ精神病棟でなくとも誰でも見たことのある若者達でしかないと気づく。
確かに彼女達は背負うものが大きいが、世間の安全の為に、閉じ込めてまで隔離しなければならない存在だろうが。
これは傷の度合いで、一人の人生の世界を決めてしまう制度を造っている今の社会体制に是非とも読んでほしい本だ。
人との違いに名前をつける前に、まず人間同士というのは違いはあれど大差にはならないことを知るには良い本だからだ。
文章や構成が時折読みにくいかもしれないが、それでも伝わるものがある。
それはスザンナや彼女らは人間であると同時に、自分と同じ人だからだ。
守られる事とプライバシーは引き換え。
そんな世界しか与えられないスザンナの世界は、精神患者からの第二の当事者として、核心的な真実を語ってくれているのは間違いない。この本は、そういう意味でも貴重な本ともいえるかもしれない。
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思春期病棟の少女たち ウェア&シューズ – 1994/6/15
私は18歳で精神病棟に入れられた──。今は作家である著者が、病棟で出会った少女たちの素顔をいきいきと描く。狂気と正気の危うい境界を捉えた米ベストセラー。
- 本の長さ215ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日1994/6/15
- ISBN-104794205562
- ISBN-13978-4794205568
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登録情報
- 出版社 : 草思社 (1994/6/15)
- 発売日 : 1994/6/15
- 言語 : 日本語
- ウェア&シューズ : 215ページ
- ISBN-10 : 4794205562
- ISBN-13 : 978-4794205568
- Amazon 売れ筋ランキング: - 524,995位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 238位精神医学ノンフィクション
- - 4,883位英米文学研究
- - 20,489位心理学 (本)
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2018年7月13日に日本でレビュー済み
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2018年9月5日に日本でレビュー済み
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映画とはちがいます。でも,こちらの方が,精神病棟について学ぶには,適していると思います。将来,精神科の業務に携わる方にお薦めです。“電気ショック療法”について,過去のものと思っている方もいるかも知れません。が,その治療効果は,その効果を生み出すメカニズムがはっきりしていないのにもかかわらず,絶大だそうです(学部の教授:精神科医)。
よく「クワイエットルームにようこそ」がこの作品の「焼き直し」のように語られていますが,全く別物だと,映画も原作も確認した私は思います。
よく「クワイエットルームにようこそ」がこの作品の「焼き直し」のように語られていますが,全く別物だと,映画も原作も確認した私は思います。
2013年10月17日に日本でレビュー済み
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著者が精神病棟に入ってからの体験を書いた随筆。
表現力が豊かで読んでいて面白い。
表現力が豊かで読んでいて面白い。
2014年8月24日に日本でレビュー済み
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『17歳のカルテ』の原作ですね。
私は映画化される少し前に読みました。
単行本は読みすぎてボロボロになってしまったので今回は文庫を購入しました。
自分がコントロールできない、慢性的に鬱状態が続き、衝動的な行動ばかりしていた高校生の頃に読んだのが最初です。
心療内科に行かされた帰りに見つけた本です。
自分が普通なのか、それともいわゆる『おかしな』人間なのか考えていた頃に出会いました。
病棟で出会う少女たち。
やっぱり普通ではない。けれど、望んでこうなったわけじゃない。
筆者であるスザンナ・ケイセンの筆力のせいなのか、
重々しいテーマながらも軽やかに淡々と、日々が綴られています。
女の子たちは皆それぞれに魅力的ですが、とりわけリサのぎらぎらした感じは印象的ですね。
しばらくしてから映画を見たのですが、アンジェリーナ・ジョリーはまさしくリサそのものであり、姿かたちや振舞い、目付きまでもがリサでしたね。
心に迷いや悲しみを慢性的に抱える方に読んでいただきたいです。
本書は治療のメソッドの本ではありませんが、これほどまでに気持ちを代弁してくれる作品はないと思います。
そういった意味では一種のセラピーになる本です。
私は映画化される少し前に読みました。
単行本は読みすぎてボロボロになってしまったので今回は文庫を購入しました。
自分がコントロールできない、慢性的に鬱状態が続き、衝動的な行動ばかりしていた高校生の頃に読んだのが最初です。
心療内科に行かされた帰りに見つけた本です。
自分が普通なのか、それともいわゆる『おかしな』人間なのか考えていた頃に出会いました。
病棟で出会う少女たち。
やっぱり普通ではない。けれど、望んでこうなったわけじゃない。
筆者であるスザンナ・ケイセンの筆力のせいなのか、
重々しいテーマながらも軽やかに淡々と、日々が綴られています。
女の子たちは皆それぞれに魅力的ですが、とりわけリサのぎらぎらした感じは印象的ですね。
しばらくしてから映画を見たのですが、アンジェリーナ・ジョリーはまさしくリサそのものであり、姿かたちや振舞い、目付きまでもがリサでしたね。
心に迷いや悲しみを慢性的に抱える方に読んでいただきたいです。
本書は治療のメソッドの本ではありませんが、これほどまでに気持ちを代弁してくれる作品はないと思います。
そういった意味では一種のセラピーになる本です。
2017年10月22日に日本でレビュー済み
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映画『17歳のカルテ』の原作本ですね。DVDと一緒に購入し、DVDを見てから本の方を読みました。DVDで分かり難かった部分がよく分かりました。精神病って結局は自分で直さなければならないのですね。病院や薬はそれをサポートするためのもの。本人がどこかで治したいと思わないと治らないのでしょうね。そんな感想を持ちました。巻末の「あとがき」でへ~~な~るほどでしたけど。
2017年5月3日に日本でレビュー済み
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時代もあるのでしょうが、日本の古い精神科病院と比較すると、精神の自由度が高いように感じました。思春期に精神を病むということと発達課題や環境との関連について、深く考えさせられました。映画(DVD)も見てみようかと思います。
2016年11月13日に日本でレビュー済み
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10年前に映画の方を見ていて10年たってあの映画がノンフィクションを元につくられていたものだと知りました。あの時、10代の時の不安定さやどうにもならない気持ちを上手く現した作品だと思います。
2012年7月14日に日本でレビュー済み
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今、躁鬱と強迫障害で治療中の私が映画を観るのと、健康だった頃観たときとだいぶ内容の受け止め方が違った。薬の事や彼女達の深い闇は、自分にも共通していると感じた。だからと言って、この映画で救われた感はゼロ。『こんな病院だったら入ってもいいかも』とは思った。でも、本当の作家の伝えたかった内容をもっと知りたくなり、本を購入。映画にはアレンジを加えてドラマチックにしているのが理解出来た。口に出来ない感情には私が共感できる言葉が並んでいた。本の方がリアリティがあり、時代的にちょっと治療が現在と違って過激な感じもしたけど、いつの時代もちょっと世の中と交わる事が難しい人達がいるのは変わらないって事。それを知るだけでも読む価値があるかなぁ。表現力が(訳し方?)が独特の世界観で語っていて、健康の人には分かり辛いかも。