読み応えたっぷりの本でした。本書はチューリングテストに、人間として参加した人の体験録です。そもそもチューリングテストに人間の参加者がいることもしらず、そこが興味深かったです。チューリングテストとは、コンピュータが自然な会話を人間とすることで、あたかも自分が人間であるかのように審査員(人間)を騙せるか試すテストです。そこで最も審査員を騙せたコンピュータ(AI)がローブナー賞を取るわけですが、それと同時に、人間も何人か参加していて、審査員と画面上で会話します。審査員は相手がコンピュータかもしれないと疑いながら会話をするのですが、そこで自分が本当に人間であるかを審査員に信じさせた人が、「最も人間らしい人間賞」を受賞する、というわけです(そしてこの著者はこの賞を受賞した)。
本書で気になった記述を以下にまとめます。人間らしいとは何か。またそれ以外にも重要なキーワードだと私が思ったものです。本書を読んで最も強く感じたのは、これからの人間は、人間らしいことが求められること、それはこれまで人間が「機械的な」行動を求められてきたことへの反動であり、私は総論としてまっとうな良い社会になるのではないかという印象を持ちました(あまりに楽観的すぎるかもしれませんが、私はそう感じました)。
・どのような自我でもいいので1つの自我でいること(p.58):出来の悪いチャットボットと会話をすると、相手が1つの自我ではないという感覚になる。複数人としゃべっている感覚。
・感情は優れた意思決定を行うために不可欠で、その根本をなす(p.115)
・最も人間らしい感情とは、地衣類のようにコンピュータと生物が融合した状態から生まれる(p135):つまり脳の左半球(コンピュータ的)と右半球(感情的)の両方が融合した存在こそ人間らしい。
・人間らしいとはチェス棋士のように「定跡から外れる」ことができるかにかかっている(p.187)
・バートランド・ラッセルは「子供だけでなく大人にも遊びが必要だ。つまり何の目的もなく活動する期間を持たなければならない」と言った。(p.263)
・ハーバート・サイモンは目的の最適化/最大化に代わる言葉として「満足化(satisficing)」(満たすsatisfying)+(足りるsufficing)という言葉を作った。(p.281)
・「7-38-55のルール」。相手と話すときに相手に伝わる内容の55%がボディランゲージ、38%が口調によるもので、選んで言葉によって伝わるのはわずか7%。
・ジョージ・オーウェルは「決まり文句を繰り返す話し手は少しずつ機械に近づいている」と述べている。人間は新しい意味を伝えるために複雑な表現を新たに作り出すことができる。(p.367)
・言葉は常に死を迎え、常に誕生している。言葉は決して身を落ち着けず、安定せず、平衡に達しない(p.376)。
・情報量を測ることは予想外(サプライザル)の度合いを測ること(p.402)。
・助言のエントロピーが最も高い人に相談せよ(p.431)。→つまり反応や回答を一番予測できない友人や同僚、相談相手にその問いをぶつけて見よ、という意味。
・小説が映画よりも「情報量」が多いと考えられている理由は、シーンのイメージや舞台装置を読み手に託しているからだ(p.454)。
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機械より人間らしくなれるか?: AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる 単行本 – 2012/5/24
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AIが人間らしさを競うチューリングテスト大会に人間代表として参加、勝利を誓う著者。
でも勝つにはどうすれば…?
人間を見る目が変わる科学ノンフィクション。
でも勝つにはどうすれば…?
人間を見る目が変わる科学ノンフィクション。
- 本の長さ413ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日2012/5/24
- 寸法13.8 x 2.9 x 19.4 cm
- ISBN-104794219008
- ISBN-13978-4794219008
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商品の説明
出版社からのコメント
著者ブライアン・クリスチャンはコンピュータ科学と哲学、
詩の芸術学でそれぞれ学位を取得した科学ジャーナリスト。
広範な知識と取材から得た洞察には、人間を見る目を変える
強い力があります。
本書は「人間らしさ」とはなにか、生きているとはどういうことなのか
という根源的な問いに迫る、希有な科学ノンフィクションとなりました。
といっても、科学の基礎知識はまったく必要なし。
すべての「人間」に読んでいただきたい一冊です。
詩の芸術学でそれぞれ学位を取得した科学ジャーナリスト。
広範な知識と取材から得た洞察には、人間を見る目を変える
強い力があります。
本書は「人間らしさ」とはなにか、生きているとはどういうことなのか
という根源的な問いに迫る、希有な科学ノンフィクションとなりました。
といっても、科学の基礎知識はまったく必要なし。
すべての「人間」に読んでいただきたい一冊です。
著者について
ブラウン大学でコンピュータサイエンスと哲学の二重学位を、
ワシントン大学で詩の美術学修士を取得。
文学作品と科学ジャーナリズム作品を執筆している。
ワシントン大学で詩の美術学修士を取得。
文学作品と科学ジャーナリズム作品を執筆している。
登録情報
- 出版社 : 草思社 (2012/5/24)
- 発売日 : 2012/5/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 413ページ
- ISBN-10 : 4794219008
- ISBN-13 : 978-4794219008
- 寸法 : 13.8 x 2.9 x 19.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,020,913位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,895位人工知能
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年10月6日に日本でレビュー済み
読み物として面白かったです。
機械(と人間)がどれだけ上手く会話して、
相手に自分が「人」だと思わせることができるかという
チューリングテストの大会であるローブナー賞に出場することから始まる日記のような本。
著者の連想をたどって、次から次へと話題が移っていきます。
一つ一つはエピソード紹介といった程度で、まとまっていない印象も受けましたが、
連想が種々のトピックに飛んでいく様子は、
それこそ「人」の会話を表しているのかも。
機械(と人間)がどれだけ上手く会話して、
相手に自分が「人」だと思わせることができるかという
チューリングテストの大会であるローブナー賞に出場することから始まる日記のような本。
著者の連想をたどって、次から次へと話題が移っていきます。
一つ一つはエピソード紹介といった程度で、まとまっていない印象も受けましたが、
連想が種々のトピックに飛んでいく様子は、
それこそ「人」の会話を表しているのかも。
2016年1月8日に日本でレビュー済み
人工知能の草分けであり、情報理論の基礎を築いたクロード・シャノンはのちに妻となるメアリー・エリザベスと職場で出会った。場所はベル研究所。1940年代。クロードは戦時暗号と信号通信に関する工学者。
メアリーはコンピュータだった。
プロローグのつかみはオッケーですね(^-^)素敵な書き出しでしょう?これで本を手にとることになりました。
「チューリングテスト」の大会を通じて著者は「人間らしさ」について考察する科学ノンフィクション。ユーモアあふれる記述で楽しめました。
1940年代当時、計算士という職業があったそうです。なので彼女はコンピュータ(^-^)
メアリーはコンピュータだった。
プロローグのつかみはオッケーですね(^-^)素敵な書き出しでしょう?これで本を手にとることになりました。
「チューリングテスト」の大会を通じて著者は「人間らしさ」について考察する科学ノンフィクション。ユーモアあふれる記述で楽しめました。
1940年代当時、計算士という職業があったそうです。なので彼女はコンピュータ(^-^)
2012年9月1日に日本でレビュー済み
チューリングテストの知識が無いまま読みました。背景の説明は丁寧で置いていかれることはありませんでした。
人間が「人間らしい」と思う出力ができる人間をめざす…というややこしいミッション、 その試行(思考)錯誤の過程がそのまま本になったみたいな内容で、話はあちこち飛びます。頭がよくて軽い人のおしゃべりっぽく、たまにこちらも立ち止まって考えたり、振り回されたりするのも一興で面白かった。も少し中身を整理してブラッシュアップすればよかったかも知れませんが、目的とか結論に一直線に行かないのが人間的(なのか)?
ストレスの少ない読書になりましたが、そのぶん、訳者の方は苦労したでしょうね。
人間が「人間らしい」と思う出力ができる人間をめざす…というややこしいミッション、 その試行(思考)錯誤の過程がそのまま本になったみたいな内容で、話はあちこち飛びます。頭がよくて軽い人のおしゃべりっぽく、たまにこちらも立ち止まって考えたり、振り回されたりするのも一興で面白かった。も少し中身を整理してブラッシュアップすればよかったかも知れませんが、目的とか結論に一直線に行かないのが人間的(なのか)?
ストレスの少ない読書になりましたが、そのぶん、訳者の方は苦労したでしょうね。
2012年7月22日に日本でレビュー済み
人間とAIが審査員相手にチャットして、どれが本物の人間かを審査員に当てさせるローブナー賞に、人間側で出場することにした著者。過去の事例を徹底的に研究して人間らしいチャットを究めてやろうと目標を立てる。
ワクワクするような出だしで、大変期待しながら読んだ。が、読み進めるとチューリングテストとはほとんど関係のない話題がどんどん増える。チェスのAI対カスパロフの話ならまだ独立した話題として読んでいて面白い。しかしつながりは、どちらもAIに関わること程度しかない。ゲーム理論、建築学、意識の統一性、実存主義、インテリジェントデザインまで出てくるともはや全く関係がない。「人間らしさ」というテーマで見ればまだ繋がりはあるが、中盤以降はその繋がりすらルーズなメタファー以上のものではなくなる。たとえば可逆/非可逆圧縮の話。最初は動画やmp3の圧縮をゆるーく説明するのだが、そのうち会話や批評も非可逆圧縮だと言い始める。会話はふつう要点を絞って話されるし、批評には元の作品の要約が含まれているということだろうが、それを圧縮と呼ぶなら何でも当てはまってしまうのではないか。で、会話を非可逆圧縮だといってどんな理解が進むのかはよくわからないまま。
意味不明としか言いようのない表現も少なくない。こんな感じ。
”エントロピーという概念は、ハードディスク領域や帯域幅といった、感情とは無関係な物体ばかりに関係するものではない。データ転送とはコミュニケーションであり、高エントロピーとは体験である。ハードディスクの「サイズ」と「容量」のあいだの、ほとんど矛盾した領域に情報エントロピーは存在する。一生涯の「サイズ」と「容量」のあいだの領域に人生は存在するのである。”
ワクワクするような出だしで、大変期待しながら読んだ。が、読み進めるとチューリングテストとはほとんど関係のない話題がどんどん増える。チェスのAI対カスパロフの話ならまだ独立した話題として読んでいて面白い。しかしつながりは、どちらもAIに関わること程度しかない。ゲーム理論、建築学、意識の統一性、実存主義、インテリジェントデザインまで出てくるともはや全く関係がない。「人間らしさ」というテーマで見ればまだ繋がりはあるが、中盤以降はその繋がりすらルーズなメタファー以上のものではなくなる。たとえば可逆/非可逆圧縮の話。最初は動画やmp3の圧縮をゆるーく説明するのだが、そのうち会話や批評も非可逆圧縮だと言い始める。会話はふつう要点を絞って話されるし、批評には元の作品の要約が含まれているということだろうが、それを圧縮と呼ぶなら何でも当てはまってしまうのではないか。で、会話を非可逆圧縮だといってどんな理解が進むのかはよくわからないまま。
意味不明としか言いようのない表現も少なくない。こんな感じ。
”エントロピーという概念は、ハードディスク領域や帯域幅といった、感情とは無関係な物体ばかりに関係するものではない。データ転送とはコミュニケーションであり、高エントロピーとは体験である。ハードディスクの「サイズ」と「容量」のあいだの、ほとんど矛盾した領域に情報エントロピーは存在する。一生涯の「サイズ」と「容量」のあいだの領域に人生は存在するのである。”
2013年8月12日に日本でレビュー済み
本書は,科学と哲学についてのノンフィクションライターである著者が「人間らしさとは何か」をテーマとして書いた本である。著者自身によれば「本書は人生について記したものである」(29頁)。具体的には,チューリングテストにさくら役として参加することになった著者が,「もっとも人間らしい人間」賞を獲得するために「人間らしい」とはどのようなことなのかを様々な角度から考えていくというものだ。
著者がチューリングテストにさくら役として参加することが決まったところから話は始まる。チューリングテストとは,まるで生身の人間であるかのように会話できるチャット・プログラムを競い合うというテストである。つまり,チューリングテストとはコンピュータが「人間に似ている」のか「人間に似ていない」のかを見極めようとする試みなのだと言える(61頁)。しかしながら,サクラ役としてテストに参加した著者の目的はそれとは異なる。著者の目的は,本物の人間が自分を「本物の人間である」と審査員に信じさせられる会話を展開することである。では,人間らしい会話とはどのようなものなのだろう?
本書では,非常に多くのテーマを扱いながら「人間らしさとは何か」を考えていく。魂と心,チェスの定石,合理的経済人にデータ圧縮など。これらの幅広いトピックを通じて,「人間らしさ」を形作っていると著者が主張するものは大きく二つあるように思える。一つ目は,全体を通じての統一感や人間としての一貫性である。チューリングテストでは,相手が人間かどうかを判断するための手掛かりは文字を通じた会話しかない。その会話の一部を取り上げたときに,その部分がどれほど「人間らし」かったとしても,全体的な統一感に欠けているとそれは人間らしい会話とは言えない。「人間らしいとは(...)一つの視点を持つ特定の人間であるという(51頁)」ことであり,「人間らしさの断片を寄せ集めたところで,人間らしくなれるわけではない(54頁)」のである。言い換えると,多くの知識を持っていたり言語の仕組みに精通していたりしても人間らしい会話はできないということだ。日常的に目にする文章を理解するためには語彙や文法の知識を持っているだけではなく「世界の仕組み」を理解している必要があるのである(95頁)。
二つ目に,状況に応じた対応力(=どれだけサイトスペシフィックに対応できるか)が人間らしい会話を成り立たせているというのである(117頁)。言い換えると「会話の定石を用いた会話」は会話っぽくならないということだろう。著者のことばを借りれば「具体的な会話の「メソッド」を教えてところであまり役に立たず,営業マンやナンパ師や政治家の言葉が人間味に掛けるのは,そのせいでもある(130頁)」ということだ。就職活動の面接での会話を思い浮かべるとこの指摘にはうなずけるのではないだろうか。
本書はあまりにも幅広いテーマが扱われているため,とりとめがない印象を受けることは否めない。それでも,読み進めていくうちに,その部分が本論と関係することがわかってくる。しかし話が唐突な感じがして読みにくいという印象は受けるかもしれない。それと関係して,本書のテーマとの関係性が見えにくいために,何を主張したいのかが分かりにくい部分も少なくないように思う。10章の「人間らしさとデータ圧縮の関係」を述べた箇所は理解しにくい。また比喩がわかりにくく比喩の役割をはたしていないと感じる記述も多い。しかし,読みにくいところはそのまま読み飛ばしてしまっても概ね全体を理解するのに支障はないかもしれない。
著者がチューリングテストにさくら役として参加することが決まったところから話は始まる。チューリングテストとは,まるで生身の人間であるかのように会話できるチャット・プログラムを競い合うというテストである。つまり,チューリングテストとはコンピュータが「人間に似ている」のか「人間に似ていない」のかを見極めようとする試みなのだと言える(61頁)。しかしながら,サクラ役としてテストに参加した著者の目的はそれとは異なる。著者の目的は,本物の人間が自分を「本物の人間である」と審査員に信じさせられる会話を展開することである。では,人間らしい会話とはどのようなものなのだろう?
本書では,非常に多くのテーマを扱いながら「人間らしさとは何か」を考えていく。魂と心,チェスの定石,合理的経済人にデータ圧縮など。これらの幅広いトピックを通じて,「人間らしさ」を形作っていると著者が主張するものは大きく二つあるように思える。一つ目は,全体を通じての統一感や人間としての一貫性である。チューリングテストでは,相手が人間かどうかを判断するための手掛かりは文字を通じた会話しかない。その会話の一部を取り上げたときに,その部分がどれほど「人間らし」かったとしても,全体的な統一感に欠けているとそれは人間らしい会話とは言えない。「人間らしいとは(...)一つの視点を持つ特定の人間であるという(51頁)」ことであり,「人間らしさの断片を寄せ集めたところで,人間らしくなれるわけではない(54頁)」のである。言い換えると,多くの知識を持っていたり言語の仕組みに精通していたりしても人間らしい会話はできないということだ。日常的に目にする文章を理解するためには語彙や文法の知識を持っているだけではなく「世界の仕組み」を理解している必要があるのである(95頁)。
二つ目に,状況に応じた対応力(=どれだけサイトスペシフィックに対応できるか)が人間らしい会話を成り立たせているというのである(117頁)。言い換えると「会話の定石を用いた会話」は会話っぽくならないということだろう。著者のことばを借りれば「具体的な会話の「メソッド」を教えてところであまり役に立たず,営業マンやナンパ師や政治家の言葉が人間味に掛けるのは,そのせいでもある(130頁)」ということだ。就職活動の面接での会話を思い浮かべるとこの指摘にはうなずけるのではないだろうか。
本書はあまりにも幅広いテーマが扱われているため,とりとめがない印象を受けることは否めない。それでも,読み進めていくうちに,その部分が本論と関係することがわかってくる。しかし話が唐突な感じがして読みにくいという印象は受けるかもしれない。それと関係して,本書のテーマとの関係性が見えにくいために,何を主張したいのかが分かりにくい部分も少なくないように思う。10章の「人間らしさとデータ圧縮の関係」を述べた箇所は理解しにくい。また比喩がわかりにくく比喩の役割をはたしていないと感じる記述も多い。しかし,読みにくいところはそのまま読み飛ばしてしまっても概ね全体を理解するのに支障はないかもしれない。
2012年6月16日に日本でレビュー済み
チューリングテストにまつわる話はどちらかと言うとコンピュータ側の視点から語られることが多い。本書はコンピュータと「人間らしさ」をかけて実際にチューリングテストにのぞんだ人間の著作ということで手に取ったが、残念ながら期待はずれに終わった。
実際のチューリングテストの様子やそれにのぞむ筆者の内面・思考といった経験者でなければ語れない部分は少なく、筆者が「チューリングテスト」について調べたこと、取材したこと、考えたことが取り留めもなく綴られている。個々のエピソードや引用には面白いものも散見されるが、文章としてのまとまりは悪く、考察と言うより著者の考えをただ並べているという印象が強い。正直、後半は「本書は実は機械が書いたものです」というオチが最後に待っているのではないか、という期待のみで読み進めたようなものである。
私は情報処理のバックグラウンドがあるのであまり目新しさはなかったが、「チューリングテスト」という言葉を初めて耳にする方ならひょっとしたら楽しめるかもしれない。(それでも取り留めのなさは気になると思うが...)
実際のチューリングテストの様子やそれにのぞむ筆者の内面・思考といった経験者でなければ語れない部分は少なく、筆者が「チューリングテスト」について調べたこと、取材したこと、考えたことが取り留めもなく綴られている。個々のエピソードや引用には面白いものも散見されるが、文章としてのまとまりは悪く、考察と言うより著者の考えをただ並べているという印象が強い。正直、後半は「本書は実は機械が書いたものです」というオチが最後に待っているのではないか、という期待のみで読み進めたようなものである。
私は情報処理のバックグラウンドがあるのであまり目新しさはなかったが、「チューリングテスト」という言葉を初めて耳にする方ならひょっとしたら楽しめるかもしれない。(それでも取り留めのなさは気になると思うが...)