凄まじい数の人間が餓死したこの「大躍進」。耳目を引く問題であるだけに、
その内容の正確性が問題となるが、本書は一番資料が充実しているのではないか
と思われる。この大躍進期を描写解説する本としては、「毛沢東秘録」「周恩来
秘録」、「大躍進秘録」、「ハングリーゴースト」などがあり、一応目を通した
が、資料の多さとその資料の質では、他書の追随を許さない。
本書は2010年に出版されたものを邦訳したもの。「大躍進」から60
年以上も経つが、なぜこの時期の出版なのか説明がある。「詳細な、恐ろしい記
録は中国共産党中央と地方の文書館(当案館 当は木偏に当 以下当案館)に存
在していた。…この数年のあいだに静かな革命が起きた。膨大な、貴重な宝物が
つぎつぎと機密指定を解除された。…2005年から2009年にかけて、私は
中国全土で数多くの資料を調べた」。これがディケーター教授の調査であり、こ
れまでの書籍のような、伝聞等の二次資料からの推測ではなく、かなり精度の高
い資料を駆使した書であるといえる。
「党の記録は普通…構内に収蔵されている…数十年昔の党書記が走り書きした
一枚の紙きれから几帳面にタイプされた指導部の秘密会議の議事録までのすべて
を詰めこんだホルダーが積み重ねている」ことによって、教授は当時の資料を収
集し分析する。
「本書は…中国各地の都市や件から数年間にわたって収集した千点を優に超え
る資料に基づいて書かれている」。「機密報告書、党指導部部会の詳細な議事録、
党指導部の重要な講話、演説、発言、調査、供述、聞き取り調査、一般報告書」、
考え得るありとあらゆる一次資料を分析し、丁寧に書かれたのが本書である。惜
しむらくは、当案所の「非公開」の資料にはアクセスできなかったが、これはど
うしようもない。
「収容所に送られ、殺された人が250万人…餓死者を含めての犠牲者の総数
が4500万人に達していた」ことを明らかにしている。
本書の資料等について。
主要参考文献、アメリカや中国本土以外は八つの外国(ロシア、ドイツ、イギリ
ス、赤十字等)にある官公庁に収蔵の文献、中国国内の当案館は、各地の30箇
所近を直接訪問し資料を集めている。
参考書籍(出版物)は、130以上(うち30ほどが中国語書籍)、原注(文
献資料の提示)は何と1300以上に及ぶ。これだけの資料を読み込み分析して
いて、他の書の追随を許さない。教授は他の「大躍進期」関連の書についても、
その資料収集の不十分さを指摘し、「一度しか(その地方に)訪れて」おらず正
確ではないと批判する。
1958年から1962年の大躍進はまさしく、「中国は地獄へと落ちてい
った」。毛沢東の大躍進政策によって、「15年でイギリスを追いこす」という
誇大妄想的な、実現不可能な目的を遂げるために、毛沢東はありとあらゆる指示
を出している。ソ連モデルではなく「工業と農業の『二歩足で歩く』道を歩み始
めた」。農民はバラ色のユートピアとして全く現実性のない「人民公社」に組織
化され(毛沢東はのちのこれを農民が「自発的」に行ったと強弁する。「毛沢東
の秘められた講話」に詳しい)、全てが集団化された。「集団化によって誕生し
た共同食堂で各人の働きぶりに応じて供給されるわずかな食料は、党が発するあ
らゆる指令に人々を従わせる武器とな」り、「大躍進という名の実権は、数千万
の命を奪い、この国がいまだかつて経験したことのない悲劇的な結末をもたらし
た」。
教授はこう述べた後に、今までの研究の不十分性を指摘している。「例えば、
総死者数について言えば、研究者たちはこれまで、1953年、1964年、1
982年の人口調査結果を含めて公式の人口総計から推定するしかなかった。だ
が…報告書や…機密報告書は、あの大惨劇の規模が従来の推定よりはるかに大き
く(報告されている)これまでの集計数値がいかに不十分であるかということを
物語っている」。そして「少なくとも4500万人が死を遂げた」と推定する。
さらに大躍進期の暴力についてもこう言う。「1958年から1962年のあ
いだに、犠牲者総数のおよそ6パーセントから8パーセント、…少なくとも25
0万人が拷問死あるいは…処刑された事実を推察することができる」。
鉄鋼生産量を上げるために、ヤカンや鍋まで鋳つぶされ、家畜も急減少した。
粗悪な鉄鋼を生産(しれも素人が作った高炉で)したため、生産鉄鋼の多くは無
駄となり、物資は計画性のなさゆえに放置され、農産物は腐敗した。ダム建設の
ための自然破壊、洪水、森林の急激な減少、全てがこの時期に起きている。
毛沢東は「彼を批判した人々を糾弾し、党に不可欠なリーダーとしての地位を
維持しようとした。そしてその大躍進の失敗後に、権力を永続化するための「プ
ロレタリア文化大革命」を1966年から始める。大躍進の大部分が毛沢東の指
示による失政としか考えられない。全ての分野で卓越する(全く科学的根拠のな
い「密栽培」等の指示)指導者として恣意的な政策を断行し,その失敗には全く
責任をとらなかった。(大躍進政策について、直接的ではないが周恩来が毛沢東
に言い放った言葉があったように記憶している。)
「なにより顕著だったのは人命の損失に無頓着だったこと」、これもまた「毛沢
東の秘められた講話」と一致する。教授は、劉少奇と周恩来は毛沢東のいうまま
に、毛沢東への支持を取り付けるために、共産党幹部に働きかけていた、として
厳しく周恩来と劉少奇の責任を明らかにしている。「繰り人形」的存在であって
もその責任は負わなくてはならない。
教授はこれらの事実を叙述するに、当案館の資料の正確性にも限界があること
を認めている。「われわれは…国(中国当局)のプリズムを通して見るしかない」
のであるから。しかし教授は当案館の資料がいつの間にか民間に流れ、中国の古
書店に流れた資料すら収集し分析する。まさしく「研究書」という名にふさわし
い。
また蒋介石については「アメリカは…彼を信用していなかった」、「中国の当
案所の方がはるかに信頼性は高いために、本書では台湾の資料は一切使っていな
い」。これも見識であり、利用が極めて簡単な台湾の資料を排除している。これ
も大きく頷けるところ。
「蒋介石秘録」という名の「蒋介石自伝」のあまりな書き方(誇張、矮小化、自
己宣伝、間違った思い込み、意図的な事実無視)を思えば、この判断も当を得て
いると思われる。
さらに中国人研究者であっても、資料を十分に収集せずにかなり偏った資料で
のみ大躍進を記述している研究者をきちんと批判している。ただ、ロデリック・
マックファーカー(マクファーカー)を推薦しているのは意外だった。マックフ
ァカーは、おそらく中国語は堪能でなく(原文を読めない)、資料収集も人任せ
で自分は注釈をつけることしかしておらず(資料に直接触れたのかがわざと曖昧
に記述している。肝腎なところで、「~が訳出」「~がまとめた」という意味の
表現が多々ある。マックファーカーは多くの資料を提示しているが、信頼性のな
い資料が多く、資料の援用もかなりいい加減。時には、eメール(それもマック
ファーカーの友人)を引用しているところさえあり、多くはイギリスのTVやラ
ジオ、新聞記事が「資料」として麗々しく示されている。よって、私自身はマッ
クファーカーを信用できないと考えている)。このような著作を教授が推薦して
いるのは驚きだった。ただ推薦しているのは、邦訳され2書ではなく、たまだ邦
訳がない書、「文化大革命の起源」であった。欧米ではマックファーカーはそれ
なりに信頼されているのだろうか。
本書では「北京の中南海の回廊で起きていたことと、一般庶民の日々の体験を
つなぎ合わせ」リアルに現実を描く。大躍進期には、党の指示とそれに反発する
かなり多くの庶民の行動がある。生き残るために「取り入る、隠す、盗む…ごま
かす」ことがおこなわれていた。それは英雄的行為などでなく、まさしく自分が
生き残るための選択であり、ほぼ全ての階層の人間がこれをおこなっていた。こ
の事実の重さ。「訳者あとがき」によれば、中国在住の学者も今では、3000
万人を超える死者を推計しているという。
教授は(私の敬愛する作家)プリーモ・レーヴィを引き合いに出し、アウシュ
ビッツでの体験と重ね合わせる。「大惨劇のさいの人間関係の複雑さ」を本書は
描く。
スターリン、蒋介石と毛沢東の関係についてもよくまとめられている。スター
リンは常に国民党とつながり、中国とソ連との奇妙なよそよそしさの原因となっ
ているのであろう。二次大戦、国共内戦、朝鮮戦争に至るまでの一連の流れもわ
かりやすい。「実務家」とされる周恩来への暗示的表現=「無限に続く執行猶予
の中で周は忠誠の証として精力的に大躍進を進めていく」
大躍進期の流れ。
1956 知識人の支持を手に入れるために、毛沢東は「百花斉放」運動を開始
1957 百花斉放は「党支配の正当性」まで批判され、毛沢東は50万人を「右
派」として弾圧、強制労働においやる(学生 知識人)
「中国は15年以内にイギリスを追い越す」と公言。百花斉放は結局失
敗。
1958 毛沢東は自らの政策に反対する幹部(周恩来含む)を攻撃。
「大いに意気込み、高い目標を目指し、多く、早く、立派に、無駄なく
社会主義を建設する」路線を打ち出す。
「大躍進」の開始(その端緒となるものは1957末)。党内反対派を
除名。「人民公社」が誕生。集団化を目指すがほとんどうまくいかず、
鉄鋼生産も失敗。毛沢東はさらに集団化を進める。飢饉が広がる。
1959 毛沢東は古参幹部を攻撃。飢饉の中で政策をさらに急進化。「大躍進
批判」をする幹部を攻撃、「反党集団」として弾圧。この年に400
0万人以上が死亡
1960 中ソ関係のさらなる悪化。人民公社の権威をゆるめる。
1961 党幹部の全国視察。「大躍進」は大きく後退。
1962 党拡大会議で劉少奇が「飢饉は人災」と言及。毛沢東の孤立化。
毛沢東はこの後、奪権すべく 1966に「プロレタリア文化大革命」発動。
なんと無残な歴史か。本書のようなきちんとした「研究書」に敬意を表します。
もちろん ☆☆☆☆☆
¥3,080¥3,080 税込
ポイント: 31pt
(1%)
配送料 ¥480 6月24日-28日にお届け
発送元: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店 販売者: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
¥3,080¥3,080 税込
ポイント: 31pt
(1%)
配送料 ¥480 6月24日-28日にお届け
発送元: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
販売者: 現在発送にお時間を頂戴しております。創業15年の信頼と実績。采文堂書店
¥1,210¥1,210 税込
ポイント: 12pt
(1%)
配送料 ¥330 6月16日-17日にお届け
発送元: 【公式】ブックオフ 販売者: 【公式】ブックオフ
¥1,210¥1,210 税込
ポイント: 12pt
(1%)
配送料 ¥330 6月16日-17日にお届け
発送元: 【公式】ブックオフ
販売者: 【公式】ブックオフ
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災 1958-1962 単行本 – 2011/7/23
フランク・ディケーター
(著),
中川治子
(翻訳)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥3,080","priceAmount":3080.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"3,080","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"qjdNEYf%2F649EUs2lx1Tn4CIvoC26OPwVMhBkUdISlnVtfc3zL2siyrKy6p0VGfn2FH8vKLV56%2BZLdV2uQBbg0qqRb%2F1TtH0zDdnbJOvU82ANXgs8PjwbDwaHGNMHua2B4YiLyNR0UCqnnHyVw1%2FF2ZgBK1tbvZnDv7t3IsyI9JkfjmY4WuaNaA%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥1,210","priceAmount":1210.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"1,210","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"qjdNEYf%2F649EUs2lx1Tn4CIvoC26OPwVy07wgzBIWGJ%2FMp36otdbxAN9%2FuNSPZXXpXOW27wEG%2BdlJtbJjG87623CovdD8Tnn5DCzxR%2BKAgWnbaYqLZpwnFh1K%2Fcl%2FfjGNQEuf6tUI4hCQs5bR4Fiwgscxzp%2FlRy%2F9%2F7tTuBYFpg%2F7eymNz6D%2F%2FnxQq6TSkPp","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
「15年以内にイギリスを追い越す」と宣言した毛沢東が始めた「大躍進」政策は、人肉食すら発生した人類史上まれに見る大飢饉と産業・インフラ・環境の大破壊をもたらした。香港大学人文学教授が中国各地の公文書館を精査。同館所蔵の未公開資料と体験者の証言から「大躍進」期の死者数を4500万(大半が餓死者。うち250万人が拷問死、裁判なしの処刑死)にのぼると算出。中国共産党最大のタブーの全貌を明らかにし、北京が震撼した衝撃の書!
- 本の長さ480ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日2011/7/23
- 寸法3 x 14 x 19 cm
- ISBN-104794218400
- ISBN-13978-4794218407
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
出版社からのコメント
『エコノミスト』『フィナンシャル・タイムズ』の〝ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー2010〟に選出!された問題作です。4500万人のホロコーストと呼ばれる空前絶後の人災の全貌を明らかにした本です。
著者について
香港大学人文学部教授。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院教授(中国現代史)を休職中。部外秘だった国公文書館所蔵の資料を初めて閲覧し本書を執筆(本書刊行後当局によって再び閲覧禁止となる)。現代中国史の見方に変更を迫る7冊の著作がある。香港在住。
登録情報
- 出版社 : 草思社 (2011/7/23)
- 発売日 : 2011/7/23
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 480ページ
- ISBN-10 : 4794218400
- ISBN-13 : 978-4794218407
- 寸法 : 3 x 14 x 19 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 277,773位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 35,419位社会・政治 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.1つ
5つのうち4.1つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
45グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2022年6月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2024年1月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
正しさの体系としてのイデオロギー(共産主義)、人間の業である権力闘争
誤った判断とシステム、それが組み合わさったときどれほど恐ろしいことが起きるかという
実例がここにあります。読んでいてスターリンの招き寄せたホロドモールと呼ばれる
ウクライナの人工飢餓を思い出しました。
毛沢東には中国の100年来の混乱を治めた偉人という評価もあるでしょうが
私にはヒトラー、スターリンと並ぶ最悪のリーダーの一人と思えます。
政治家は歴史の法廷に立つということです。
誤った判断とシステム、それが組み合わさったときどれほど恐ろしいことが起きるかという
実例がここにあります。読んでいてスターリンの招き寄せたホロドモールと呼ばれる
ウクライナの人工飢餓を思い出しました。
毛沢東には中国の100年来の混乱を治めた偉人という評価もあるでしょうが
私にはヒトラー、スターリンと並ぶ最悪のリーダーの一人と思えます。
政治家は歴史の法廷に立つということです。
2024年3月31日に日本でレビュー済み
社会主義という国家、もしくは共産主義という理想はなぜうまくいかないのか。
それは、「みんなのために理想の社会をつくる」には、「誰かがみんなにいう事を聞かせなければならない」から、という点に尽きる。
真の平等社会を生み出すためには、その理想を実現するための何らかの組織が必要である。
そして、その組織はたとえはじめのうちは小さくとも、理想を現実のものとするには、最低でも一つの国を覆うぐらいには、そして究極的には世界の全てを覆うぐらいには、大きくならないといけない。
となると、その組織はより大きな勢力を志向するし、とうぜんそのトップに立つ人間には、とんでもない権力が生じることになる。
つまり、平等化の過程そのものにおいて、極端な権力の集中が起こるのである。
この矛盾は、共産主義という理想を創案した、またそれに共鳴した人間が組織の代表に就いていたような時代は表面化しない。
しかし、世代交代が進み、後継者が跡目を巡って争うような局面になると明らかになる。
露骨な上昇志向を持った「魑魅魍魎」の類が、組織の階梯を駆け上がってくるからだ。
本書の毛沢東は、その魑魅魍魎の中でも近代世界史上最強クラスの人物である。
要は、組織のボス、群れのリーダーとしては、人類最強クラスだ。
しかし、問題なのは、そうした人間は組織内で勝ち上がり、自分を脅かしそうなライバルを蹴落とすことは誰よりも得意かも知れないだが、肝心の「共産主義」という理想を実現することには、ほとんど無頓着だということである。
だからこそ、本書によれば「4500万人」という途方もない犠牲者を出すような政策を実行しても、本人はついにその力を失わなかったのである。
国内の人民が飢饉で苦しむ中、国家の大躍進を他国に見せつけるためだけに穀物を輸出するという人間の精神構造は、おそらく普通ではない。
そして、そんな中でも周囲の側近たちは進んでその普通ではない人間に取り入ろうと必死だったというから、身の毛もよだつ思いである。
そう考えると、人間が権力を獲得するいかなる政治制度よりも、たとえディストピア的であっても重要な決断はAIなどに全て「外注」してしまった方がよほど健全なのだろうか。
それは、「みんなのために理想の社会をつくる」には、「誰かがみんなにいう事を聞かせなければならない」から、という点に尽きる。
真の平等社会を生み出すためには、その理想を実現するための何らかの組織が必要である。
そして、その組織はたとえはじめのうちは小さくとも、理想を現実のものとするには、最低でも一つの国を覆うぐらいには、そして究極的には世界の全てを覆うぐらいには、大きくならないといけない。
となると、その組織はより大きな勢力を志向するし、とうぜんそのトップに立つ人間には、とんでもない権力が生じることになる。
つまり、平等化の過程そのものにおいて、極端な権力の集中が起こるのである。
この矛盾は、共産主義という理想を創案した、またそれに共鳴した人間が組織の代表に就いていたような時代は表面化しない。
しかし、世代交代が進み、後継者が跡目を巡って争うような局面になると明らかになる。
露骨な上昇志向を持った「魑魅魍魎」の類が、組織の階梯を駆け上がってくるからだ。
本書の毛沢東は、その魑魅魍魎の中でも近代世界史上最強クラスの人物である。
要は、組織のボス、群れのリーダーとしては、人類最強クラスだ。
しかし、問題なのは、そうした人間は組織内で勝ち上がり、自分を脅かしそうなライバルを蹴落とすことは誰よりも得意かも知れないだが、肝心の「共産主義」という理想を実現することには、ほとんど無頓着だということである。
だからこそ、本書によれば「4500万人」という途方もない犠牲者を出すような政策を実行しても、本人はついにその力を失わなかったのである。
国内の人民が飢饉で苦しむ中、国家の大躍進を他国に見せつけるためだけに穀物を輸出するという人間の精神構造は、おそらく普通ではない。
そして、そんな中でも周囲の側近たちは進んでその普通ではない人間に取り入ろうと必死だったというから、身の毛もよだつ思いである。
そう考えると、人間が権力を獲得するいかなる政治制度よりも、たとえディストピア的であっても重要な決断はAIなどに全て「外注」してしまった方がよほど健全なのだろうか。
2016年7月16日に日本でレビュー済み
大躍進運動のきっかけとなる社会的背景から運動が熱狂に陥り飢餓が引き起こされたメカニズムを1950年ころから時系列に沿って論じています。
大量虐殺の理由は差別等による憎しみがあると漠然と考えていましたが、本書から見てとれるそれは保身の一言に尽きる点が衝撃でした。
毛沢東から末端の人民まで、直上の上司に評価されることだけが重要と考えられているようで、ラインのどこかで誤った判断が下されても以下全てが盲従することにより甚大な被害が発生する様子がこれでもかと述べられています。少数の心ある人々がそういった社会の風潮の前に次々と倒れていく姿も悲劇的でした。この過ちは中国だけでなくピラミット型の組織ではどこでも起こりうるものだと感じ、恐ろしく思いました。
大量虐殺の理由は差別等による憎しみがあると漠然と考えていましたが、本書から見てとれるそれは保身の一言に尽きる点が衝撃でした。
毛沢東から末端の人民まで、直上の上司に評価されることだけが重要と考えられているようで、ラインのどこかで誤った判断が下されても以下全てが盲従することにより甚大な被害が発生する様子がこれでもかと述べられています。少数の心ある人々がそういった社会の風潮の前に次々と倒れていく姿も悲劇的でした。この過ちは中国だけでなくピラミット型の組織ではどこでも起こりうるものだと感じ、恐ろしく思いました。
2012年10月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
尖閣問題、米中韓の各国の立位置を理解するのには、このような史実をまとめた本がもっとあっても良いと思う。冷静な判断には欠かせない資料が必要と思う。
2023年10月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
スメドレーの、中国の歌声や、スノーの中国の赤い星など読みましたが、毛沢東の様々面面がわかる本だと思います。1960年代の偏った見方ではなく、毛沢東に関するいろいろな本を読みましたがこれは、ドキュメンタリーで読み応えがあります。
2019年10月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本の端が曲がっていた。新品を買ってこれではたまらない
2023年7月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
高い理想は、権力闘争の隠れシェルターにはなるが、現実とのギャップを拡大させ、秘密主義と権力の孤立化を招く例と受け取る。
土地の国有化理念も、成功した例は古来よりなく、急激な実施は急速に耕作放棄と飢餓につながる。
本書は人中心の記述であるが、このような流れが良く読み取れる。
土地の国有化理念も、成功した例は古来よりなく、急激な実施は急速に耕作放棄と飢餓につながる。
本書は人中心の記述であるが、このような流れが良く読み取れる。